1日行方不明-3
「制服邪魔じゃない?」
「どうする? 捨てちゃう?」
「いいよ」
そういうわけで私は後部座席から思いっきりそれを投げた。
「マジかよ」
驚いて笑う声が前から聞こえる。
お祭りで賑わうエリアから少しはずれているこの道路は道幅が広く、車道と歩道の間には木が均等な間隔を保ちながら植えられているようでとても洗練されていた。私たちの前方には建物も何もない。真っ直ぐに空へ伸びる道路を走っているのは今私たちだけ。ここにいるのは今私たちだけだった。
遠くの方から笛の音が聞こえてきた。
「ねえ、太鼓の音もするよ!」
「だってもう着いてますから」
私たちの前方に海が広がった。わあ、と思わず声が漏れる。向こうの海岸には灯りがともり始め、人が集まりだしているのが見えた。
「なあ、ひかり」
「うん?」
洸弥は
「すぐ戻るから、ちょっと待っててくれない?」
夕日が落ちそう。綺麗。
私は砂浜に1人立っていた。
足首まで海に浸かってみる。
冷たい。
相変わらず、お祭りの音が少し遠くで聞こえてくる。
「ごめん!」
振り返ると狐のお面をつけた洸弥がいた。
「びっくりした」
彼はお面をずらして頭につけた。
「ネックレス」
「え」
「ネックレス、没収されたの本当だったんだね」
「ああ……でももういらないからいい」
「……」
波の音が大きくなった。
「あああああああ」
「ちょっと!」
洸弥は叫びながら海に入って倒れ込んだ。
「ひかり……海、超綺麗だな」
「……綺麗だね」
「……空も綺麗だな」
「綺麗だね……」
「なーんのたーめに生まれて〜なーにをしーて生きるのか〜答えられなーいなんて〜そーんなのーはいーやだ」
「その歌って」
「アンパンマンの歌詞だよ」
私も海に浸かり、洸弥の方へ近づいた。
「あのネックレス、母さんの物だったんだ。まあ、母さんとは12年会ってないんだけど」
「……」
「ごめん……一生に一度だと思って、変な弾け方した」
「洸弥はそんな日じゃないでしょ?」
「そんな日だよ。毎日、一生に一度だよ」
「……」
「今日、もっとひかりと生きたいと思った。病院で会ったあの日、俺どうしてそこに居たと思う?」
「頭、怪我してたよね」
「5階からだったのに8針縫うだけで済んだ。ダサいよな、俺」
「……私も洸弥と生きたい。一緒に生きていたい」
向こうの海岸で花火があがった。いくつもの綺麗な花火が次々に打ち上げられる。私たちはその花火が終わるまで、ずっと見ていた。
ひかり
砂浜でチョークを拾った彼はコンクリート塀に私の名前を書いてみせた。
「俺たちが生きている証」
「ちょっと貸してよ、私だけ恥ずかしいよ」
「やーだね」
ふざけてて、おかしくて、無邪気に笑う彼を見て、なんだか今日が誇らしかった。
こうして私たちの1日行方不明は終了した。
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