第17話 キス待ち

「あ、あの先輩……そろそろチケット買いませんか?」


 後ろに列はできていないもの、券売機の前で長時間居座るのは普通に邪魔だ。

 あとは私の精神がそろそろ限界を迎える。

 ここで暴走するのは避けたい。


 せめて人目が付かない暗がりに行ってから霧先輩に股ドンしたい。


「そうだね、すっかり忘れてたよ」


 ハっとした先輩は、肩掛けのポーチから財布を取り出す。


「あ、霧先輩! ここは私が出します!」


 その姿を見て、慌てて私もバッグから財布を出す。


「え、いいよいいよ」


「いえいえここは奢られてください!」


「私奢られるようなこと何もしてなくない?」


「この前、資料の作成手伝ってくれたじゃないですか。それに、霧先輩に出会えたことにお礼したいんです」


「手伝ったのはいいとして、なんで出会えたことが私を奢る理由になるの」


「だって……霧先輩があそこに来てくれなかったら、今こうして一緒に居れなかったじゃないですか」


 霧先輩は気づいていないかもしれないが、私は感謝しきれないくらいに救われている。


 生徒会室で出会ってからまだ間もない、過ごした時間も数えられるくらいだけど。それでも、私は霧先輩に目には見えないものを沢山貰っている。


 同じようなものをお返しできるかは分からないから、せめて目に見えるもので返したい。


 あとは……いつも変な妄想してごめんなさいという意味もあるけど……。


 その言葉に霧先輩は一瞬、瞳をときめかせたような気がした。

 そして、一度深呼吸をすると、


「分かった今日は奢られるよ」


 私の推しに負けたか、あまり納得がいかないながらも、自分のバッグに財布をしまった。


「だーけーど!」


「ひゃい!」


 急に顔を近づけてくる霧先輩に、驚いて声が裏返ってしまう。

 そのまま唇を重ね合って――っと、目を閉じてキス待ちの顔をするが、


「次なんかあったときは私が奢るからね!」


「わ、分かりましゅた……」


 キスではなかったものの……不意打ち過ぎだよ霧先輩……。

 されないと分かっていてもつい期待してしまった。


 そのまま耳元で囁かれてたら、地面に倒れて救急搬送されるところだった。

 やっぱり霧先輩、肉食系なのかな? 親しくなったら壁がなくなってグイグイ来るとか。


 霧先輩に押し倒されるのも……あり、めちゃくちゃあり。

 私が押し倒して責めたいけど、責められるのも……悪くはない。


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