第19話 私の一番は霧先輩
「なんかはしゃいでたら私、お腹空いてきちゃいました」
朝ご飯を食べ損ねたのもあり、グーとお腹が鳴ってしまう。
「ちょうどそこにランチできるところあるから、ここで食べちゃう?」
「食べましょ食べましょ!」
偶然すぎるくらいに、目の前にはお店が数軒立ち並んでいた。
空気読みすぎでしょ、この水族館。
「どれも美味しそう」
お店の看板を見ながら、うーんと唸る私。
「私、せっかくだから水族館っぽいもの食べたいかも」
「いいですね! でも……どれも海の生き物をモチーフにしてるから選びづらい……」
「なるべく可愛いものが……」
「どれも可愛い……ご飯がイルカの形をした『イルカレー』。カワウソのイラスが書かれた大きな海苔が乗っている『カワウそうめん』。悩ましい……」
「これは悩むね~。美味しそうだし」
横にいる霧先輩も、顎に手を置いて悩んでいた。
この水族館で一番可愛いかった生き物の料理にしたかったけど、私の一番は霧先輩なわけで。
ここに防音がしっかりした個室があって、ベッドとシャワーが用意されているわけもないからそれはムリ。
となると二番目に可愛い生き物は……。
「あれ、どうかな?」
悩んでいる私に霧先輩が指を差したのは、バンズがクラゲの形をしたクラゲバーガー。
バンズの上にはオシャレにクラゲの焼印が押されている。
パディが二枚にチーズたっぷり。ポテトも添えられていて一見太りそうだが、野菜もしっかりと入っていて、あまり食べも罪悪感が湧かなそう。
ジャンキーな食べ物に野菜が入ってると、カロリーが〇に思えるよね。可愛いのもプラスされると、逆にダイエットだとも思えるよね。うん。
本当は太りそうなものは避けている私だが、ここは自分に言い聞かせる。
そもそも霧先輩が選んでいるわけだし、私が食べないわけないよね。
「めっちゃ美味しそうだし可愛いです!」
「それじゃ、あれで決定でいい?」
「はい!」
「メニューはどうする? 私は一番オススメって書いてるやつにしようと思うけど、挟まってるもの種類が選べるから萌音ちゃんは何がいい?」
お店の看板の前にあるメニュー表を見ると、霧先輩は私の方を首を傾げながら見つめる。
「水族館に来てフィッシュバーガーを食べるのはなんか心が痛いので……霧先輩と同じのでお願いします」
「それもそうだね」
この水族館はタブーという言葉を知らないのだろうか。水族館に魚を使った料理を置いているとか、タブー極まりない。
気になって違うお店の料理も見てみると、お寿司だったり焼き魚定食のようなコンプラ的にNGの料理まで取り扱っていた。
ここは魚を美味しく食べるのが目的ではないことをお忘れなのかな?
流石に魚の姿が丸々分かるような料理は提供しちゃダメでしょうが……純粋無垢な子供が泣きそうで実に心配。
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