第5話 召喚士は冒険者ギルドに向かう
翌日。
俺たちは本来の目的地である隣町への移動を何事もなく再開した。
御者のおじさんは盗賊に殺されてしまったが、大工のおっちゃんが馬車の操縦ができるとのことで運転をお願いしたのだ。
「なあなあ、兄ちゃん!!」
流石にプロの御者であったおじさんと比べて少し揺れの激しい馬車の中、大工のおっちゃんの息子が声をかけてくる。
どうかしたのだろうか。
「昨日の夜、テントで姉ちゃんと何やってたんだ?」
「「!?」」
「夜中に小便したくて起きたら、なんか二人のテントから声が聞こえてさ。こっそり覗いてたら二人とも裸だったし。ねぇねぇ、あれ何してたんだ?」
俺とフィレアは揃って冷や汗を流す。
昨日の夜は、それはそれは激しく濃密な時間を過ごした。
フィレアはなんと言うか、献身的に尽くしてくるのだ。
俺を気持ち良くさせようとしてるのが伝わってきてめっちゃ興奮した。
途中で命令すると日頃の凛々しさが嘘のような女の顔を見せるから調子に乗ってしまったのだ。
それはもう激しく愛し合った。
お互い初めてだったにも関わらず、こちらとしても上手くできたと思う。
……いや、思い出すのは後回しだ。
「えーと、だな。それは……」
「教えてくれよ、兄ちゃん!!」
ど、どう答えたものか。まだ少年は十歳にも満たないようだし、性教育は少し早い。
反応に困って周囲の乗客に助けを求めるが、彼らは困惑する俺たちを見てニヤニヤと楽しそうに笑っているのみ。
大工のおっちゃんは御者台に座っているから馬車内の出来事には気付いていないみたいだし……。
「戦闘訓練よ」
フィレアが至って真面目な面持ちで言った。
そして、すらすらとそれっぽい嘘を吐いて少年の質問を受け流す。
「夜中に丸裸の状態で敵に襲われても良いように訓練していたの」
「ほぇー、兄ちゃんたち真面目なんだなー」
「ソ、ソウダナー」
ぐっ、純粋な少年を騙しているようで罪悪感が湧いてくる!!
とまあ、このように色々ありながらも、俺たちは無事に目的地である隣町に到着した。
「じゃあな、あんちゃん。嬢ちゃんも助かったぜ。またどこかで会ったら飯でも奢らせてくれ」
「じゃーなー!! 兄ちゃん、姉ちゃん!!」
「あ、ああ」
「またどこかで会いましょう」
大工のおっちゃんやその息子と分かれ、俺とフィレアは近くの飲食店に入り、今後の方針を話し合う。
「俺は魔術学校に向かうわけだけど、フィレアも付いてくるって認識で良いよね?」
「ええ、そのつもりよ。でも魔術学校ってどこにあるの?」
「えーと、ちょっと待っててくれ。今地図を出すから」
俺はポーチから丸めた地図を取り出し、テーブルに広げる。
フィレアが横から地図を覗き込み、ふわっとした甘い匂いがした。
しかもおっぱいが俺の腕に当たっている。
昨日も色々してる時に思ったが、フィレアは中々どうして大きなものをお持ちだ。
っと、いかんいかん。
今はまだ昼間。そういうことを考えている時間じゃない。
「俺たちが今いるのはシデン国の最南端に位置するこの町で、目的の魔術学校はここだ」
「あら、そう遠くはないのね。馬車の高速定期便を使えばすぐじゃない」
「そう。でも高速定期便の席はアホみたいに高いから、まずは金を稼がないと。というわけでご飯を食べたら冒険者ギルドに行きます」
冒険者ギルド。
冒険者に仕事を斡旋する組織であり、依頼を仲介することで利益を得る。
れっきとした国際組織なので、鎖国している国を除けばどこに行っても利用することができるだろう。
俺たち勇者パーティーも旅の資金を得るために冒険者ギルドでクエストを受注していた。
まあ、勇者パーティーだからと優遇されたりすることはないがな。
冒険者ギルドにとっては冒険者も勇者パーティーも変わらないってわけだ。
「問題はどういうクエストを受けるか、ね」
「……だな」
今までは多少無茶なクエストでも多人数で臨めたからな。
しかし、今は俺とフィレアの二人きり。
あまり危険な難易度の高いクエストは受けたくないというのが本音だ。
「こんな時、メリスがいたらなあ」
「そうね……。たしかに彼女なら適当に売れそうなポーションを作って資金を用意できたでしょうね」
メリスというのは、勇者パーティーに在籍している錬金術師だ。
一言で彼女のことを説明するなら、ヤバイ奴。
基本的に物腰丁寧で温和な人物に思えるが、その実態はマッドアルケミスト。
勇者パーティーに入りたがっていた理由が「魔王の死体を実験に使いたいから」というやべー理由だった。
しかし、錬金術師としての腕前は本物だ。
彼女は勇者パーティーが資金繰りに困った際、適当なポーションを作って売っていた。
彼女がいたら金には困らないだろう。
「あ、そうだわ。アスターの召喚術でメリスを呼び出すのはどうしかしら?」
「それをやったら、勇者パーティーの人員が減っちゃうからなあ。フィレアがいなくなっただけでも戦力的に大幅な弱体化だろうし、皆心配してるだろうし」
「……それもそうね。でも、人員は問題ないわよ。ベイルが適当に補充するでしょうし」
戦力を補充? どういうことだ?
