第21話 マッサージ


 テラス席。雲一つない青空。

 私の目の前には、太陽に照らされている霧先輩はいつもより神々しくて跪いて拝みたいくらい。


 ここは天界か何かなのかな? と錯覚するほどに幸せなこの空間。


「天気が良くて海も綺麗だねー」


 テーブルに頬杖を付きながら、海を眺める霧先輩。


「そうですね~」


 と、私は相槌を打つが、海などそっちのけで霧先輩のことを目をハートにして見ていた。


「冷めないうちに食べよっか」


「ですね!」


 手を合わせて「いただきます」と二人で仲良く言うと、ハンバーガーの包み紙に手を掛ける。


 が、その前に。


「一緒に写真撮りませんか?」


 本当は水槽の前で映える写真を一緒に撮りたかったが、霧先輩を横にして自撮りをするとなると変な顔しかできなさそうだったから中々言い出せなかった。

 それに、霧先輩もいきなり写真を撮ろうと言われたらびっくりしただろうし。


 絶好の眺めのテラス席、可愛い料理。その中で一番映える霧先輩。

 こんなの絶対にカメラに収めたい。


「写真?」


「はい! 本当は水槽の前とかで撮りたかったですけど、中々言い出せなくて……」


「いいけど……私、写真苦手なんだよね」


「え、なんでですか?」


「カメラを向けられると緊張しちゃって、可愛く映れないから」


 もうその顔から可愛いんですけど。


「大丈夫ですって! 霧先輩はいつでも可愛いんですから」


 と、半ば強引に私は霧先輩の方に身を乗り出す。


 そのまま、勢いで頬をくっつけてしまう。


「ちょ、近い……」


「自撮りなんてこのくらい距離感が近くていいんですよ」


 強がる私だが、心臓が爆発しそうである。

 霧先輩も、顔を真っ赤にして私から目を逸らしていた。


 触れているもっちりと滑らかな頬から、じんわりと熱が伝わってくる。

 こんなに顔を赤くされると、私も顔が赤くないか心配になってくる。

 大丈夫だよね私。あからさまに顔が赤くなってたりしないよね?


 赤面したのがバレないように少し濃いめにチークをしてきたから大丈夫だとは思うけど、それでも心配になるくらいに私の頬も熱を持っていた。


「萌音ちゃんは写真とか得意なの?」


「得意と言われたらそうかもしれないです。友達とよく自撮りとかプリクラとか撮ってるので」


「羨ましいな~。私なんかカメラを向けられるだけで表情が強張っちゃうのに」


「少しマッサージしてみれば、改善されますかね」


「え、ちょ……」


 スマホを膝の上に置くと、私は霧先輩の頬に手を伸ばす。

 柔らかくスベスベな頬を、フニフニと揉んだり押したりしてみる。


「霧先輩、モッチモチ」


「それ、前に詩音にも言われた」


「どうです? 私のマッサージは」


「ん……案外気持ちいかも」


「んん⁉」


 霧先輩から放たれる気持ちいという言葉に、私の表情が一気に強張ってしまった。

 自分でも頬が火照っているのが分かる。


 それにこの状況……勢いでしてしまったけど、よく考えると何やってんだ私!


 私の手の中には、ぶにっと頬を挟まれてキョトンとした顔を浮かべる霧先輩。


「こ、これで少しはよくなりましたかね⁉」


 なんだか急に恥ずかしくなって、声を裏返しながらバッと手を離した。


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