1日行方不明-2

 それから目についた行きたい場所には片っ端から入った。

 最初はゲームセンターに入って1時間過ごし、その次のカラオケでも1時間過ごした。私は唯一知っている絢香の楽曲を歌い、彼はゆずやUVERworldの曲を歌って、最後には私がほぼノリに近い感じで合わせるようにUVERworldのSHAMROCKを2人で歌った。その後はラウンドワンがあったから少しボーリングをした。私は全然ピンを倒せなくて、彼もいつもより上手くいかないらしく、私たちはさっぱりだった。人生初のボーリングは全てガーダーだったけれど何がそんなに嬉しかったのか私はずっと笑ってた気がする。ポンコツだとか言い合いながら30分ほどでボーリング場を後にした。そんな風にしていたらお腹が空いて、コンビニで買ったパンを頬張りながら美容院に向かった。私のロングだった髪はショートヘアになった。小学生の頃以来のショートヘア。自分でも案外似合っていると思う。


「いいじゃん」


 イメチェンを勧めてきた当の本人はヘアチェンジしないらしい。

 

「ねえ、叶子と仲良いの? 4組の木谷叶子」


 ショートヘアにしたからバイクで首にあたる風が更に気持ちよくなった。


「いや、話したことないと思う」


「そっか……じゃあ主任殴ったって本当?」


「殴ってねえよ、俺やべー奴じゃん」


「だよね」


 大きめのスーパーの駐車場にバイクを停める。


「楽しみだ」


「ガソリン代は残しておかなきゃ」


 店内には愉快なBGMが流れている。私が運ぶカートの中へ彼は次々にお菓子を入れた。

 大量のお菓子が入った袋を持って後部座席に座り、彼の腰へ腕を回した時、ズボンのポケットにメモが入っているのが見えた。


 相模川3-6-....


 住所らしき文字が上の方だけ少し見えた。

 なんとなく、それが何を指すものなのか聞けずに夕方の道路を走っていた。


「人いないね」


「お祭りに吸い寄せられているんだよ」


「なんか、サンタになった気分」


「届けちゃう?」


「寂しんぼの少年少女にトリック・オア・トリートしちゃう?」


「なんか色々おかしいけど、俺にもちょうだいよ、トリック・オア・トリート!」


「あ!」


 その時強めの風に煽られ、私の持っているスーパーの袋から大量のお菓子がばら撒かれた。私たちはバイクを置いて数十メートルに渡り綺麗にばら撒かれたお菓子を両端から拾っていく。


「おーい」


 佐伯洸弥に手を振ってみた。

 彼もまた手を振りかえした。


「え? それだけ?」


「なんか呼びたくなった」


「ふーん」


「佐伯少年の」


「洸弥って呼んでよ」


「洸弥少年の将来の夢は何だった?」


「そういう君は何だった?」


「私は……今も昔も将来の夢なんてなかった。家族がいて友達がいて、バカだからそんな平和な日々をずっと過ごしていくと信じてた。なのにここ最近は進学先だの就職先だの決断を迫られることばかり。自分のこと分かんないのにどうやって決めればいいのかね。でも、逃げてるだけで甘えてるだよ。ま、もうそんなこと考えなくていいんだけどね」


「ひかりって案外よく喋るよね」


「洸弥はさ、案外無口だよね」


「そう? まあそうかな」


「うん」


「浴衣」


「え?」


「浴衣、着たくない?」


 洸弥が前に従兄弟と来たことがあると言った古着屋に入った。そこは古いビルの2階にあって、大学生らしき客が2、3人くらいいるように見えた。


「可愛い〜お姉さん水色似合いますね! ほんと可愛い! この後お祭り行かれるんですよね」


 試着室から出ると彼はいなくなっていて、代わりに眉毛が濃く少し日に焼けたスタッフのお姉さんが立っていた。


「あー、でもそういうわけじゃ……」


「彼氏さんも試着されてますよ〜」


 彼氏じゃないです。

 そう否定する前に白い浴衣を着た洸弥が隣の試着室から出てきた。


「どう? 俺イケてる?」

 

 そう言って眉をくいっとあげてはにかんだ。


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