#10 硬い塩漬け肉

 ルナさんに連れられて、台所に戻ると、食卓の上にたくさんの料理が置かれていた。


 どれもこれも見たことないものばっかり!


 嗅いだこともないい匂いが余計にお腹を空かせる。


「あれ?セイギまだ帰ってこないの?」

「どうせあいつのことだ。たまたま空いてた側溝の隙間に足突っ込んでんだろ」

「地味に痛みが分かりそうなの止めようよ」


 良いなぁー。


 お話しできるのって。


 それはそうと、ククさんはさっきから蟲語に直して伝えなくていいんだけどね。


 なんでそんなに器用なの?


「たっだいまー!!」


 大きな声が家中に響く。


 この声は昨日のお昼にも、夕ご飯の時もよく聞いた。


 セイギさんが帰ってきたのだ。


 どこに出かけていたのかは知らないけど。


「朝メシ何?」

「それよりも早く風呂入れ」

「いや朝メシ……」

「目玉焼きとベーコンとキャベツ!早く入れ!」

「へいへーい」

「返事は一回!」


 ククさんとセイギさんって出会う度に喧嘩してるなー。


 結構仲が悪いんだろうなぁ。


 ちなみに朝ごはんはククさんから聞いたけど、目玉焼きとベーコンって名前の薄くて長いお肉。


 目玉焼きって名前だけど目玉では無いらしく、本当はニワトリの卵の中身をそのまま焼いた食べ物らしい。


 どれもこれも美味しいし、幸せだなぁ。


「あっ、そうだ。言うの忘れてたけど、今日お泊まり会するから、晩ご飯作れないよ?」


 ユリちゃんが何か言った瞬間、なぜかさっきまで明るかったカイくんの笑顔が無くなった。


 ルナさんだけはなぜかニコニコだけど。


「そ、そうなんだ……楽しんできてね。こっちはみんなで晩ご飯作るからさ」

「ふふふ、久しぶりに私の手料理を振る舞う時が来たのね……腕がなるわ……」

「久しぶりだな、団長の飯」


 変な笑顔で話すカイくんと、小声で何かを言っているルナさん。


 そしてなぜかすごく嬉しそうなククさん。


 その三体以外はみんなそろって何がなんだか分からない様子で見ている。


 なんだかすごく嫌な予感がする。


あっ、そういえばリズ【そういえばリズのことなんだが、今日のことなんだが、今日からクロスさんのとこからクロスさんのとこに行くことになったかに行くことになったから】


 ……え?


【ちょっとククさん!そんなの聞いてないよ!】

【今言ったからな】

【そうじゃない!】


 え?早くない!?


 昨日の今日だよ?!


【まぁ安心しろ。クロスさんは……うん。大丈夫なはずだと思うから】


 いや心配しか勝ちませんけど!?


 蟲語って基本詰まることないよね!?


 せめて心の準備をさせて欲しいよぉ……。


 明後日あたりに変えてもらおう!


【ねぇククさん】

「灰も一緒に行くか?どうせお前も総合センター行くんだろ?」


 こっちの話も聞いてよ!!


 くそ!蟲語の弱点だよこれ!


 カイく――ってこっちは蟲語通じねぇ!


 こんちくしょう!


 あたしの事なのにあたしが話すことが出来ないじゃんか!


「うんわかった!善は急げだからね。ご飯食べて着替えたらすぐに行こっか」


 カイくん……何言ってるか分かんない。


 楽しかった朝ごはんが冷めてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る