#6 夜の談話

「フゥー、やっと終わりましたか〜」


 黒いローブに全身を包み、トカゲとも、鳥とも言い難い白色の仮面を付けた者、クロス・アルファベットがパソコンの前で椅子にもたれ掛かりながら伸びをする。


 彼が居るのはシシュウ総合センターの執務室であった。


「お疲れ様です。クロス先生」


 そう言いながら白衣を着た神族がクロスの仕事机にコーヒーを置く。


「あら、館山たてやまくん。まだ居たんですか?」

「アンタが知らない間に俺もお偉いさんになりつつあるんだよ」


 館山は笑いながら隣の椅子を引いて座り込む。


「いやぁ、そんなに時が経ったのですね〜。カッコつけて髭なんか生やしちゃって」

「ほっとけ……って言っても確かにアンタは俺が産まれた瞬間から見てんだもんなぁ」


 館山はコーヒーをすすりながら言葉をこぼす。


 クロスもコーヒーを啜っている。

 どうやって飲んでいるのか?と毎回疑問に思う館山だが、突っ込むのも飽きたので無視する。


「それで……アンタこの数年間何やってた?」

「少々白夜国に用がありまして、しばらくそこに滞在しておりました」

「本当は何かもっと凄いことやってんじゃねぇのか?」


 館山の質問に対してクロスは笑う。


 しかし、館山は確信していた。


 クロス・アルファベットともある存在が何もせずにこの数年間を過ごしているわけが無いと。


「ワタクシは確かに族脈こそありますが、世界を揺らすほどではないですよ。買い被りすぎです」

「アンタほどの族がただただの変わり目を迎えるわけがねぇだろ」

「……もうそんなに経つのですね〜」


 クロスは窓の外に映る眠らない街を眺めている。


「いいのか?また起こるんだぞ」

黒白神戦こくびゃくしんせん……ですか」

「そうだ。あと十年も無いんだぞ。その上、白銀の使徒も現れていない」

「でしたら別の大陸では?」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ!今回はこれまでとは違う!最後の最後、二十四回目だ!これに負けたら俺たちは――」


 声を荒らげる館山を制するようにクロスは人差し指を口に当てる。


「子供たちが起きてしまいますよ」

「でも……!」

「大丈夫。きっと現れ、我々を救ってくれますよ」


 クロスは飲み干したコーヒーカップを机に置き、座っていた椅子を元に戻す。


「ではまた明日、良い子なんですから、ちゃんと寝るんですよー」


 そう言いながらクロスはその場を後にした。


 取り残された館山は小さく笑うと椅子に深く座り込み、昔を思い出す。


 そこには幼い頃から出会うことの多かったクロスの姿があった。


「変わらねぇなぁ……」

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