第20話 煩悩!

 魚ではなく、ちゃんとお肉のパティは挟まったバーガーを選んだ私たち。

 選んだそれ受け取ったはいいものの、


「席、どこにしよっか」


 辺りをキョロキョロとしながら霧先輩は席を探すが、どこも満杯であった。


「どこも混んでますね。家族で来ている人とカップルで満席だぁ」


「休日だし、仕方ないよね」


 先に席を取っておけばよかったと後悔する。

 友達とフードコートでご飯を食べる時は、絶対先に座る場所を確保してから食べるものを選ぶのに……。


 霧先輩と一緒に居ることで、私の頭がそこまで回らなくなっていた。

 私のバカ!

 霧先輩をリードするならそこまで気を回さなきゃ意味がないでしょうが!


 全て私の中にある煩悩のせい。ちょっとくらい消え去れ煩悩!


 頭をブンブンと振って煩悩を追い出そうとする私だが、その時ふと窓の外に目が行く。


 フフっ、私の煩悩のおかげでいい場所を見つけてしまったではないか。ありがとう煩悩。


「霧先輩! テラス席はどうですか!」


 私が指差すのは、外にある刺さったウッドテラスの席。


 日差しは少し強いが、パラソルがあるし、海を眺めながら食事ができて最高な場所。


 こんないいところを見つけてしまうなんて、ナイスだ私。ナイスだ私の煩悩よ。

「流石萌音ちゃん。視野が広いね」


「あ、ありがとうございます。もっと褒めてください――」


「えらいえらい」


「そのまま頭も撫でてください」


「えぇー」


「頭を撫でられた方が、褒められてる感があるので」


「そ、そうかもしれないけどー……」


 とは言いつつも、ちゃんと頭を撫でてくれる霧先輩。

 慣れてないからか、撫でる手がぎこちない。それに、ちょっと顔を赤くしているのがまた可愛い。


 撫でられた私も、えへへと笑みを漏らして分かりやすく照れてしまう。

 この否めないカップル感。幸せで昇天しそう。


「萌音ちゃんって、妹気質ある?」


 頭から手を下ろし、霧先輩は聞いてくる。


「そうですかね? 一人っ子なので妹ではないですけど」


「なら、甘え上手なのかな?」


「あぁ~、それはあるかもです。よく詩音先輩にも言われます」


「詩音にも甘えるの?」


「まぁ……この前なんか、私が振られて大泣きしている時に、詩音先輩の家に行って朝まで頭を撫でてもらってました」


 あの時は、本当に助かったよ詩音先輩。どさくさに紛れて胸も揉ませてもらったけど、それは言わないことにしよう。


「ふーん、そうなんだ」


 窓の外を見ながらそう言う霧先輩の頬は、気のせいか、ほんの少し膨れているように見えた。

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