第5話 会社帰りにフミに呼ばれた俺は渾身の旅行プランを立てたがその顛末はどうだったって話②
まぁでもあれだけしっかりしたプランを立て、列車の切符もその他の交通機関のチケットも旅館ホテルの宿泊券も全て手配して渡したんだから、さすがにトラブル無く楽しい旅をしてくれてるだろうと俺は思っていたさ。
そして一週間の後、旅から帰ったフミから俺の携帯に再び着信が来た。
無事に戻った報告と、土産を渡したいから来てくれとのことだった。
って訳で翌日、俺は妻マキと二人で実家を訪問したのさ。
「北海道鉄道旅行はどうだった?」
俺がそう訊くと、フミは
「良かったよ!…釧路湿原駅(JR釧網本線)で降りたらホームにキタキツネが居たよ!」
と笑顔で話し、サダジは
「美幌峠はやっぱり最高の景色だったな!」
と喜んで言った。
「良かったですねぇ、それじゃあフルムーン旅行はつつがなく楽しめたんですね?」
報告を聞いてマキがそう言うと、しかしフミの顔がにわかに曇った。
フミの話によると、問題は美幌峠越えのバスを降りた後に起こったとのこと。
このバスの終点は、この日の宿泊地、川湯温泉だった。到着は夕方、下車後はまっすぐ宿へ行く予定になっていた。
川湯温泉は、いわゆる一般的な温泉街という感じのものは無く、針葉樹の木立ちの中に宿が点在する、北海道らしいロケーションの温泉地なのだ。
バス停脇に大きなイラストマップで川湯温泉案内図が描かれた看板があり、フミがそれを見ていたら、
「お〜い、こっちだ!」
サダジが叫んで木立ちの中の道をずんずんと歩き始めた。
フミは慌てて後に続いた。
林間の路をサダジは後ろを振り向くこともせず、早足でサクサク歩いて行く。
しかし、10分、15分と歩いても一向に宿は見えて来ない。
「お父さん、おかしいよ!…源ちゃんがこんなにバス停から遠い宿なんか手配するはず無いよ、道を間違えたんじゃない?…何でこっちの方だって思ったのよ?」
ついにフミは立ち止まって叫んだ。
するとサダジは、
「いや、何となくこっちの道の方の先が開けているように見えたんだよなぁ…」
と答えた。
要するに毎度のことながら確たる根拠などサダジには無かったのさ。
って訳で右も左も分からぬ土地で東も西も分からなくなった二人はそれでも何とか木立ちを抜けて、畑が広がる大地へと出た。
…遠くに農作業してる人影を見つけたので、さらにそこまで歩いて行き、宿への道を尋ねたら、
「…たぶん駅の方じゃないかなぁ」
と言われ、示された方へとさらに歩いた。
JR釧網本線の駅まで二人は歩いてもはやヨレヨレのヘロヘロになり、フミはもう歩けないと言ってタクシーを呼んだ。
タクシーの運転手に川湯温泉バス停から歩いて来た旨を話し、宿の名を告げると、
「えっ!?…全然逆方向へ歩いて来ましたねお客さん!」
と驚かれた。
結局タクシーで川湯温泉の宿に到着してみると、女将さんと番頭さんが玄関にあたふたと出て来て迎えられた。
「あ〜良かった!…ほとんどのお客様が夕方のバスで来られるのに、森緒様お二人だけがお見えにならないので、もしや木立ちの中で迷って熊にでも襲われたんじゃないかと心配いたしました!…もう警察に相談しようかと今番頭と話しておりました!」
女将さんは胸をなでおろしながら二人にそうこぼしたのである。
「…全くもう、恥ずかしいやら情けないやらの宿入りだったわよ!…しかもその宿、バス停から歩いて5分のところだったのよ!」
フミはそう言って俺に嘆いてみせた。
サダジはその横で、
「まぁ、やっぱりアレだな、北海道は広いよ!」
とほざいていた。
と、そこで俺は急に思い出してサダジに訊いてみた。
「そういや親父、支笏湖はどうだったのよ?」
するとサダジはサラリと答えた。
「あぁ支笏湖!?……つまんなかった!」
…っていう話でした。
第4〜5話 完
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