第9話 俺がまだいたいけな小学生だった頃、お姉ちゃんを守った唯一の武勇伝の話
もう遠い昭和の昔の、俺がまだ可愛い小学3年生か4年生だった頃の話さ。
母親フミの商売が忙しかったんで、当時ウチには親戚筋の若いお姉ちゃんが住み込みで働いてくれてたのさ。
家のお風呂にも入ってたし、ご飯も一緒に食べていたから全くの家族メンバーだったね。
俺はまだいたいけな子供だったから、そりゃあもうまるで弟のように可愛がってもらってたさ。
特に俺に優しくしてくれたのが、当時17才くらいだったヒサコちゃんだった。
彼女は地元新潟の中学を卒業後、間もなくしてウチに呼ばれて来た人だったのさ。
そんなヒサコちゃんが、日曜日のお休みの日に、俺を遊園地に連れてってくれたことがあった。
季節は確か夏の頃だったな。
もちろん俺は大喜びさ。
観覧車やコーヒーカップ、豆汽車ジェットコースターなど乗ってゴキゲンの俺に、さらにソフトクリームなど2人で食べて楽しい時間を過ごした。
そしたらヒサコちゃんが、
「あっ!お化け屋敷があるよ!」
と言って園内の片隅を指さした。
夏だからの季節営業なのか、破れ提灯やだらだら血糊模様のオドロオドロしい崩れかけたような粉飾の建物がそこにあった。
…怖がりの子供だった俺は正直そこへ入るのは気乗りがしなかったが、ヒサコちゃんの顔を見れば、キラリ眼のワクワク顔になっているのが分かった。
「うん、面白そうだから行ってみようよ!」
俺は無理に笑顔を作って応えていた。
お化け屋敷の中は、当然ながら暗くて、順路のところどころで赤い照明や青い照明が差して造り物の人魂が飛んだり、骸骨が浮かび上がったりして、場内のあちこちから女性客の悲鳴や叫びが聞こえていた。
そんな中、俺は顔をひきつらせながら進んで、あともうそろそろで出口かなと思ったところで、順路右側の古井戸の陰から白装束の幽霊がヌラッ!と現れたんだよね。
ざんばらの長い髪を垂らして顔が見えない貞子みたいな幽霊だった。
「キャーーーッ!」
「わーーーーっ!」
ヒサコちゃんと俺は同時に絶叫して、俺はダーッ!と順路の先へと逃げた。
しかし、ハッ!として振り返ると、幽霊は後ずさりするヒサコちゃんに手をだらりと垂らしてジリジリと迫っていた。
「ここで逃げてちゃダメだ!ヒサコちゃんを助けないと!」
パニックになりながらも、俺はそう思い、なけなしの勇気と覚悟をもって幽霊に向かって走った。
幽霊はヒサコちゃんを怖がらせることに気を取られ、俺のダッシュには気付いてない様子だった。
「今だ!」
俺は思いっきりジャンプして幽霊に飛び蹴りを喰らわした!
次の瞬間、空中で伸ばした俺の右足が幽霊の腹に思いっきり食い込んでいた!
「ぐふッ!」
幽霊は身体を折ってうずくまった。
「えっ⁉」
ヒサコちゃんは小さく叫んで驚いていた。
「うぅ……勘弁してよ、もぅ…」
幽霊は呻くように言った。
「えっ⁉ 男?」
俺は女の幽霊だとばかり思っていたので声を聞いてちょっと驚いた。
「大丈夫?…」
何故かヒサコちゃんが幽霊に話しかけようとしたので、俺は必死に叫んだ。
「ヒサコちゃん、この隙に逃げるんだ!行こうっ!」
俺はヒサコちゃんの手を引っ張って、出口へと走った!
…お化け屋敷から外へ出ると、俺は大きく息を吐いて、ヒサコちゃんに泣きそうな顔で言った。
「ボク、本当はすごく怖かったけど、ヒサコちゃんを助けなきゃと思って、夢中で…あのお化けをやっつけたんだ!…良かった、やっつけられて」
ヒサコちゃんはまだ不安げにお化け屋敷の方を見てたけど、俺の言葉に頷くと、頭を撫でてくれた。
「うん、ありがとう助けてくれて…カッコ良かったよ!」
その言葉で俺は嬉しくなり、最後は2人笑顔になって遊園地を後にしたんだ。
…これがまだ幼い小学生だった俺の、唯一の武勇伝なのさ。
ってお話でした。
第9話 完
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