第11話 召喚士は試験を受ける





 魔術学校の入学試験は、魔術学校の敷地内にある広場で行われるらしい。


 入学試験の申し込みをした俺は、指定された日付と時刻をきっちり守り、魔術学校の試験会場まで足を運ぶ。


 試験会場には沢山の魔術師がいた。


 俺よりも年下の子供もいるが、中には杖を突いた老人までいる。


 意外に人が多い上、年齢幅が凄いな……。



「……よし、頑張ろう」



 この場にフィレアやカナンはいない。


 一人というのは中々どうして心細いものだが、ここで逃げてちゃ合格は叶わない。


 俺は試験官が来るのを静かに待つことにした。


 待つことしばらく。

 広場の中央に少女を伴った美丈夫がやってきて、受験者たちに号令を発する。



「これから一般枠入学試験を始める。試験官を務めるのはこの私、ロドリゴ・ハウフェン――の予定だったが、急遽変更となった」



 試験会場がざわめく。


 別に誰が試験官でも変わらないだろうに、何を騒いでいるのか。


 と思っていたら、どうにも一部の受験者たちの視線が本来の試験官だった青年の隣に立つ白髪の少女に向けられている。


 見たところ十代前半だろうか。


 黒基調のドレスのようなローブをまとっており、あまりにも存在感が薄い。


 というか、殆ど魔力を発していない。


 一目見ただけでは魔力量が少ないように思えるが、実際は類い稀な魔力操作技術で隠しているようだった。


 青年より強そうだな。



「儂が代理試験官を務める、ナジアと言う者じゃ。まあ、貴様らのような凡夫共には期待しとらんが、儂を楽しませた者は一発で合格をくれてやろう」



 な、なんだ? なんかすっごい腹立つ物言いをする子供だな。


 他の受験者たちも同様に青筋を浮かべている。


 しかし、受験者たちの中でも一部の者、少女に視線を向けていた者は冷や汗を流していた。



「試験の内容は単純じゃ。どんな魔術でも良い。儂に一撃当ててみよ。それが出来た奴は合格にしてやるのじゃ」



 今度は別の意味でざわめき始める受験者たち。


 もっとハードな試験を想定していた俺としても、少し肩透かしを食らった気分だが……。


 普通に考えて、そんな簡単じゃないだろう。


 受験者たちは俺から見たら一流を名乗っても良いレベルの魔術師たちばかり。


 そんな彼らを相手に一撃当てたら合格にしてやるなどと言えるのは、相当な強者か愚者にしか許されない発言だ。


 そして、少女――ナジアは恐らく前者だろう。



「ああ、心配するでないぞ。お主らのような凡夫共の魔術をいくら食らったとて死ぬ儂ではない。仮に死のうが生き返るしの」


「上等だ!! オレからやらせろ!!」



 と、そこで血気盛んな若者が一番最初の試験者に名乗りを挙げた。


 開始の合図と共に、若者が容赦なく炎魔術でナジアを攻撃。

 当たったら必殺であろう炎の槍の雨がナジアに勢い良く降り注いだ。


 あまりにも躊躇の無い魔術の嵐は、二人を囲んで様子を窺っていた他の受験者たちを圧倒する程の力を感じさせた。


 対するナジアは――



「ふぁーあ、くだらんのう」



 欠伸をしていた。


 若者の炎魔術は確実に当たっている。しかし、どういうわけか効いていない。



「はあ、はあ、くそっ!! な、なんで効かねぇんだよ!? イカサマすんじゃねぇ!!」


「何故効かぬか、か。愚か者め。魔術師ならばその理由を追究して然るべきじゃ。魔力量には目を見張るものがあるが、力任せで単調な炎魔術……。くだらん。魔術師ごっこは余所でやることじゃな」


「だ、黙れ!! だったらオレの全力で――」


「お主は不合格じゃ。もう見る価値も無い」



 ナジアが人差し指を若者に向け、微かな魔力の流れを感じ取った次の瞬間。


 糸のような光線が若者の頭を貫いた。


 外傷は無さそうだが、まるで死んだかのように失神し、その場で倒れ伏す若者。


 治療係と思わしき魔術師たちがどこからかやってきて若者を回収、若者は意識を取り戻し、何が起こったのか分からなくて困惑しているようだ。


 いや、俺にも分からん。さっきの魔術ってマジでなんなんだ?



「さて、次は誰じゃ?」



 そこから先は阿鼻叫喚だった。


 おそらくは俺よりも遥か格上の魔術師たちが揃いも揃って不合格を叩きつけられ、光線で気絶させられる。


 己が今まで磨いてきた技術や知識、経験が一切通じない相手だ。


 恐怖で受験を辞退する者が続出した。



「ふん、つまらん。最近の凡夫共は骨が無いのう」



 ぶっちゃけ俺も受験を辞退したい。


 したいけど、ワンチャン俺ならダメージを与えられそうな気がしなくもない。


 なので俺は挙手した。



「次は俺にやらせてください」


「……ふむ、早うするのじゃ。いい加減飽きてきたからの」



 不合格を突きつけられた受験者たちの視線が俺に集中する。



「……あの……」


「なんじゃ?」


「俺が何をやらかしても死なせないって約束してくれませんかね?」


「なんじゃ、自爆魔術でも使う気か? あれでは儂に掠り傷一つ付けられんぞ」


「あ、いえ、単純に制御できないと思うので」


「……ふっ、面白い。構わん。お主の安全は保証してやるのじゃ」



 よし、許可は貰った。早速詠唱を開始する。



「――」


「……ふむ、召喚術か」



 俺はふと思うことがある。


 理論上、召喚術は生物なら如何なるものでも呼び出すことができる。


 ではそもそも、生物とそれ以外の境界はどこにあるのか。

 動物は言わずもがな、植物も立派な生き物だし、魔物も生き物だ。


 では、例えば悪魔も呼び出せるのか。


 これに関してはやったことがないから分からないというのが本音だ。


 悪魔は人間に敵対的で、一回きりの命令権を使ってしまったら最後、悪魔は自らを無理矢理従わせいていた俺に牙を剥くだろう。


 しかし、ナジアは約束した。


 俺が何をやらかしても命だけは助かるようにしてくれる、と。


 てことで全力の召喚術を行使する。


 ありったけの魔力を込めて、召喚対象は完全なランダムにしておく。

 召喚対象を指定する際に要する魔力を別の箇所に割く。


 完全なランダム召喚ではあるが、これから召喚する生き物は生物としての格をぶっちぎりで超越している生き物だ。


 さて、何が出るかな? 何が出るかな?



「――待て。おい、待てお主。何を召喚する気じゃ?」



 ナジアが何か言っているが、よく聞こえなくて首を傾げる。


 その直後、視界が真っ赤に染まった。更に鼻から何か赤いものが垂れる。


 あ、目と鼻から血が……。これ、鼓膜も潰れてるなあ。



「はははははッ!! 絶好調絶好調ッ!! もっと魔力を込めて、召喚陣を大きく大きくッ!!」



 そして、展開した召喚陣が広場を覆い尽くすほどの大きさにまで成った、その時。


 召喚陣がより強く光り輝いた。









―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「のじゃロリはサブヒロイン。多分抱かない」


ア「……そっか」



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