第6話 召喚士は聖女を召喚する
どうしたものか。
俺の目の前には泣き叫ぶ男性冒険者と、今にも死にそうな女性冒険者がいる。
誰もが治療を諦め、男性冒険者を慰めている。
「どうにもならないかしら、アスター」
「……普通は無理。解毒ポーションが無いなら、ヴェノムナーガの毒は治せない。最高位の治癒魔法が使えるなら話は別だけど、そんな奴は小さな町にはいない」
そう、普通は無理なのだ。
でも俺には、一応の解決の目処があるというか、方法が無いわけではない。
ただ物凄く面倒なことになるかも知れない。
本当はあまりやりたくはない。やりたくはないが、仕方ないだろう。
悪人でも何でもない人が目の前で死にそうになっていて、それを黙って見過ごせるような強靭なメンタルを俺は持ち合わせていないのだ。
「――」
俺は呪文を詠唱する。
召喚術は人間すら召喚できてしまうことをフィレアが証明した。
そして、偶然にも俺にはあらゆる毒や病、怪我を一瞬で元通りに治療してしまえる人物に心当たりがある。
勇者パーティーのヒーラー、聖女。
彼女をこの場に召喚することで女性冒険者を救うことはできるだろう。
ただまあ、それをやると勇者パーティーにヒーラーが不在ということになってしまう。
かと言って解毒ポーションを作れるであろうメリスを呼び出しても、素材が無かったらポーションは作れない。
聖女を呼び出す以外に選択肢は無いのだ。
いや、本当にベイルにはヒーラー無しで頑張ってもらうことになるけども。
でもまあ、ベイルやベイルと同じパーティーにいる人間は女神の加護で死んでも近くの教会で生き返るから心配は無い。
少なくとも目の前の女性冒険者のように、本当に死んでしまうことは無いのだ。
「――ッ!!」
俺が呪文を唱え終えると、俺の前に光り輝く召喚陣が出現した。
その光の中から少女が姿を現す。
銀色の髪をショートカットにした濃い青色の瞳の美少女だ。
この大陸で最も信仰されている宗教、女神教で祀られている女神アデラと同じ髪の色と瞳をしている彼女を、人々は聖女と呼ぶ。
色白な肌、豊満な爆乳、キュッと細く締まった腰、肉感的なお尻とムチムチの太もも……。
そして、人間とは違う長い耳。エルフの特徴だ。
身にまとう衣装は白基調の神官服だが、深いスリットが入っており、ボディーラインを強調するような格好である。
突如として姿を現した美少女に、冒険者たちは目を丸くした。
「はぇ? ここは……。というか、アスターさん?」
聖女カナン。
勇者パーティーのヒーラーであり、女神教の教皇の娘。
女神と同じ銀髪と青い瞳の美少女である。
「ごめん、カナン。詳しい説明は後だ。今すぐ」
「――ハイアンチドーテ」
俺は説明を後回しに、カナンに今すぐ女性冒険者の治療をするよう命令しようとした。
しかし、俺が何かを言う前にカナンは行動を始めていたらしい。
銀色の光と共に神聖術式が展開し、女性冒険者の顔色がみるみる元通りになる。
青紫色だった顔が嘘のようだ。
朦朧とした意識も回復したようで、起き上がって辺りを見回し、困惑している。
「あ、れ? 私、たしか森でデカイ蛇みたいな魔物に襲われて……」
「うわあああああああああっ!!!!」
「ちょ、な、なに!? いきなり抱き着かないでよ!!」
男性冒険者が泣きながら抱き着いて、女性冒険者が反射的にビンタし、男性冒険者は弧の字を描いて吹っ飛んだ。
その光景を微笑ましそうに眺めながら、カナンは俺たちの方に振り向いた。
「それで、これってどういうことなんですかぁ?」
俺は一連の出来事を説明し、素直に謝罪することにした。
すると、カナンはのほほんとした様子で頷く。
常に微笑みを絶やさないからか、怒っているのかいないのか分からなくて怖い。
「まあ、そんなことがあったんですねぇ」
「ホントごめん」
「いえいえ、大丈夫ですよぉ。別に戦闘中だったわけでもないですしぃ。困っている人を助けるのは当然ですからぁ。それに、アスターさんのお役に立てたなら良かったですぅ」
「そう言ってもらえると助かる」
やっぱりカナンは優しいなあ。
