第24話 どうゆう意味
「ホントだ、萌音だ」
「こんなところで偶然だね」
その声に被さるように、これまた聞き覚えのある声が私の耳に届いてくる。
「あれってさ、萌音ちゃん友達……だよね」
呼ばれたのに後ろを振り向こうとしない私に、霧先輩は耳打ちをする。
「友達じゃない人も混じってますけどね……」
「それって……」
わざわざ言わなくていいことを、心のざわつきが抑えられなくてつい口に出してしまう。
後ろを振り向きたくない。
けれど、この場で顔を合わせなければ、自分の中で過去を引きずったままになってしまうことは分かっている。
どんな顔をしていいか分からない。多分、引き攣った顔になる。
それでも……霧先輩との関係を築くために、私は成長しなければならない。
過去の私とはおさらばだ。
「和奏、偶然だね」
後ろを振り向き、私は陽気に手を振ってみる。
「う、うん。元気そうで何よりだよ」
和奏は、自分を見ても元気な様子の私に動揺しているみたいだった。
「今日は友達と?」
「そうだけど、萌音は? 可愛い子を一人連れてるみたいだけど」
「私の友達。霧先輩」
「霧先輩って、詩音先輩と仲がいいって噂の?」
「そうそう。詩音先輩と仲がいいことは私も仲良くなるまで知らなかったけど」
紹介された霧先輩はどうも、と気まずそうながらも軽く会釈をする。
霧先輩にとっては、一番気まずい状況に違いない。
いきなり来た、面識のない私の元カノと友達。何を話したらいいかなんて、私でがその立場だったら固まってしまうだろう。
「もしかしてだけど、萌音は霧先輩と付き合ってたり?」
私と霧先輩を交互に眺める和奏は、どこか不安そうに聞いてくる。
「別に……まだ付き合ってないけど」
「そ、っか」
「そうゆう和奏は、二人のどちらかと付き合ってたり?」
「まさか~。ただの友達だって」
「だよね」
もし和奏にもう恋人ができていたら、私はどんな反応をしただろう。
多分、目の前は真っ暗になって、そのまま和奏と顔を合わせられなくなる。
和奏と付き合ってる人にまで悪口まで言っちゃったりして。
ちゃんといないとハッキリ言ってくれた和奏に、私は霧先輩と『まだ』付き合ってないと少し濁してしまった。
私はやっぱり、性格が悪いのかもしれない。
「でも……なんか安心しちゃったな。萌音に恋人が出来てなくて」
「それ、どうゆう意味」
ホッと胸を撫で下す和奏に、声のトーンは一つ下がる私。
「どうゆうって、特にこれといって意味はなかったけど……」
「……そうなのね」
心のどこかで、教室の時みたいに少し期待してしまった。
和奏から、私が聞いて嬉しいことを言われるのを、私は待っていたのだ。
寄りを戻したいとか、もう一回シたいとか、萌音を忘れられないとか、そういう言葉を私は心底言われたい。
霧先輩が目の前にいるのにも関わらず、私はそんなことを想ってしまった。
「萌音、邪魔になるだろうし私たち行くね」
俯く私に和奏はそう声を掛けると、友達を連れて行ってしまった。
チラリとバレないように和奏の方を見ると、私の胸はキュッと締め付けられる。
すれ違う彼女の横顔が、どことなく寂しそうであったから。
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