第18話 水槽の光の効果
「霧先輩、中入りましょっか」
券売機から発券されたチケットを手渡すと、水族館のゲートをくぐる私たち。
相変わらず、手は繋いだまま。
手汗が心配だとか、自分の手がゴツゴツしていないかとか。少し心配なところはあるけど、それよりも手を繋いでいるのが心地が良い。
段々と暗がりに入り、チラホラと水槽が目の前に現れ始める。
「ほらほら、小っこい魚がいっぱいいますよ!」
水槽の中の可愛い魚たちに、霧先輩よりもテンションが上がってしまう私。
「ホントだ。色んな種類いるね~」
「前来たときより内装が綺麗になってて、水槽も変わってて、なんかテンション上がっちゃいます」
「私も。前来たのは両親とだったし、萌音ちゃんと来れたことにもちょっと浮かれちゃうな」
「私と来れたことにですか?」
「うん……デートスポットみたいなところに二人で来るの、萌音ちゃんが初めてだから」
「霧先輩……」
まだ水族館の中に入って数十歩しか歩いてないのに、ラストシーンみたいなこと言われちゃったんですけど!
ロマンチックな展開には早すぎると思うんだけど⁉
水槽に照らされる霧先輩の横顔。
それは、早すぎるがラストシーンに相応しいほどに綺麗だ。
「さ、さぁ~! もうちょっと奥に進んでみようよ!」
そんな横顔に見惚れていると、霧先輩は小っ恥ずかしくなったか、足早に歩き始める。
こうゆうところは、初心で可愛いんだから。
スラリと高い霧先輩の後ろ姿にはにかみながら、その後を付いていく。
歩きながら、水槽を見ては霧先輩が「この魚、可愛いね」とか「すごいね」とか、目を輝かせて私に言ってくるが、魚よりも霧先輩の横顔に見惚れていた私は「そうですね」と淡々な言葉しか返せていなかった。
水槽の光の効果、恐るべし。いつにも増して霧先輩のことを見入ってしまう。
そうこうしている内に、気付けばメインの水槽を通り越し、あとは残りは少しとなっていた。
「あ、萌音ちゃんが好きなチンアナゴ」
先輩が指差す先には、タツノオトシゴや、ヒトデなどの変わり種が集合している水槽。
「チンアナゴ、ですね」
電車に乗る前、可愛いかエイリアンみたいか自分でも分からなくなってしまったため、見つけても素直に喜べない。
「うーん、これが魚って興味深いね」
「どうゆう進化をしたらこうなるのか、不思議ですよね~」
「何かしら理由があるからこうなってるんだと思うけど……」
「魚だとは思えませんよね~」
「よく見ると、ちょっと可愛いかも」
チンアナゴをじっと見ていた霧先輩は、小さく呟く。
「ですよね! やっぱり可愛いですよね!」
「いきなりテンションが高くなったね」
「霧先輩にもこの可愛さが分かってもらえて嬉しいです!」
そうだ。霧先輩が可愛いと言えばなんでも可愛いんだ。
チンアナゴは可愛い。
誰になんと言われようと、エイリアンみたいでも可愛いのだ。
やはり、私の感性は間違ってはいなかったみたいだ。
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