第16話 ……萌音ちゃんのいじわる

「でも悩むこともあるよね。実際、萌音ちゃんすごく悩んでたって詩音から聞いたし」


「私の場合は別れたからですよ~。悩んでるというより勝手に病んでただけですし……」


「恋愛って難しいとは聞くけど……したことがないから私はアドバイスもできないし」


「霧先輩が私の為に悩まなくていいんですよ⁉ 話を聞いてくれて、こうやって気持ちを共有できるだけで嬉しいんですから!」


 それだけで、私は心から幸せ。

 だから、幸せの気持ちを霧先輩にも分けてあげたい。思う存分、ありったけの幸せを。


「恋愛、してみたいな」


 ポツリと霧先輩は呟く。


「霧先輩も意外に乙女なんですね」


「わ、私だってしたい気持ちはあるよ……手を繋いだり、キスしたり……いっぱいドキドキしてみたい」


「さっき、私と手は繋いだじゃないですか~」


 恥ずかしそうに口をすぼめながら言う霧先輩に、ニヤニヤと笑みを浮かべながらおちょくってみる私。


「そっ! それはまだノーカンでしょ!」


「それに間接キスもしちゃったし~」


「あれは流れでっ……!」


「霧先輩、顔真っ赤ですよ?」


 赤くなった頬を人差し指でちょんちょんとつつくと、


「もーっ! ……萌音ちゃんのいじわる」


 こちらに恥じらいの眼差しを向けてくる霧先輩。

 その表情、ずぶ濡れになってしまう。


 ヤバい、なんかハマりそうなんだけど。霧先輩の目に脳がとろけてしまいそうな、そんな感覚。


 変な癖に目覚めそうで怖いな……。


「霧先輩モテるだろうし、恋人なんてすぐ出来そうですけど」


 これ以上霧先輩をいじめて歯止めが利かなくなる前に、私はコホンと咳ばらいをする。


「モテてるなら今頃恋愛経験豊富だよ? でも恋人すら出来たことがないってことはそうゆうことなの」


「学校にいい人はいないんですか?」


 この答えによって、また私は直接的ではないが振られることになる。

 それでも聞きたい。霧先輩のことを。

 心の中で必死に拝む私。


「好きと聞かれたらまだ分からないけど、一緒に居て心地がいいなーと思う人はいるよ」


「そ、そうなんですね」


「これからその子ともっと仲良くなって、色々なことをしてみたいなって」


 あ、これ私のことなんじゃ? って何を浮かれているんだ私は。

 美少女な霧先輩の周りには、可愛い子がいっぱいいるはずだ。その中の誰かかもしれないのに。


 でも、霧先輩は学校では髪を下ろしてるわけだし、あまり人とも関わらないって……ということは本当に私のことなんじゃ⁉


 段々と私の鼻息は荒くなる。


 待て待て待てちょ待てい!

 一旦落ち着こう、深呼吸をして……ってできるわけない!


 興奮しすぎて目が血走りそうなんですけど!

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