第8話 召喚士は聖女が怖い
やっちまった。
いくらカナンに媚薬を飲まされたからと言って、それは言い訳にはならないだろう。
「ふふふ。アスターさん、一線越えちゃいましたねぇ?」
俺の隣で扇情的な格好のカナンが微笑む。
それはいつものような聖女然としたものではなかった。
どこまでも妖艶な微笑みである。
「な、なんで、こんなことを……?」
「ほぇ? 私にあんなことやこんなことをしたのはアスターさんじゃないですかぁ? 昨日はあんなにおっぱいに甘えてくれたのにぃ、酷いですぅ」
「そ、それは、そうだけども!!」
「ふふふ、冗談ですぅ。フィレアさんのことなら大丈夫ですよぉ、私に策がありますのでぇ。きっと許してくれますよぉ」
俺がカナンからフィレアに許してもらう策とやらを教わっていた、その時だった。
部屋の扉が勢いよく開いてフィレアが入ってきたのだ。
「大変よ、アスター!! 朝起きたらカナンの姿がなくなって――何をしているのかしら?」
「あ、いや、これは……」
スッとフィレアの顔から表情が消える。
誰がどう見ても分かるくらい、フィレアはマジギレしていた。
しかも刀の柄に手をかけている。
対応を一つでも間違えたら全身を斬り刻まれてしまう。
こうなったら全力で土下座して誠心誠意謝り倒すしかない。
と、そこでカナンがこっそり耳打ちしてきた。
「今ですよぉ、アスターさん。さっき教えてあげた策を実行する時ですぅ」
微笑みながらそう言うカナン。
このタイミングで例の策を実行して本当に大丈夫なのだろうか。
どうする、土下座か策か!?
どちらが正解なのかちっとも分からない。
焦りに焦り、テンパった俺は考えるより先に行動に移した。
「フィレア」
「ひゃっ、な、何よ?」
俺はベッドから起き上がり、フィレアに迫った。
俺の行動に驚いたのか、フィレアは動揺して壁際に追い詰められる。
ドンッ!!
と、そのまま壁ドンしてみたら、フィレアは明らかに目を泳がせ始めた。
ここまではカナンの予想通りである。
「命令だ。服を脱げ」
「は、はあ!? な、何を言って……」
「嫌なのか?」
「あ、あぅ……」
いつもの凛々しいフィレアはどこへやら。
頬を赤らめながら俺の命令に従い、服を一つ一つ脱ぎ始めた。
「こ、これで、良いかしら……?」
「可愛いな、フィレアは」
「っ、そ、そんなこと言ったって、貴方浮気してたじゃない」
俺はちらっとカナンの方を見た。
カナンは微笑むばかりで、何も口出ししてくる様子は無い。
俺のアドリブに任せるということだろうか。
思わず勢いでやってしまったが、こうなったらとことんやってやる。
「それはフィレアが可愛いかどうかに関係ない。その、まあ、色々あったのは確かだが、フィレアのことはしっかり愛してる」
「……なら、証明してよ」
「? ――ぐっ」
そう言ってフィレアが俺の相棒に手を伸ばした。
「カナン以上に可愛がってくれなきゃ、信じないんだから」
「分かってる」
それから俺とフィレアは夕方までエッチした。
本当は今日中に馬車の高速定期に乗って魔術学校に向かう予定だったが、仕方ない。
俺は恋人との激しい一時を過ごし、無事に事なきを得た。俺は。
「で、どういうつもりなのかしら? 私とアスターが付き合ってるのは説明したでしょう?」
「ほぇー? カナン、ちょっとお馬鹿なのでフィレアさんが何言ってるか分かんないですぅ」
そうして夜になり、始まったのは今後の関係についての話だった。
「アスターは騙せても私は騙せないわよ、この腹黒聖女」
「ふぇーん。助けてください、アスターさぁん。フィレアさんがいじめてきますぅ」
「ちょ、ちょっと!! これ以上アスターに抱き着いて誘惑しないで!! アスターも何をデレデレしてるの!!」
「あ、ご、ごめん」
だって急に腕におっぱい押し付けられたら誰でもデレデレしちゃうよ!!
