第5話 先輩、人見知りなんですね
「い、いらっしゃいませ」
店員でもないのに、先輩の容姿に目が釘づけな私は、ポカンと口を開きながら言う。
「今日、一緒に仕事をするのはあなたで合ってる……かな?」
「は、ひゃい!」
「私、三年の園部霧(そのべきり)。初めまして、だよね……?」
「初めましてです! 私は二年の七尾萌音と言います! 今日はよろしくお願いしますっ!」
張り切り過ぎた挨拶をした私の声は裏返り、初手からなんとも恥ずかしい姿を見せてしまった。
そんな私の姿を見た霧先輩は、クスっと小さく笑う。
「萌音ちゃん……ね。今日はよろしく」
「よ……よろしくお願いします……」
先輩の用意した助っ人は、私の期待以上の人物だった。
可愛い女子が大好物の私のテンションは爆上がり。
もう失恋なんてどうでもいいくらいに霧先輩に見惚れてしまっている。
なんならもう和奏よりも霧先輩を好きになってしまっている。
どうゆう性格で、どんなことが好きで、誰と仲がいいのかとか。
何も知らないけど、そんなのどうでもいいくらいに霧先輩のことをもう好きになってしまっている。……これが一目惚れというやつなのか。
「今日の作業、これでいいのかな?」
霧先輩は、私の隣にある椅子に座ると、ペラペラと資料をめくる。
「この量、流石に一人は厳しいよね。詩音も後輩一人に任せようとしてたとか……全く」
「霧先輩は、詩音先輩と仲がいいんですか?」
「ん、まあ。仲は良い方だと思うよ」
不意に聞かれた先輩は少し上の方を見ながらそう答える。
「だから今日、私を手伝いに来てくれたんですか」
「詩音がどうしてもって言うからさ、私は対面の人と喋るの苦手だから最初は断ったんだけどね」
「苦手って、私とちゃんと話せてるじゃないですか」
「そうだね……なんか、萌音ちゃんは話しやすいかも」
「あ、ありがとうございます……」
可愛い先輩に嬉しい言葉を貰ってプシューっと顔が赤くなる。
心臓の音が霧先輩に聞こえているか心配になるくらい私も緊張しているが、確かによく見ると、霧先輩の目は泳いでおり、おどおどとしているのが気になる。
「先輩、人見知りなんですね」
「極度のね。だから学校では普段前髪で顔を隠してるんだよ」
作業をしていた手を止めると、恥ずかしそうに目を逸らしながら霧先輩は言う。
「だから私、先輩のこと分からなかったのか」
「ほら、こうすると別人みたいでしょ」
と、霧先輩は、横に分けていた前髪を下ろす。
鼻先まで伸びた前髪は顔を隠し、正面から見ると、面影もないくらいだった。
「ホントだ……私がどおりで気づかないわけだ……」
「気づかない?」
「いえ! なんでもないです!」
初対面の先輩に、可愛いと思った人は全員目星をつけている、なんて言えたものじゃない。
普通に考えて不審者すぎる。それを通り越して犯罪者とも言えるくらいだ。
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