第7話 旅の宿で寛ぐサクラザワ君が理不尽な受難に見舞われた泣きの涙の話②

 福島県いわき湯本温泉、社員旅行の宿での目覚めは意外にも爽やかだった。

 布団から上体を起こして見ると、隣りにヒラヤマ君の姿は無かったが、布団は乱れてはいなかった。

 (…朝風呂にでも行ったのか?)

 と思いつつ、腕時計を見れば7時を少し回ったところだ。


 起き上がって宿のタオルを手に、俺も朝風呂に行こうとしたら、サクラザワ君も目を覚ましたらしく、布団の上で大きく伸びをしていた。


 「サクラザワ君おはよう!…俺は朝メシ前に温泉に浸かってくるよ、君はどうする?」

 そう声をかけると、

 「…う〜、僕はちょっと煙草吸って寛いでから行きますよ」

 アクビをしながらそう言うので俺は先に風呂に行くことにした。


 …温泉の朝湯は心地良かった。

 大きな浴槽で身体を伸ばすと、じんわりと全身があったまり、昨夜のアルコールが抜けて気分もスッキリして行く感じがした。

 他の社員とも浴槽で顔を合わせ、「おはよう」とリラックスしながら言葉を交わす。温泉ってやっぱり良いなぁ!…と思ったが、その後俺が風呂から上がり、脱衣場で服を着る段になっても、サクラザワ君は朝湯に姿を見せなかった。

 (まさか、二度寝しちゃったのか?)

 とちょっと心配しながら部屋に戻った。


 しかし、部屋に入ってみたら、サクラザワ君は何故か窓ぎわの座椅子でグッタリしていた。

 「朝風呂、入るのやめちゃったんだ?」

 そう声をかけると、サクラザワ君はグッタリしたまま応えた。

 「違うんです!…ちょっと聞いて下さいよ、大変だったんですから!」


 サクラザワ君の言ったところによると…。

 

 俺が風呂に行ってから少しして、旅館の仲居さんが部屋にやって来て、

 「おはようございます、お布団を上げさせて頂きますね〜!」

 とサクラザワ君に言って作業を始めたと。

 

 サクラザワ君の布団、俺の布団と順番に片付けて行き、最後にヒラヤマ君の布団に手をかけ、掛け布団をめくった時だった。


 「あらっ!?…」

 仲居さんが声を上げた!


 当然ながらそこには昨晩のヒラヤマ君のゲ◯があったのだ。…それも敷布団の両端にである。

 しかしもちろんそれはサクラザワ君には預かり知らぬことだった。


 「お客さ〜ん、困りますよ〜…!」

 仲居さんはサクラザワ君を見て嘆くように言った。

 「えっ!…あっ、いやそれ僕じゃ無い…」

 事態に気付いたサクラザワ君がそう言いかけた時、

 「申し訳無いですけど、ちょっとコレ、フロントに報告させて頂きますよ〜……はぁっ、大変だ!」

 仲居さんはさらにそう言って部屋を出て行き、ほどなくしてバケツと雑巾を持って戻って来た。


 とりあえず布団をどかし、畳にこぼれているゲ◯の掃除を始める仲居さん。

 「畳までダメにしちゃったらオオゴトだわ!…はぁっ…」

 雑巾でゴシゴシと畳を拭きながら嘆く仲居さんだったが、時々チラッとサクラザワ君の方を見ては、

 「はぁっ…」

 とため息をつく。


 サクラザワ君は窓辺の座椅子にもたれて煙草を吸っていたが、仲居さんがチラッと見てはため息を二度、三度とつくうちに、とうとう居たたまれなくなって、

 「すいません、僕も手伝います!」

 と叫んでいた。


 結局仲居さんと二人、懸命に畳の上のゲ◯を拭き取り、額に汗までして朝の寛ぎタイムは吹き飛んだのであった。

 当然、温泉の朝湯に浸かることも出来ないことになってしまった。


 「何とか畳はこれで大丈夫かしらね、お客様も手伝ってくれてありがとう!もうすぐ広間で朝御飯の時間でしょう?…その間に畳を消毒しておきますね!」

 仲居さんは額の汗をぬぐいながらホッとした顔で布団を片付け、部屋をでて行ったということだった。


 「うわ〜!…そりゃあ災難だったねぇ…」

 俺は思わずそう言ったが、あまりのことに慰めの言葉も出て来ない。

 「全く朝からとんだ迷惑ですよ…何かもう食欲も無くなったんで、朝メシはパスして僕は風呂に行こうかな!」

 サクラザワ君はそう言って、今さらながらタオルを肩に、浴場へと向かって部屋を出たのである。


 って訳で、結果としてサクラザワ君にとって今回の旅行は、崖からのジャンプに始まり、他人のゲ◯の始末で終わることになったのだった。


 …という話でした。




 第6話〜7話     完

 


 

 

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