しかし、注意されても抱き着くのをやめないカナンを見かねて、フィレアも反対側の腕におっぱいを押し付けてきた。
カナンの方が大きくて柔らかいが、フィレアの方が形が整っていて弾力がある。
「まあ、冗談はこれくらいにしておきますねぇ」
と、そこでカナンの表情が抜け落ちる。
昨日もそうだったけど、こっちがカナンの素なのだろうか。
だとしたらちょっと怖いというか、ギャップがすごい。
「私の目的をお話しますぅ。私の目的、それはぁ――」
俺とフィレアは息を呑む。
一体どういう目的があって俺に媚薬を飲ませてきたのか。
カナンが真剣な面持ちで語る。
「――『アスターさん、ハーレム王化計画』ですぅ」
「「……」」
「アスターさんをただ一人の支配者とし、世界中の美少女美女をアスターさんの所有物としてしまおうという計画ですぅ」
「え、あ、ええと」
「ごめんなさい、ちょっと時間をちょうだい」
俺とフィレアはカナンに聞こえないくらいの小声で話し合う。
「ねぇ、フィレア。俺ちょっとカナンが怖い」
「ごめんなさい、私も理解が追いつかなくて怖いわ。人間、理解できないものを恐れるって本当なのね」
あ、フィレアとの仲が深まった気がする。
さっきのエッチで仲直りできたし、心の距離が更に縮まったようだ。
……いつまでも現実逃避してたらダメだよな。
「えーと、分からないことが多すぎて……。何がどうしてそんな計画を立てたんだ?」
「それは内緒ですぅ」
カナンが俺の方を向き、その青色の瞳でじっと俺を見つめる。
「とにかく私の野望はそれだけですぅ。他に大した目的はありませぇん」
「十分大した目的だとは思うけれど……そんなこと、私が許すとでも?」
「アスターさんが命令すれば許すのではぁ?」
「うっ、そ、それは、まあ、命令されたら、仕方ないし……」
「いや、仕方なくないよ!? なんで押されてんの!? いやまあ、さっき命令してた俺が言うことじゃないけどさ!?」
「そ!? そ、そうね!! その程度の言葉で私が騙されるとでも!?」
がっつり言いくるめられそうだったけど……。
まあ、フィレアがカナンの説得に頷かなくて少し安心している。
と思っていたら、またカナンがフィレアを惑わし始めた。
「想像してみてくださぁい。大勢の女たちがアスターさんの寵愛を欲し、恥もプライドも捨てて媚びを売る中、フィレアさんを可愛がってくれるアスターさんの姿をぉ。興奮、しませんかぁ?」
「んっ♡」
「え、興奮したの?」
「……し、してにゃいわよ……」
舌を噛むフィレア。ちょっと可愛い。でもそれはそれ、これはこれ!!
「お、俺はハーレム王にはならないぞ」
「はぇ!? 悲しいですぅ、昨晩は私のことを激しく愛してくれたのにぃ」
「っ、そ、それは、カナンが媚薬を盛ったからで……」
「証拠あるんですかぁ?」
「……ない、けど……」
やべー、逃げ場が無い。
などと考えていたら、カナンが再び俺に大きなおっぱいを押し付けてきた。
フィレアは妄想の世界に浸っているのか、カナンを止めようとしない。
「責任、取ってくださいねぇ?」
「あ、はい」
それから俺たちは三人でエッチした。
というか、無理矢理押し倒されて俺が計画に頷くまで搾り取られてしまった。
味方であったはずのフィレアも何故かカナンに味方して途中から参戦、結局魔術学校を目指して出発したのは翌日になってしまった。
これ、なんか大変なことになっちゃったような気がする。
―――――――――――――――――――――
あとがき
作者「命令権使って自白させたら良かったんじゃね?(はなほじ」
ア「その手があったか!!」
カ「もう手遅れですぅ」
作&ア「な、何故ここに!?」
「聖女が思ったよりヤバイ奴だった」「うーん、有罪」「あとがきにカナンいて笑った」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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