第4話 会社帰りにフミに呼ばれた俺は渾身の旅行プランを立てたがはたしてその顛末はどうだったって話①
25年くらい前の話さ。
勤めを終えて帰宅途中、俺の携帯に母親フミから着信があり、「悪いけどすぐに来てほしい」とのこと。
って訳で実家に寄ってみたら、フミと父親サダジがお茶と和菓子を用意して待っていた。
「二人で隠居生活も退屈だし、あのホラ、JRのフルムーン切符ってやつで北海道に旅行に行きたいのよ、一週間くらいで!」
フミが俺にお茶を淹れながらそう言ってきた。
「…なるほど、それで俺にプランと手配を頼みたいって話かい」
俺が応えると、サダジが
「そんな大げさなことしなくたって、アレだろ?…フルムーンって鉄道乗り放題なんだろ?…そんなら来た列車に好きに乗って周れば良いじゃんか!」
と言って来た。
俺とフミは顔を見合わせたが、サダジの発言は無視して話を続けた。
「それで、北海道は何処らへんを観て周りたいの?」
俺が訊くと、サダジが
「え?…北海道ったら北海道だよ!北海道って一つしか無いだろう?島じゃんか!」
と答えた。…どうやらサダジは北海道を佐渡ヶ島と同じくらいに思っているらしい。
「あのさぁ…北海道って関東地方の何倍も広いんだよ親父!」
「北海道の中でもこの場所に行きたいってポイントを言わないとプランが立てられないんだよお父さん!」
俺とフミがそう言うと、サダジはちょっと不機嫌そうな顔になって言った。
「あっそ!…じゃあ支笏湖!」
「えっ!?…支笏湖?」
突然の言葉に驚くと、サダジは言った。
「だって支笏湖って北海道だろ?」
「いやまぁそうだけど…」
「じゃあ合ってるじゃん!」
「えっ!…合ってる…けどさ!?」
結局、サダジからは支笏湖と美幌峠というリクエストワードが出て、フミからはもう後は任せるという話になったので、それから俺はJTB版時刻表を見ながら4日間かけてプランを練ったのさ。
鉄道旅行に慣れていない年配の二人のために、俺は綿密にして程よく余裕のある北海道周遊プランを作成した。
旅程一日ごとに手書きでしおりを作り、七枚のしおりを綴じてフミに持たせた。
しおりにはその日に乗る列車、発車駅の何番線か、何号車の何番何席かまで書いて渡した。
乗り換え駅では乗り換え余裕時間も書いた。
その他、バスの時間、宿の出発時刻の指示など、キッチリ書いた。
北海道では、大都市以外の場所だと列車を一本乗り遅れたりしたら大変なことになるからね。
もちろん、サダジのリクエストに応えて支笏湖畔の宿や、美幌峠越えのバス路線などもプランに入れた。
そして、フミにプラン表としおりを手渡し、旅費を預かった俺はJTBで全ての手配を完了させた。
6月、北海道は遅い春が来て花の季節だ。…年配夫婦二人のフルムーン旅行出発の日となり、俺は妻マキと両親を上野駅までサポートし、寝台特急北斗星に乗せた。
下段ベッドに腰掛け、はしゃぐサダジと心なしか緊張顔のフミに、ホームから手を振る中、発車時刻が来てゆっくりと札幌行きブルートレインは駅を離れて行った…。
ってところで②へ続く😃
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