第2話 お助け侍的な?
『今、泣いてるでしょ』
画面を操作し、そのまま耳に当てると、小さく笑いながらも優しく透き通るような声が聞こえる。
『分かってて電話をきたの? 詩音先輩』
電話の主は、立命(りつめい)・アルタージュ・詩音(しおん)。私の一つ上の先輩で、高校の生徒会長を務めている。
ギリシャ人とのハーフで、肩まで掛かる艶やか白髪と、エメラルド色の瞳。クレオパトラのような美貌の持ち主だ。
そして、私の大切な理解者であり、友人である。
そんな彼女と知り合えたもの、全ては生徒会のおかげ。
ひょんなことから入った生徒会だが、こうして一個上の大切な友達ができたのだ。
『私が慰めるキャラだと思ってるの?』
『さらさら思ってないよ。どうせ明日の話でしょ?』
『本当は明日くらい休ませてあげたかったんだけど、あいにく仕事が山積みなもんで』
『放課後、生徒会の全員で近隣の高校に挨拶周りなんだっけ』
明日は、他校と親睦を深めるために三校ほど挨拶に行くのだが、あいにく知らない人の前で笑顔を作れる程私に余裕はない。
『そう。本当は萌音も参加させる予定だったけど、そこは断っておいたよ』
『めっちゃ助かるそれ……』
私の心情を理解していた詩音先輩は、先に断っておいてくれたらしい。
流石、全校生徒に好かれる生徒会長。
『その代わりではないけど、学校に残って事務作業をして欲しいんだよね』
気は利かせてくれるものの、しっかりと業務はよこしてくるところも流石生徒会長だ。
『一人で?』
『明日くらい、萌音は一人になりたいでしょ?』
あと一週間くらいは無気力で、何もしたくない私だけど、仕事は仕事だ。
割り切ってやらなければならない。
勝手に失恋している一人の少女が生徒会自体に迷惑はかけれないのだから。
『まぁ、そうだね』
生気のこもってない声で言う私に、何やら企んでいる様子で詩音先輩は声高々に話す。
『でも、結構な量があるから一人でとはとても言えなくて、一人だけ助っ人を用意しておいたから!』
何それ聞いてない……って今聞いたばっかだから当たり前なんだけど。
『お助け侍的な?』
『的なやつ』
ついさっき「一人になりたいでしょ?」とか気を利かせて言ってきた優しい先輩の言葉はどこへ行ったのやら。
完全に矛盾している言葉が聞こえてきた。
助っ人……か。
黙々と失恋の痛みに病みながら作業をするのはちょっとしんどいところではある。
けれど、その助っ人とやらが私と面識があり、尚且つある程度心を許せて話せる人じゃない限りは来たところであまり意味がない。
仕事は二倍進むかもしれないけど、私へと負担はその分二倍になる。
『ちなみに誰かは――』
『それは明日のお楽しみだよ♪』
私の言葉を遮り、どこかご機嫌な様子で口にする詩音先輩。
この調子だと、いくら聞いても教えてくれなさそうだ。
絶対に何か企んでいる。
私には分かる。電話越しにニヤリと不快な笑みを浮かべている詩音先輩の姿が。
『はぁ……明日の放課後、とりあえず生徒会室に行くよ』
ため息交じりに言う私。
部屋の反対側にある姿鏡映る、ベッドに横になる私。
さぞかし涙でくしゃくしゃになり酷い顔をしていると思ったが、案外いつもと変わりのない様子に、自分でもびっくりしてしまう。
――人と話すって、大事なことなんだ。
詩音先輩には、私のあらゆることを聞いてもらっているし、それが私の精神安定に繋がってて、今もこうして死んでいる顔は浮かべていない。
私の言葉を受け止めてくれる壁みたいな優しい人。
けれど、やはりこの感情を他の人にもぶつけてみたい。仲のいい先輩一人だけでは私の感情のはけ口はどうにも少ない。
明日、私の前に現れる人次第では、話を聞いてもらおう。
仕事する傍ら、壁になって欲しい。
事情を説明すれば明日くらいは私の話を聞いてくれるだろう。
『萌音ちゃん、絶対に気に入ってくれるはずだから』
詩音先輩の呟く声が聞こえると、そのまま通話は切れてしまった。
そこまで言うなら、先輩を信じるしかない。
「その言葉、期待するからね」
スマホを胸に当てると、目を閉じる。
明日のことは、明日にならなければ分からないけど。
先輩の言葉に、私はちょびっとだけ学校へ行くのが楽しみになった。
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