#9 言葉紡ぎ

 夢か……。


 良かった、いや良くないかも。


 いや、良いんだ、別に。


 あの続きを見なくて良かったんだ。


 そういうことにしよう。


 ってかそれよりも、さっきからうるさいこの音は何?


 上からかな?


「天ァァァ?!」

『ごめんごめん!すぐ消すから!』


 誰かが大きな声で叫んでる。


 何があったのかな?


 ゆっくりと扉を開けた。


 とってもいい匂いが流れてきた。


 何この匂い!これまでいだことない!


 お肉かな?でも少しだけ違う気がする。


 すぐに部屋を飛び出て、一階まで飛び――降りると怒られる気がしたから階段を急いで降りた。


 匂いがしているのは台所からみたい。


 ゆっくりと台所に近づいて、こっそり覗いてみた。


 そこには白色の長くてフワフワした髪をしている女の子――ユリちゃんが立ってた。


 鼻歌を歌いながら何かを焼いてる。


 そしてその隣に後ろの毛だけ長い灰色の髪をした男の子(?)――カイくんがお皿に料理を盛り付けてた。


 こっちも同じような鼻歌を歌っている。


「あ、リズちゃんおはよ――じゃなくて」


 ユリちゃんがこっちに何か言ってるかと思ったら、両手をこっちに向けた。


【おはようございます】


 蟲語だ!


 ククさんだけじゃなくてユリちゃんも喋れるんだ!


【おはようございます!昨日の晩ご飯とっっっても美味しかったです!どうやってあんな美味しいご飯を作ってるんですか!?】

「えっとその……ちょっと待って」


 あ、またやらかしたかも……。


 ククさんやルナさん、カイくんもそうだけど、あたしに合わせて言葉を使ってくれてるのに、あたしは全然気遣きづかってあげられてない。


 神語ってどうしたら……。


「ふあぁ〜……おはよー」

「あっ!クク〜!」

「ん?何?」

「その、通訳をお願いしたくて……」


 いつの間に降りてきていたククさんに向かってユリちゃんが何かを喋ってる。


 やっぱり神語の勉強しないと、全然お話しできない……!


「え〜メンドクセェー」

「そう言わないでよ〜」

「わかったわかった」【とりあえずリズ、こっち来い】


 ……?


 どうしたんだろ


【はい、わかりました】


 ククさんはそれだけ言うと、裏口の方へ歩いていく。


 それを追うと、そのまま庭に出てすぐの場所だった。


 ククさんが大きな白色の建物の戸を開けると、そのまま中身をあさっている。


 何か探し物かな?


「お!あったあった」


 ククさんはボロボロの箱の中からひとつの本を取り出した。


 それを懐かしそうに眺めている。


【それってなんですか?】

【これはな、灰がうちに来た時に言葉を教えるのに使った絵本だな】

【カイくんも?】

【まぁそこら辺は本族に聞け】


 なんか適当に避けられた感じがする……。


 その後、ククさんと一緒に居間に戻って絵本を読み聞かせてくれた。


 何回も失敗してるのに諦めないで何回も教えてくれた。


 そしてついに!


「おはよーございます!」

【結構形になってきたな】

【本当に!?】


 やったー!


 ものすごく難しかったけど、朝の挨拶は攻略したぞー!

 

「おっはよー!」


 上の階から大きな朝の挨拶が聞こえてきた。


 上を見ると、ルナさんが飛び降りてくるのが見えた。


 そのままキレイに着地する。


「飛び降りんなよ。埃舞う」

「いやー朝からパワーが漲っちゃってね!」

「元気そうでなにより」

「リズちゃんもおは――あっ、ごめん……」


 ルナさんはあたしが神語を話すことができないと思っているらしい。


 よし!驚かせてやろう!


「お、おはよーございます!」


 どうよ!あたしの神語の腕前は!


「今のリズちゃん?」


 思いっきり首を縦に振る。


「すごい!神語ペラペラじゃん!リズちゃんもしかして天才だったりして!」

「まだそれほどじゃな――グフッ……!!」


 何か言おうとしたククさんの腹にルナさんの肘打ちが入る所をしっかり見たけど、黙っておこう。


「うぅ……まぁ確かに物覚えは結構早いとは思うぞ……教え始めてから十分も経ってないからな」

「すごいね〜♪リズちゃん偉いね〜♪」


 ルナさんはあたしのことを強く抱きしめた。


 ルナさんの心臓の音が聞こえてくる。


 ……すごくいい匂い。


 あと柔らかい。


 あたしも成年になったらこれくらいになるのかな。


「ごはんできたよー!」

「はーい!今行くー!」


 カイくんの声がルナさん越しに聞こえると、ルナさんの声が直接頭の中に響く。


 ちょっと……苦しいな。


 息ができる方法を探した結果、なんとか顔を上に向けることが出来た。


 その時、ルナさんと目が合った。


 キレイな黒色の目にあたしの顔が映っていた。


 ルナさんはあたしの顔を見ると、少しだけ歯を見せるように笑った。


「リズちゃんも一緒に食べよ♪」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る