第10話 召喚士は魔術都市に到着する
「ふぅ、呆気なかったわね」
「凄いですぅ、流石はフィレアさんですぅ」
「……褒めても何も出ないわよ」
馬車の高速定期便に乗り、魔術学校まで向かう途中の出来事。
俺たちを乗せた馬車が魔物に遭遇した。
しかし、こちらには勇者パーティーというエリートのみが集まってできたパーティーに所属していた者が二人もいるのだ。
カナンが結界を展開し、フィレアが襲ってきた魔物を斬り刻む。
正直、俺の出番は無かった。
いやまあ、俺って勇者パーティーが撤退する時しか役に立てていなかったからなあ。
ベイルという無茶をして遥か格上の敵に挑む奴がいなくなった以上、必然的に撤退することが減ってしまった。
活躍ができないことを悲しむべきか、厄介な敵と戦わずに済むことを喜ぶべきか。
実に悩ましい。
「おお、なんという強さですじゃ」
御者の老人が感激したように言う。
彼はこの道五十年のベテランで、馬車を全く振動させずに動かせる。
お陰で快適な移動だった。
「それに比べて、最近の冒険者は情けない。護衛のクエストを放って逃げ出すとは」
「まあ、有料街道には普通なら魔物が出ませんしぃ、仕方ないですよぉ」
高速定期便は普通の街道ではなく、有料街道を使って走る。
有料街道というのは、都市間を直接繋げる街道であり、道中に宿や馬を休ませる場所が点在している。
通常の街道を進むよりも早く目的地に辿り着くことができるのだ。
ちなみにこの有料街道は結界が張ってあるため、普通なら魔物は寄ってこない。
しかし、ある程度の強さを有する魔物は結界を恐れずに近づいてくる。
そういう魔物に対処するため、高速定期便の馬車は冒険者にクエストを出し、護衛してもらうわけだが……。
今回、雇われていた冒険者が逃げてしまった。
結界のお陰で魔物は有料街道に滅多に近づいてこないものの、極稀に近づいてくる魔物は通常よりも遥かに手強かったりする。
護衛クエストを受けていた冒険者たちはそういう魔物を侮っていたのだろう。
たまたま乗り合わせていた俺たちが魔物を代わりに迎撃する羽目になった。
まあ、報酬も貰えるみたいだし、路銀を稼ぐ意味では悪くない。
「それにしても、有料街道って不思議よね。信じられないくらい道が滑らかだわ」
「古代に異世界から召喚された勇者の知識を元に作ったらしいよ。ここまで質が良いのは、古代文明について研究している魔術学校に続く道だけだろうけど」
異世界には不思議なものが多々あると言う。
空を飛ぶ鉄の塊や、海に浮かぶ鋼の船、自走する馬車等々……。
という話を道中の暇潰しがてらしてみた。
すると、思ったよりもフィレアやカナン、御者の老人が話に食いついてきた。
「随分と詳しいのね」
「召喚術って、元々は異世界召喚の儀式を簡略化したものなんだ」
「そうなんですぅ?」
「うん。召喚する対象をこの世界の生物に指定することで、本来は数十人の召喚士と何百人もの生け贄を要するところを一人で済ませてるってわけ」
「本当にお詳しい。もしや、魔術学校には教師として赴任されるので?」
御者の老人の口が上手くて、ついつい知識をひけらかしてしまう。
「おや。見えて参りましたぞ、お三方。あれが魔術学校を中心に栄える永久中立都市、六人の大魔女が治めし魔術師の楽園――イスターレですぞ」
「あれが……。大きい町ね」
「遠目で見ても分かるくらい発展してますねぇ」
フィレアやカナンが思い思いの感想を述べる。
魔術都市イスターレは、世界中の魔術師が集まる町と言っても過言ではないだろう。
そのため、あらゆる分野での研究が盛んに行われており、それに比例して都市そのものが並みの国の王都よりも発展している。
俺たちは魔術都市に入り、本来は護衛の冒険者に支払う予定だった金銭を受け取った。
「縁があれば、またどこかで会いましょう」
御者の老人はカカカと笑いながら馬に鞭を打ち、どこかへ去ってしまった。
その時、フィレアとカナンが互いに顔を見合わせて小さく頷いた。
「……あの御者のご老人……」
「えぇ、只者ではなさそうですぅ」
「え? 何の話?」
会話の意味が分からなくて困惑していると、二人は詳しく話し始めた。
「あのご老人、立ち振舞いが只者ではなかったのよ。剣、槍、弓……。どの得物でも達人級の実力を有するかも知れない」
「ほぇー。ただの話しやすいお爺ちゃんだと思ってた」
「……まあ、召喚士って後衛だし、別に気付かなくても仕方ないわね」
「鈍感なアスターさん、可愛いですぅ」
それから俺たちは宿を借り、魔術学校に入学するための手続きを行ったのだが……。
ここでトラブルが発生。
「まさか魔術学校の入学に推薦状が必要とは思わなかった」
「しっかり下調べしないから……」
「いや、したんだよ。したんだけど、なんか最近になって導入された制度みたいで」
どうやら近年、魔術学校に通う学生のレベルが数段落ちてきているらしい。
イスターレを治める六人の大魔女たちが話し合い、魔術学校の入学試験を受けられる人物に制限を儲けたそうだ。
推薦状が無くても、試験で類い稀な成績を残せば入れるには入れるとのことだが……。
ハッキリ言おう。
俺は召喚士としてポンコツもポンコツ、とでもではないが入学できるとは思えない。
「試験自体はいつでも受けられるんでしょう? それなら、今すぐ入学する必要はないんじゃない? イスターレには図書館もあるみたいだし、そこで勉強したり、権力者の推薦状を貰えるように動くのも有りだわ」
そう、魔術学校の入学試験そのものはいつでも受けることができる。
魔術学校は年齢で学生を一まとめにしない。
才能のある者により整った環境を与えるために完全な実力主義で成り立っているのだ。
優秀な学生は一週間で進級できるし、逆に実力の無い生徒はいつまで経っても一年生のまま進級できない。
「そうは言ってもなあ。正面突破で合格するには独学だと限界があるだろうし、かといって推薦状を得るにはどれだけの時間がかかるか……。その間の生活費も工面する必要があるとなると、うっ。急に頭が痛くなってきた」
「多少なら平気よ? イスターレは魔術師が多いからか、実験に使う魔物の素材の需要が常にあるから冒険者へのクエストも多いみたいだし。お金は私が稼いでくるから心配しないで」
ありがたい話だが、それは男としてのプライドが許しそうにない。
養うのは俺であるべきだ。ヒモになるつもりは欠片も無い。
「本当にどうしよう?」
「ああもう!! くよくよ悩んだって仕方ないわ!! ヤるわよ!!」
「え?」
「不安や心配なことはエッチして解消するの!!」
「賛成ですぅ。私たちが心も身体も癒して差し上げますからぁ、好きなだけ悩んでくださぁい」
「二人とも……」
うちの恋人たち、最高の女すぎる。
俺は極上の美女と美少女を抱き、ひとまず心と下半身を落ち着かせて今後のことを真剣に三人で話し合った。
それから一般枠で魔術学校の入学試験を受けることを決めたのだ。
決してエッチしたことで頭が馬鹿になり、「取り敢えず試験だけでも受けてみるかー」というノリで受験を決めたわけではない。
ないったらない。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「ヒモ……」
ア「ヒモにはならない!!」
「ヒモやん」「ヤることヤってヒモやん」「まごうことなきヒモ」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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