第4話 運命の時は突然に

 放課後。

 生徒会室の長机に置かれていた分厚い資料たち。どうやら次の全校集会で使うもののようだ。


 その上にポツリと置かれた詩音先輩の置手紙。


『助っ人と協力して今日中によろしくね!』


 まるで他人事だ。

 この資料を使って全校生徒の前で話すのは詩音先輩なのに、やる気のない私に任せていいのだろうか。


 助っ人がいるから大丈夫だろうと安心しているかもしれないけど、その助っ人で私は頑張れる気がしない。


 期待しててと胸を張ってるくらいだから、まぁ私が信頼……とまではいかないけど腹を割って話せるくらいの人だろうけど。

 流石に、助っ人とやらを信用しすぎだと思う。


「来るまで、一人で進めておこ」


 後から、あぁ~あのときやっておけばよかった~などと自分の首を絞めるのはまっぴらごめんだ。

 どうせ嫌でもやらなきゃいけない仕事。進めといて損はない。


 積み上げられた資料を一部取り、作業を始める。

 やることは、誤字脱字のチェックと、部数のチェックのみ。

 作業自体は楽なのだが、全校生徒の分と考えると胃がキリキリとしてくる。


 普段の私なら、ちょちょいのちょいと作業を終わらせられるのだが、今の私で到底無理。

 助っ人のおかげで作業効率が二倍になるのが普通に助かる。


 詩音先輩も鬼だよ。

 こんな気が狂いそうな仕事を任せるんだもん。

 失恋したJKをもっと優しく扱ってほしいものだ。


 一人でブツブツと可愛い愚痴を吐きながらも、しっかりと手を動かす。


 時間が経つにつれ、助っ人がいつ来るのか~とか、どんな人なのか~とかちょっと期待してソワソワとしている。


 詩音先輩のせいで、ちゃんと期待してしまって心が躍っている。

 傷心中だけど、そうゆうところはちゃんと乙女で。

 自分でも可愛いな~、なんて心が闇に堕ちていないで少し安心している。


 鼻の下にペンを挟んで頬杖をついたり、足をブラブラと動かして不安と期待を持ちながら助っ人を待つ。


 いやいや、待ちぼうけしてたらいけない。

 来た時に手を動かしていなかったら、サボってるとか思われそう。いい印象も絶対に持たれない。


 パチンと頬を軽く叩いて気合を入れると、また作業へと戻る。

 集中なんてできっこないけど、とりあえずは手を動かそう。

 そうして鼻歌なんかを歌ったりして進めていると、運命の時は私の心の準備も待たずに訪れる。


「し、失礼します……」


 コンコンコンと、三回ノック音が聞こえると、ゆっくりと生徒会室の扉が開く。

 部屋に入ってくる一人の女子に私は一言。


「……可愛い」


 その感想しか出てこなかった。

 黒髪のセミロングヘアに、身長はスラリと高く、引き締まったボディーライン。

 芸能人もびっくりするくらいのモデル体型。


 制服のリボンが緑色ということは、詩音先輩と同じ三年生。


 こんなに可愛い人がいるなら、私が知らないわけがない。

 可愛い女子は大体、じゅるりとよだれを垂らしてマーキングしている私なのに、学校ではこの先輩を見かけたことすらなかった。



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