第12話 真夏の九十九里浜へ泳ぎに行ったら海に入って1分後、思わぬ事態にとんぼ返りした話

 俺がまだ20代の頃、友人の金堂くんと海水浴に行った時の話さ。


 日曜日に奴から電話があり、暑いから九十九里浜へ泳ぎに行こうぜ!って話が来たのよ。


 って訳で俺は水着を持って奴の車に乗って2人で九十九里浜へ向かったのさ。

 出発したのがもう昼頃だったから、一般道をぶっ飛ばして行ったよ。

 夏の休日、海に向かう高速道路は渋滞するから、混まないルートを俺が指示して快調なドライブだった。

 俺は道や地理に明るいんでね。


 「ビキニ👙のお姉ちゃんとか、ナンパアタックしようぜ!」


 道中、金堂くんはゴキゲンに軽口たたきながらアクセル踏み込んでいた。


 …九十九里浜の海水浴場に着いたら、早速俺たちは海の家で水着に着替えて渚へ走った。

 浜にはビーチパラソルがあちこち立ってて、若いお姉ちゃんらが寝転んでる姿が目に入った。


 ところで金堂くんは極度の近眼、確か運転中は眼鏡をしていた。

 奴は今、俺の前を全力で打ち寄せる波に向かって走っている。

 そしてひと足先に飛び込むように海に入り、ザパーン!と波をかぶっていた。

 

 そして俺に振り返った奴の顔には、眼鏡は無かった。

 …すると奴は腰を落とし、波がサーッと引くと足元周りを手で探る仕草を見せた。……まさか!?


 「眼鏡が波にさらわれた!…」

 やはり金堂くんはそう叫んでいた。


 しかし次々と寄せては返す波にさらわれた眼鏡をこの海の中で回収するのはもはや不可能だ。

 …俺がそう言うと、奴は素直に頷き

 「海の家に置いたポーチにコンタクトがあるから付けて来る!」

 と言って、歩いて海の家に引き返して行った。


 俺はその間、波打ち際の海水に身体を浸しながら待っていた。


 しかしその後5分10分と経っても金堂くんは戻って来なかった。

 どうしたんだろ?…と思って俺も海の家に向かってみると、奴は何と砂浜の真ん中で膝をついて指で砂をあさっていた。


 「コンタクトを付けてこっちへ走ったら、途中で目から落ちちゃった…」

 奴は哀しげに俺に呟いた。


 しかしこの広い海水浴場の砂浜に落ちたコンタクトを見つけるのも、それはもはや絶望と同じことだ。


 「お兄ちゃん、どうしたの〜?」

 2人で砂をあさってると、子供が寄って来た。

 「わーっ!! 来るなーっ!」

 たまらず金堂くんが叫ぶ。


 「いや無理だろ?…こりゃ砂漠でダイヤ見つけるようなもんだぜ!」

 俺がそう言うと、

 「明日バイトが入ってるから、今日中に眼鏡かコンタクトを何とかしないと!」

 奴が困った顔をして言った。

 「じゃあどうする?」

 俺が訊くと、

 「松戸にいつも買ってる眼鏡店があるから今から向かえば何とかなると思う!…けど夜7時に閉まっちゃうんだ」

 金堂くんが答えた。


 って訳で俺たちはもはや海水浴もビキニ👙美女ナンパも諦め、海の家で服を着て、とんぼ返りの車をスタートさせた。

 眼鏡もコンタクトも失った金堂くんは運転出来ず、俺がハンドルを握る。


 九十九里浜から夜7時までに松戸に必着しなけりゃならないとなると、かなりぶっ飛ばして行かねばならない。


 「結局、俺たち2人で海に入ったのって、1分くらいだったな…」


 日の暮れて行く千葉の田舎道をそう言って苦笑いしながら、俺はアクセルをグッと踏み込んで行った。




 という話でした。


 

 

 


 

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