第4話 目標4
〈この角を右に。Object-4の移動経路に先回りできます〉
「了解した」
計12機のKf-7を破壊し、既にマシンピストルの弾薬を使い果たしていた。頭部同軸チェーンガンの残弾は500発強。しかし30口径高速弾では、RCはおろか多脚戦闘車の複合装甲を貫通することも不可能である。
角を右に曲がる。センサーが敵の運搬車両を捕捉。使い古されたレイジノフ・コンツェルン製の兵装運搬車である。装甲の下地色が覗いている。荷台部分は改造され、生物兵器のタンクが固定されていた。
「車両から降りろ。降伏するんだ」
コンバット・ナイフの切っ先を向け、外部スピーカーを通して投降を促す。しかし、誰も降りるそぶりは見せない。
〈生体スキャン完了。目標は無人のようです〉
管制AI・レナードからの報告。敵は無人車両でタンクを移送していたようだ。
〈動力部の破壊が有効と推測されます〉
兵装運搬車は内燃型の主機を搭載している。RCや多脚戦闘車に採用されるHAGGよりも設計は古いが、シンプルで継続的に安定して動力を生成できるという特徴がある。
前へ進もうとする運搬車を押し留め、座席部の下に存在する主機へ向かってコンバット・ナイフの刺突を食らわせる。
動きを止めた運搬車からナイフを抜く。漆黒にも見える深い灰色のタングステン・カーバイド製の刃は、既に振動を止めていた。マイザーコード製の対装甲コンバット・ナイフは、発振装置による振動と斬撃の衝撃に晒され続ける。そのため、抜群の切れ味と引き換えに刀身寿命は極端に短くなる。損壊時の破片による二次被害を防ぐため、Mk-1Mod.0には
文鎮と化したMk-1Mod.0を捨て、ファイバーユニットを伸ばしてタンクの計器を操作する。ダイヤルを時計回りに90度、つづけて反時計回りに180度、最後に時計回りに180度。ランプが緑色に変わり、内部の無毒化に成功。
〈Object-4の無力化を確認〉
目標3への経路が表示される。そう遠くはない。
〈使用可能と思われる武装を確認〉
レナードから報告が入る。メイン・ディスプレイに、運搬車の荷台にある細長いコンテナが映し出されていた。ファイバーユニットでコンテナ側面のロックを外し、開放する。
〈シーラ・ヴォーリ製RC用
オリーブドラブに塗装された大型アサルト・ライフル。形状は人間用のAN-94“アバカン”に酷似している。銃把を握り、電磁信号を送信し安全装置を解析する。
〈レセプター・プログラムが適合していません。ハッキングを行いますか〉
「構わん。やれ」
レセプター・プログラムとは、主にRC用の武装に内蔵されている電子的な安全装置の名称である。
RC用の武装は人間用の火器をスケール・アップしたものであるが、指で操作するマニュアル・セイフティまでは再現されていない。その代わり、容易に鹵獲や奪取ができないように、電子的に火器をロックするシステムが搭載されている。それが
〈一次解析完了。解除まで120セカンズ。ハッキングを継続しますか〉
「継続せよ」
〈了解〉
サブ・ディスプレイにカウントダウンが表示される。これがゼロになるまで、Tz-9を把持し続けなくてはならない。
コンテナの隅に別の武装を発見する。
「レナード、アンチアーマー・ナイフがあるな」
〈イエス。レイジノフ・コンツェルン製対装甲コンバット・ナイフ・Lg-6です〉
「使用できるか」
〈可能と思われます〉
左手でLg-6を取り出す。電磁信号で起動させると、刃が飛び出る。
レイジノフ・コンツェルン製のナイフは、振動式のマイザーコード製とは異なり、チェーンソー式を採用している。単分子レベルの鋭い小さな刃が直線状に並び、それが高速回転することで攻撃力を生むのだ。
振動式よりも構造は単純だが、長時間押し付けないと攻撃力を発揮せず弾かれるという欠点も存在する。そのためRC同士の斬り合いではなく、軽装甲目標を撃破する際に弾薬を温存するために設計されたと言われる。
〈解除まで90セカンズ〉
「レナード、目標3の位置は」
〈Object-3の位置に変化はありません〉
「このまま解除に行くぞ」
〈了解〉
機体を起き上がらせ、運搬車から離れる。サブ・ディスプレイ上の経路を再度設定。目標3は一つ下の階層にある。貨物用昇降機で降りなければならない。
〈機長、残念なお知らせがあります〉
カウントダウンが60を切ったとき、レナードから報告が入った。貨物用昇降機は機体の眼前にある。が、深い竪穴にトラス構造体が設置してあるだけで、昇降装置の本体は見えない。
〈保安システムの電力分配状況を解析したところ、貨物エレベータの電源が落とされています。電源室へ行く必要がありますが、RCでは侵入できません〉
「……つまり、俺にひとりで行け、と言いたいわけか」
〈言葉を選ばないのであれば、その通りであります〉
「健気なAIだよお前は」
〈お褒めに預かり光栄であります〉
「電源室の位置は」
〈機長の端末に送信します〉
機体を片足立ちの姿勢に移行させ、搭乗ハッチ解放ボタンを押す。M5の胴体部に充填されている駆動緩衝液が背面の保存タンクに移動し、首から上が前方向に倒れコクピット・シェルが露出。シェルの上部ハッチが開く。
コクピット・シェルから抜け、ラダーを下ろして機体から降りる。ハッチと頭部ユニットは自動的に閉鎖する。
〈機長、敵の軽装甲目標がまだ残存しています。対物装備の使用を〉
RCの腰部装甲の内部には、機外活動時に使用する歩兵用の装備が保存されている。レナードの操作で腰部装甲が解放される。中には、M82A1対物小銃と予備弾倉が収まっている。
バレットM82A1。現在ではマイザーコード・グループ傘下にある、旧バレット社が開発した12.7ミリ弾を使用する対物破壊銃。装弾数10+1発。通常の歩兵用火器では比べ物にならない威力を持ち、昔は対人使用をできるだけ避けるように要請されていたという噂まである。本来は長距離狙撃用の銃だが、シラヤの個体には高倍率スコープではなくドットサイトが装着されている。
〈機長、ご武運を〉
「簡単に言ってくれる……」
シラヤはパイロットスーツの左手首にあるマウントに携帯端末を装着し、M82A1を構える。ハンドガードに取り付けられたライトを起動し、明るさを最高にして水路の中を照らす。
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