「ベイルの奴、アスターの代わりに新しいメンバーを加入させたのよ」
「あ、そうなんだ。どんな人だったの?」
「頭の悪そうな低ランク冒険者の女だったわ。分かりやすいくらいベイルに媚びてたから、あいつも気に入ったんしょうね」
「ほぇー」
でも大丈夫だろうか。
ベイルの性格に少し難があれど、その実力は本物と言って良い。
他の勇者パーティーのメンバーも同様だ。
果たしてその一員になれたところで、低ランク冒険者が無事に済むだろうか。
あるいは何か別の目的があってベイルに近づいたのかも知れない。
いやまあ、もう勇者パーティーの人間ではない俺には関係の無い話だけど。
「取り合えず、冒険者ギルドに行ってから決めましょう」
「そうだな」
俺たちは軽く食事を済ませて、冒険者ギルドに向かった。
「あまり目ぼしいクエストは無いわね」
「だな。あ、でも薬草採取がある」
「せっかくならもう少し血湧き肉踊るクエストが良いのだけど」
「そんなクエストが無いんだから仕方ない」
まあ、仮にあったとしても俺は全力で拒否していただろうけどな。
危険なクエストは報酬が良い分、当たり前のことながら危険だ。
命を落とすリスクがある真似を自分からする気にはどうしてもならない。
と、その時だった。
「だ、誰か!! 助けてくれ!!」
全身ボロボロの格好をした男性冒険者が、女性冒険者を抱えてギルドに駆け込んできたのだ。
よく見ると、女性冒険者の方は重傷。
何らかの毒を食らったのか、肌の色が青紫色に変色してしまっている。
冒険者ギルドの職員がカウンター奥から慌てた様子で飛び出してきて、男性冒険者に詳しい事情を訊ねる。
「な、何があったんですか!?」
「森にゴブリンを狩りに行ったら、見たこともない蛇の魔物が現れたんだ!! デカイ上に素早くて、額に光る石が付いた蛇で、彼女はオレを庇って!! 頼む、解毒ポーションをくれ!!」
「っ、も、申し訳ありません。魔物が分からないことには、どういう解毒ポーションが効くのか分からないのです」
「そんな!! くそっ、どうしてこんなことに!!」
額に光る石が付いた蛇の魔物、か。しかもデカイ上に素早いとなると……。
「ヴェノムナーガ、かな」
「っ、貴方、知ってるんですか!?」
「うわ、びっくりした」
情報を元に推測をポツリと溢すと、冒険者ギルドの職員さんが詰め寄ってきた。
男性冒険者も同様だ。
「えーと、ヴェノムナーガ。蛇型の魔物の中じゃ厄介な部類だな。毒の種類は――」
俺は知っている限りの情報を話した。
召喚士はあらゆる生き物を呼び出し、使役するのが強み。
生き物の特徴や特性を把握しておいて損は無いからな。
自慢じゃないが、魔物に関する知識もそれなりだとは思う。
「――だから、クラの実を使った解毒ポーションが効くはずだ」
「クラの実、だって!? そんな高価なものを使ったポーションなんて、どこにも売ってるわけないだろ!!」
男性冒険者が激高する。
気持ちは分かるけど、俺に当たられても困るのが本音だ。
残念だけど、諦めるしかない。
「ちくしょう、ちくしょう!! やっと想いを告げられたのに!! この冒険が終わったら結婚しようって言えたのに!! ぐすっ、ひっぐ」
それ、冒険者が言っちゃいけない台詞ランキング十年連続一位の台詞じゃねーか!!
しかし、やっと想いを告げられた、か。
「アスター」
「うん。どうしよう、フィレア。ちょっと他人事で片付けたくない俺がいる」
「そう、ね」
俺はフィレアが同じような状況に陥った時のことを想像してしまったのだ。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「子供の頃に男女の営みを見て性癖が歪む人生を送りたかった」
ア「十分歪んでるから大丈夫」
「戦闘訓練w」「あとがきで笑った」「何も大丈夫じゃなくて草」と思った方は、感想、ブックマーク、★評価、レビューをよろしくお願いします。
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