勇者パーティーにいた頃も俺が色々やらかしたって微笑みながら許してくれてたしね。
なんなら頭をナデナデして慰めてくれたし。
俺より年下の女の子に慰められるのは羞恥プレイみたいなもんだが、それを考慮しても余りあるくらいの心の癒しだったからな。
しかもスタイル抜群な上に童顔で可愛いとかいう反則っぷりだ。
「アスター」
「っ!? あ、な、なんだ、フィレアか。ど、どうしてそんな殺気立ってるんだ?」
「……別に、殺気立ってなんかないわよ。恋人を差し置いて他の女の子のおっぱいをじろじろ見てても何とも思わないもの」
そう言ってぷくーっと可愛らしく頬を膨らませるフィレア。
これは、俺が悪いか。
「ご、ごめん」
「別に謝って欲しいとか思ってないわ」
「あのぉ、恋人って何の話ですかぁ?」
「あー、えっとだな」
俺がフィレアに謝り倒していると、俺たちの関係を知らないカナンが首を傾げているので、正直に話す。
「俺たち、付き合うことになったんだ」
「……あらぁ。フィレアさんったら、抜け駆けするなんて酷いですぉ」
「ぬ、抜け駆けしたわけじゃ……」
抜け駆け? どういうことだ?
俺がフィレアとカナンのやり取りに首を傾げていると、カナンが急に俺の腕に抱き着いてきた。
デカイ上に柔らかいおっぱいが腕に当たる。
そのあまりにも素晴らしい感触に、俺は思わず硬直してしまった。
「そういうことならぁ、お二人が結婚する際の祝詞は私にあげさせてくださぁい」
「あ、う、うん」
「もぉ、どこ見てるんですかぁ? 私の目はおっぱいに付いてないですよぉ」
「べ、べべ別に見てないですけど!?」
「ふふ、嘘は駄目ですよぉ。フィレアさんみたいな美人な恋人がいるのに、他の女の子のおっぱいをじろじろ見ちゃ、愛想尽かされちゃいますからぁ」
か、可愛い!! 良い匂いもする!!
でも駄目だ我慢だ!! 俺にはフィレアという恋人がいるんだぞ!!
「な、なあ、あんたたち!!」
などと俺が葛藤していると、涙で目元を赤く晴らした男性冒険者が声をかけてきた。
そのまま男性冒険者は俺たちに、というかカナンに頭を下げる。
「ありがとう!! 本当にありがとう!! この礼は必ずする!! 金ならいくらだって払う!!」
「お金は結構ですよぉ。女神教は『無償の奉仕』と『清貧』が教義ですからぁ」
「だ、だが、何も礼をしないのは……。そうだ、これを受け取ってくれ!!」
そう言って、男性冒険者はポケットから何かを取り出した。
「なんですかぁ、これ?」
「魔術学校行きの馬車の高速定期便のチケットだ。昔色々あって取っておいたんだが、中々使う機会が無くてな。ちょうど三人分あるし、使わないなら売ればそこそこの金になると思う」
おお!? ま、まじか。
カナンが俺の方をちらっと見てきたので、無言で頷いた。
男性冒険者からチケットを受け取るカナン。
「ありがとうございますぅ」
「いやいや、礼を言いたいのはこっちだ!! 本当にありがとう!!」
こうして金を稼ぐこともなく、俺たちは魔術学校行きの高速定期便のチケットをゲットしたのであった。
そして、その日の晩に事件は起こった。
「ふふ、こぉんなに硬くしてぇ。すぐ隣の部屋で恋人が眠ってるのに、アスターさんは悪い人ですねぇ?」
「カ、カナン、なんでこんな……」
目の前にはカナンがいた。
それもやたらと扇情的な衣装を身にまとっており、重量感のある大きなおっぱいが俺の身体に押し付けられている。
な、何がどうしてこうなった!?
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「一見清楚な女の子がぐいぐい迫ってくるシチュエーションにグッとくるものがある」
ア「お、せやな」
「聖女ちゃん可愛い」「勇者死んでも生き返るのか……」「あとがき分かる」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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