第23話 ……空が青いな

「私もその気持ち分かるもん」


「霧先輩も、ですか?」


「私、人見知りするしあんまり人と馴染めないからさ、本当は輪の中に入りたいけど、入れないみたいな」


「そうなんですね……」


「本当は自分から動き出せばいいのに、動けない。弱い自分に我慢してるっていう恥ずかしいやつなんだけどね」


 霧先輩も、私とは違うけど悩んでいたんだ。

 それなのに、私は自分のことしか考えずに霧先輩を嫌いになりそうになっていた。

 たった一言、その言葉に秘められた想いに気付けなかった自分が嫌いになりそうだ。


「萌音ちゃんと全然違うかもしれないけど、私はそうゆう我慢かな」


 くしゃっとした、私ってダメだね。みたいな笑顔を私に向けてくる霧先輩。

 ダメなのは私の方だよ、って言いたいけど。


 こんな楽しいデートで重たい雰囲気になんてしたくない。

 だから私は、


「霧先輩、好きっ!」


 刹那、霧先輩に腕に抱き付き、パシャリとカメラのシャッターを押した。


「ちょっ、そんないきなり⁉」


 ポーズなんて決めてない、盛れる角度でなんて撮っていない。さぞかし酷い自撮りになっただろうと思ってたけど。


「あ……」


 撮った写真を見て、私の心はふわっと宙に浮いた。


「絶対変な顔してるから消してよね――」


 写真をジッと見ている私の横から霧先輩は顔を覗かせて言うが、写真を一目見た瞬間、言葉が止まる。


「これ、最高にいいね」


「私、撮るの上手いので」


 褒められて、得意げにドヤ顔をして鼻を鳴らす私。

 少しだけブレているその写真。


 めっちゃ笑顔な私と、そんな私をビックリした様子で見ている霧先輩。

 背景の海は太陽が反射しており、まぐれにもピカリと私たちの頭上で輝いていた。

 この写真が最高なことに間違いはない。


 バッチリ決め顔をして撮るよりも、こんな感じでわちゃっとしている方がよっぽど私たちらしい。


「はぁ……空が青いな」


 私は空に手を当てて、このシーンに似合いそうな、そんな臭いセリフを言ってみるのだった。


「萌音――」


 カッコつけて、自分に酔っている私の後ろから、私の名前を呼んでいる声が聞こえる。


 その声は、耳にこびりつくくらい聞き覚えがあって。

 昔ならその声が恋しくなるくらいに大好きだったのだが、今となってはもうどうでもいい声。


 どうでもいいとは言っても、懐かしく落ち着く声に、ドキっと私の鼓動は大きくなってしまった。

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