第11話 雪の蔵王山頂からスノーボードで颯爽と滑り出した俺がいきなりハードボイルドの波に呑まれて行った話②

 …って訳で俺は何も見えないブリザードの中を慎重に一歩づつ進んで行った。


 激しく吹き付ける風雪が顔に痛い!


 それでもしばらくすると、白く霞んだ視界の中からうっすらとロープウェイ駅の壁が現れて来た!


 (やれやれ…!)

 ホッとした俺は身体にひっ付いた雪を払い、他に誰も乗る者のない下りのロープウェイに乗った。


 ところがロープウェイが動き出し、山頂からずんずんと下り始めると、急にブリザードは収まり、にわかに風雪が穏やかになると、視界が開けて白いゲレンデを滑るスキーヤーらの姿が前方に見えて来たのだ。


 (何だよ!…山の天気は本当にくるくる変わるなぁ……となると、このまま下まで降りるのもカッコ悪いし、もったいなくないか?)

 俺は眼下のゲレンデを楽しそうに滑るスキーヤーらの景色を眺めながらそう思ったさ。


 結局俺は、ロープウェイを途中駅(ゲレンデ上)で降り、再びスノーボードを装着した。

 ここからなら、山頂付近より傾斜があるので、さすがにボードはちゃんと滑ってくれるはず、ブリザードも消えたし軽快に駆け降りてやるぜ!…と気合を入れたのさ。


 と言ってもゲレンデ中央部はスピードかっ飛んでるスキーヤーがビュンビュン来るので、ゲレンデの端っこの方から俺はプチ颯爽と滑り出した。


 ボードは段々と加速して良い感じに滑って行く。

 しかし最初のターンをしようと、後ろ足をスライドさせ体重をかけた時、


 「バキッ!」


 と足元で音がして俺はバランスを崩し背中から派手に転倒した。

 …雪面にけっこう激しく後頭部をぶつけたので一瞬クラクラしたが、頭を振って意識を取り戻し、何が起こったのかとボードを見てみると、右足を固定する金具の所の部材が欠けてしまっていた。


 「こりゃ〜ヤバイ状況じゃん⁉」

 …両足をしっかり固定出来なければ、スノーボードは滑走不可能だ。


 それでも一応左足だけ固定した状態でボードに乗ってみたが、当然ターンはおろか板を操ることは全く出来ず、危うくゲレンデからコースアウトして木立ちの沢へと落ちそうになり、慌てて自ら転倒して止まった。


 って訳で全てを諦めた俺は、ボードを外し、ゲレンデの端を歩いて下へ降りることにした。…無念だ。


 板を外したスノーボード靴でゲレンデを下るのはしかし思った以上に歩き辛かった。

 脇を見ればみんな楽しそうにシュプールを描いてスキーヤーもボーダーも雪をしぶかせながら駆け下って行く。

 …無念だ。

 滑り降りれば下まであっという間だけど、ボードを抱えて歩くとなるとかなりの距離だ。


 冬季五輪で転倒して棄権となったスキー選手なんかもきっとこういう気持ちなんだろうなと思った。


 って訳で無念にうなだれつつヘロヘロヨレヨレになってようやくゲレンデ下のレストハウスに辿り着いてみたら、何故か会社の仲間たちが驚いた様子で俺を待っていた。


 すると金堂くんが泣き出しそうな顔をしていきなり俺に抱きついて来た。

 (えっ、何ナニ何があった!?)

 俺が当惑すると、

 「森緒!…よく戻って来た、良かった!…山頂から滑って降りたらお前が居ないから、どうしたのかと皆で心配したんだ!…振り返って見たら山頂の天候が急変して荒れ模様みたいだったし、…だから少しして皆でもう一度ロープウェイで上がって山頂からお前を探しながら何度もコースやゲレンデを滑ってみたんだけど、見つからないから…コレは相当ヤバイことになったんじゃないかと思ったんだ!…無事でホッとしたよ、うぅっ……」


 しかし金堂くんには悪いがこの時俺が思っていたのは他のことだった。


 (壊れたスノーボード、レンタル先からまさか弁償しろとか言われたらどうしよう…⁉)


 しかし結果を言えばレンタル先からは逆に、壊れるようなボードをレンタルさせたことをお詫びする言葉を頂いたのだった。

 考えてみりゃそりゃそうだよな、ボク悪くないもん。

 滑らず壊れるボードってダメなやつじゃん!

 責任者出て来〜い!



 …というお話でした。



 第10〜11話   完



 



 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る