第15話 実は私も……なんだよね

 海沿いの道をしばらく歩き、水族館に到着。

 チケット券売機の前に立つ私たちは、こんな会話をしていた。


「チケットは……高校生二枚っと」


 霧先輩はそう呟きながら端末を操作する。


「ペアチケットだと安くなりますけど、カップル限定ですからね」


「しかも、小さく(男女限定)って書いてあるしね」


「世知辛い世の中ですね。今の時代同性カップルなんてありふれてるのに……」


 ああゆう言葉を見てしまうと、心が痛くなる。

 誰と恋愛したって当人同士の自由なのに、なんで世間の目を気にしたり、気を遣わきゃいけないのか。


 まだまだ理解がないこの世の中。本当に生きづらくて仕方がない。

 けれどまぁ、周りにとやかく言われて自分を抑えるよりも、自分たちが幸せなのが一番だよね。


「確か、萌音ちゃんも女の子が好きなんだっけ?」


 聞かれたその言葉に、私は少し困惑してしまう。

 本当のことを言ったら引かちゃうのではないか、嫌われちゃうのではないかと、色々なことを想像してしまう。


 霧先輩は違うと分かっていても、やはり不安になってしまう。

 けど、嘘は吐きたくない。

 どうゆう意図で聞いているかは分からないけど、こんなところで嘘を吐いたって意味がない。


「まぁ……はい」


 少し俯きながら答えると、霧先輩は私の肩に手を添える。


「やっぱり、萌音ちゃんもそうなんだね」


「もってことは……霧先輩もなんですか?」


「うん……実は私も、なんだよね」


「えぇぇぇぇぇぇえ‼」


 衝撃の事実に、私はつい声を張り上げてしまう。


「ちょ、萌音ちゃん声が大きい!」


 私の大声に周囲の目が一気に集まると、慌てて霧先輩は唇の前に人差し指を当てる。


「すみません……けど、流石にビックリしますって!」


「まぁそうだよね……こんなところで話す内容でもなかったし」


「いえいえ! 私としては聞けてよかったです!」


 目をキラキラと輝かせる私。

 これは、私にもチャンスが大いにあるってことになるよね⁉

 有益な情報すぎる! 一気に自身がついたぞこれは!


「でもね、まだ自分でも分からないんだ」


「分からないって、好きとかそうゆう話ですか?」


「うん……これまで一度も恋愛とかしたことないから。けど、異性のことは好きになれないのは自分の中で分かってて……なんかもう自分でも分からなくなるときがあるんだ」


「分かります! 男子から告白されてもときめかないし、何言ってんだこいつ、くらいにしか思わないですよね!」


「そうそう! ドキっともしないし、感情が無に市等しくなるの!」


「なら霧先輩は私と同じサイドの人間ですよ!」


 霧先輩と同じ感情を共有できて、なんか嬉しくなっちゃう。

 身近にこうゆう感情を共有できる人が詩音先輩くらいしかいなかったから尚更嬉しい。

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