第10話 雪の蔵王山頂からスノーボードで颯爽と滑り出した俺がいきなりハードボイルドの波に呑まれて行った話①

 これももう27年くらい前の話だな。


 勤めていた会社で、冬に週末スキーツアーの企画があったのさ。


 行き先は山形蔵王スキー場、俺は同僚たちに誘われて半ば強引に参加させられたんだ。


 って訳で参加者十数人を乗せ、夜行マイクロバスで千葉県松戸市の会社から山形のスキー場へと俺たちは移動したのさ。

 宿の泊まりは無くて朝から夕方まで一日だけのゲレンデツアーだった。


 現地に到着して見ると、朝からすでにゲレンデはスキー客らで賑わっていた。


 俺は板を持っていなかったので、まずはレンタルのコーナーへと向かった。

 すると同僚の金堂くんが、

 「どうせレンタルするんなら、今日はスノーボードやろうぜ!」

 と言って来た。


 正直俺はスノーボードはまだ初心者のレベルだったけど、それなら今日いっそのことちゃんと滑れるようになって帰ろう!と思って金堂くんの誘いに乗ったのよ。


 って訳でスノーボードを借りた俺は金堂くん他スノーボード組5人くらいと一緒にロープウェイに乗ってゲレンデ上へと向かった。

 ロープウェイはゲレンデ上に一つ、さらに上方の蔵王山頂にも駅があるけど、とりあえずはゲレンデ上の所で降りて、そこから皆で滑り出した。


 俺はまだ何とかターンが出来るようになったレベルの初心者だから、他の奴らのようなスピードで滑れず、周りをビュンビュン駆け降りるスキーヤーらが怖い!


 それでも午前中必死にズリズリと滑るうちに、ようやくスノーボードを操るコツみたいな感覚をつかみ、何となく格好がつくようになって来た。


 「…午後はロープウェイで山頂まで行って、皆で一気に下まで滑ってみようぜ!」


 昼食をゲレンデ下のレストランで摂っていると、金堂くんが勢い込んで言った。

 スノーボード組のみんなも力強く頷く。

 山頂駅は標高1600メートル以上あるのでかなり滑りがいがあるコースだ。


 …って訳でランチを素早く済ませると、俺たちはスパスパとロープウェイに乗り、ズンズンと蔵王山頂に上がった。


 ロープウェイが上昇するにつれ、寒さが増し、霧がかぶって来て、山頂駅は雪が濃く舞っていた。


 スノーボード組は素早く板を装着すると、駅の裏側から始まる林間コースを滑り出す。

 俺もみんなに続いて雪の中を颯爽とスタートした。


 林間コースは始めは傾斜が緩やかだった。

 スルスルと滑り出した俺のボードはしかし、なんてこった!コースの途中で何故かピタッと止まってしまった。

 「あれ?…」

 思わず呟くうちに仲間たちは雪の中へと視界から消えて行く。


 仕方なく、いったんボードを外し、裏側を覗いたりして再装着してみたが、やはり滑らない。


 すると急に雪と風がドワー!と強く吹き荒れ、激しいブリザードが俺を襲って来た。

 一瞬にして周りはホワイトアウト状態になり、視界は閉ざされ、針のような冷たさ非情なる寒さが激しく俺を攻撃して来たのだ。


 (う〜む……これってかなりヤバイ状況じゃん?…このままこんな所で止まってたら…)

 俺は八秒くらい思案した後、ボードを外し、脇に抱えて視界ゼロのブリザードの中、勘だけを頼りにロープウェイの駅へと引き返すことにした。


 …まだ駅からはせいぜい200メートルと離れていないはず、足元に注意しながら俺は自分の方向感覚を信じて一歩一歩慎重に進んで行った。



 って訳で以下②へ続く!


 

  


 


 


 

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