第13話 可愛いじゃないですか!

「それじゃ、先輩! 行きましょっか!」


「え、ちょ……っ」


 調子に乗ってしまった私は、手を繋いだりしてみる。

 繋がれたことにビックリする霧先輩だったが、反応とは裏腹に優しく握り返してくれた。


「最初は映画を見ようと思ったんですけど~、やっぱ水族館行きたいなーって」


「水族館ってなると……ここから一時間くらい?」


「そうですね、ざっとそのくらいになります」


「水族館なんて、小学生ぶりくらいだよ」


「霧先輩、乗り気ですね?」


 思いの他、霧先輩がソワソワしているような気がする。

 電車移動はなるべく短くしたかったけど、水族館へ行くためなら仕方ない。


 ここら辺の近くで映画を見たり、ショッピングをしたりしても、そこまで記憶には残らないと思うから。


 霧先輩との最初のデート。

 思い出に残るものにならなければ意味がない。


「霧先輩って、水族館だったら何が好きなんですか?」


 改札を通り、ホームで電車を待っている間、ふと気になって聞いてみる。


「カクレクマノミとか、小さくて可愛いやつが好きだな」


「ちっこくて可愛いのいいですよねぇ~! 私も好きです」


「そ、そうなんだね……」


「けど、私が一番好きなのは――」


 ここで、霧先輩ですよ。とか言ってみたいけど、


「チンアナゴが好きなんですよ!」


 口から出るのは、ただの自分が好きな生物の名前だった。


「え、チンアナゴ?」


「はい! 可愛くないですか?」


 真面目な顔をする私とは逆に、ポカンとした顔を浮かべる霧先輩。


「可愛い……の? アレ」


「めちゃめちゃに可愛いじゃないですか~」


 あの砂から出た体で、水中をクネクネと動いてる姿、ずっと見ていられる。

 謎の生物と言われがちなチンアナゴだけど、あれはれっきとした魚。


 ちゃんとヒレが付いてるし、水の中で呼吸ができてるからエラだってある。

 ……専門的なことは分からないけど、魚だってことは知っている。


「なんかエイリアンみたいじゃない?」


「そ……そこが可愛いんですよ!」


 言われてみれば……エイリアンな気がするけど、今更確かに~、って言えるわけもないから突き通すしかない。


「あ、電車」


 主張する私の横を、快速急行の電車が停止する。

 扉が開き、苦笑いをする霧先輩と顔が赤くなった私は、電車へと乗り込む。


 なんか気まずい雰囲気になった私たちなんかお構いなく、電車は海沿いの終点まで出発するのだった。



 最初から変なこと言っちゃったぁぁぁ私ぃぃぃぃ!



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