第10話 先輩の初めて

「私も一口」


 続けて霧先輩も、私の手に持っている棒アイスを咥える。

 勝手に私がいやらしい想像をしているだけかもしれないが、咥える様子がアレにしか見えない。


 棒を咥えること自体、私が異性を好きじゃないからエロスは感じないけど、霧先輩の口を広げる姿がエロ過ぎて堪らない。

 口を離すと、口元についたチョコをペロリと舐めながら霧先輩。


「んーっ、これも美味しいね」


「先輩のアイスも美味しかったです」


「二人で違うアイスを食べてると、こうやって味を交換できるのが良いところだよね」


「まぁ、他にも良いところはあると思いますけど……」


 ボソリと私は一言。

 間接キスの醍醐味はこれだけではない。

 相手のスプーンを舐めたくらいで私は満足しないのだ。


 自分の手に持っている棒アイスを眺めると、私はゴクリと生唾を飲む。


 そう。本命はここだ。


 平然を装いながら食べたいが、私の心臓は目の前にいる霧先輩だけでバクバク。

 なのに、このアイスを食べるとなると発作で倒れそう。

 けど、こんな状態になっているのを気付かれるのはごめんだ。


「萌音ちゃん、一気に食べなくていいのに」


 もう味すら感じなくなるほどに、アイスを一気に頬張る。名残惜しいけど、これが一番の解決策なのだ。


「美味しかったので、つい」


 口元に付いたアイスをティッシュで拭くと、お茶目に可愛らしく舌を出してみる。

 これで偽装成功。


 間接キスなど全く気にしてないように演じることが出来た。

 安堵のため息を吐く私だが、正気に戻った時にとあることに気づく。


「霧先輩は、アイス食べないんですか?」


 さっきから食べる手が止まってることに。


「い。いや……」


「溶けちゃいますよ?」


「……うん」


 スプーンを眺めながら、難しい表情をする霧先輩。

 もしかして、私との間接キスキスが嫌だった? ううん、それはない。

 嫌だとしたら、私の食べたアイスなんて食べない。

 となると、考えられることは一つしかない。


「先輩、間接キス……気にしてます?」


「……っ!」


 私の質問に、霧先輩の顔は分かりやすく赤く火照り上がった。

 図星だったようだ。


 可愛いところあるじゃん、なんて言いながら顎をクイっと持ち上げて、アイスを食べさせてあげたいけど、欲に耐えよう。


「女子同士だから気にしないでくださいよ~! しかも私のアイスも躊躇なく食べてたじゃないですか~!」


「それとこれとは別で……その……」


 私と同じ考え持つ人種なのか⁉

 人のは食べれて自分のは食べれない変態的素質を持つ逸材なのでは⁉


「私、こうゆうの初めてで……緊張するというか、何というか……」


「霧先輩の初めて……」


 大事な初めてを私が奪ったぁぁぁぁ!


 なんという背徳感!


 なんという幸福感!


 うわ、めっちゃ興奮してきた。

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