第14話 ズブズブな関係になりたいです

 電車で特に会話もないまま、スマホと睨めっこをすること約一時間。

 水族館の最寄駅へと到着した。


 何やってんだ私! なんで霧先輩に話し掛けなかったんだ! バカか、バカなのか⁉

 本当だったら微笑ましく談笑しながら電車の中を楽しもうとしたのに、何スマホとばっか目が合ってるんだよ!


 チラチラと霧先輩を見ていたが、その視線には気づいていないようだったし……。

 デート初手から大失敗をしてしまった……。これも全部チンアナゴのせいだ……許さない。


 でも、まだ始まったばかりだ。ここから挽回すればいい話。

 弱気になるな七尾萌音! 私ならいける!


「霧先輩って、よく友達とかお出かけするんですか?」


 駅から歩いてる途中、さりげなく手を繋ぎなが言う私。


「あんまり遠出はしないけど、詩音に連れられてご飯とかショッピングはするかな」


「へぇー、詩音先輩とそんなに仲がいいんですね」


「もう親友って感じだよ」


「詩音先輩、霧先輩に親友とか思われてるのズルい」


 クスっと小さく笑いながら言う先輩に、私はプクリと頬を膨らませる。

 そんなに仲がいいなんて聞いてないぞ詩音先輩め。

 私も霧先輩と親友になりたい……あわよくばそれ以上の関係になりたいのに……。


「詩音とは中学の時からの仲だからね」


「長い付き合いなんですね」


「そうそう。腐れ縁? みたいな感じでさ、詩音が私をほっとかないみたいな」


「……私も霧先輩とズブズブな関係になりたいです」


「ズブズブって……萌音ちゃんは私に何を望んでるの……?」


「も、もっと親密になりたいだけですよ! ほら、先輩と仲がいいってなんか憧れるなな~って」


「そうね。私も後輩と仲良くなるの憧れてたから、いいね」


「で、ですよね~!」


 危ない、つい本音が口から出るところだった。

 バレたら絶対にダメなやつなのに、詩音先輩のせいで危うく口を滑らせるところだった。


 今日の夜にでも詩音先輩に電話して一言ガツンと言ってやろう。

 私の本性を遠隔で暴く気か! って。


「今日せっかくこうして二人で出かけてるわけだし、仲を深める絶好のチャンスじゃない?」


 しょんぼりする私の顔を覗きながら霧先輩。

 その言葉に、私は唖然してしまう。


 霧先輩、案外グイグイ来るじゃん。初心な部分ももちろんあるけど、こうゆう時はしっかりと自分から思いを告げるタイプ。

 そうゆうところ、クールで好きっ!


「そ、そうですね! 絶対に霧先輩と親密な関係になりますから!」


 私も負けてられない。

 ていうか、今日は私がリードするんだ! 


 ときめかせて、私のことしか考えられない体にしてやるんだ!

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