第11話 今週空いてます?

「私相手なんですから、そんなに緊張しないでくださいよぉ~」


「間接キスもそうだし、人と手すら繋いだことないんだよ? 私」


「霧先輩めっちゃ初心なんですね。顔も真っ赤ですし」


「へぇ⁉ 私、顔赤い⁉」


「熟したリンゴみたいに真っ赤ですよ」


 指摘された霧先輩は、自分の頬を両手で覆う。


「はぁ……なんで顔に出ちゃんだろう」


「いいじゃないですか。そうゆうところも可愛いですよ」


「あんまり先輩をからかうのはよくないよ?」


「からかってません。本心です」


「本心だからこそなんだって……」


 最終的には、プシューっと頭から湯気を出して萎縮してしまった。

 はぁ、今すぐ襲ってしまいたい。心底そう思う。

 犯罪にならないなら、両手を縛ってでも霧先輩の体を堪能するのに……日本の法律がそれを許してくれないからなぁ。


「可愛いなぁ……」


 狼狽える霧先輩をジーっと見ていると、


「……もうっ」


 背筋をピンと伸ばした霧先輩は、目をつぶりながらアイスをパクパクと食べ始めた。


 これ以上私にいじられたら身が持たないと思ったのだろうか。

 その食べる姿も可愛い。小動物が否めない。


「よし! 今日はもう帰ろう!」


 食べ終わったゴミを捨てると、霧先輩はバッグを持って立ち上がる。


「え⁉ もう帰っちゃうんですか⁉」


「日も暮れちゃったし、今日はお開き!」


「でもなんでいきなりぃ~」


「ちょうどキリがいいでしょ? 学校もあとちょっとで閉まるし」


「確かに、キリがいいですね。霧先輩だけに」


「別にダジャレで言ってないからね?」


「……すみません」


 急なダジャレに私はクスリと笑ってしまう。

 そうゆう霧先輩も可愛いぞ!


 食べ終わってすることもなくなったとしても、どうして急に帰ろうなんて言い出したのだろう。


 私を嫌がる様子もなかったし……むしろ逆なのか⁉


 私のことが気になってて、それがバレなくないから帰ろうとしているのでは⁉

 もしそうなら、逃がすわけにはいかない。

 今日はもう十分楽しんだとしても、次に会う口実を作らなければ。


「霧先輩。今週の休日空いてますか?」


 生徒会室を出る時、霧先輩の肩を叩きながら上目遣いで聞いてみる。


「今週? 特に予定はないけど」


「それなら、どこか遊びに行きませんか⁉」


「わ、私と?」


「はい! 霧先輩とです!」


 よし、予定が空いていることが分かれば、あとは私がゴリ押しするだけだ。


「ダメ……ですか?」


「ダメではないけど……私でいいの?」


「霧先輩がいいんです!」


「それじゃぁ……行こっか」


 真っ直ぐな目をする私に、それほど迷うわけもなく、霧先輩は誘いに乗ってくれた。


「やったぁ! ありがとうございます!」


 霧先輩とデートっ、デート~♪


 どんな服着ようかな~。可愛い系? それともクール系?

 隣を歩いても違和感がないような服装にしなければ。


 予定が決まっただけでも舞い上がってしまう。


「そうだ! 詳細は帰ってから決めようと思うので、連絡先教えてください!」


 浮かれて忘れないうちに、LINEでもインスタでも連絡先を貰わなくては。

 学校で話し掛けてもいいけど……それは霧先輩が動揺しそうだし、詩音先輩も茶化してきそうでなんか嫌だ。


 ポケットからスマホを取り出す私に、


「うん、いいよ。LINEとインスタどっちがいいかな?」


「どっちもでお願いします!」


「いいけど、私、インスタはあんまり投稿とかしないけどいいの?」


「いいんです! 持ってるだけで嬉しいので!」


「そ、そっか……」


 霧先輩のスマホの画面に表示されたQRコードを読み取る。

 LINEのアイコンもインスタのアイコンも、赤色の彼岸花。

 落ち着いた見た目と反して、情熱的な人なのかな……?

 それもただ単に綺麗だからなのかな?


 どちらにしてもセンスがいいし可愛い。


「色々予定が決まったらLINEします!」


 大切だった連絡先を消して寂しくなったスマホに、新たに大切な連絡先が加わったそれを、私は胸元でそっと抱きかかえる。


「楽しみましょうね! デート!」


「で、デート……」


 満面の笑みで言う私に、霧先輩は初々しく顔を赤らめるのであった。

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