第2話 ディープダイバー

 地下水路の入り口は幾つかあるものの、その大半が建造物の瓦礫で封鎖されている。ディープダイバーによる破壊工作の結果である。

 まだ日が昇りきる前、入り口に一体の人型兵器RCが現れる。一見すると黒にも見える、濃い灰色の機体。シラヤ操るMCSA製RC、M5。両腕で35ミリアサルト・カービンを把持している。砲身下部に152ミリグレネード・ランチャーを装備したモデル。

 地下水路へと足を踏み入れる。水は完全に涸れ、錆や水垢がびっしりと張り付いている。M5の足を進めるたびに足下の苔が潰れる。

「索敵モード起動。熱源サーチ開始」

 機体管制AIに指示を出す。

〈了解、熱源サーチを開始します。索敵完了まで60セカンズ〉

 コクピットの膝元に位置するサブ・ディスプレイに、依頼主から提供された地下水路区画のCGマップが映されている。管制AIが認識した敵の位置が、青い道の上に赤い点で表示されてゆく。

〈サーチ完了。スリープモードの多脚戦闘車が多数、RCは確認できません〉

「よくやった、モーション・サプレッションを解除。コンバット・モード3。作戦フェーズ1を開始する」

〈了解〉

 関節の駆動リミッターを解除、FCS起動。

 迷路のように入り組んだ地下水路を駆ける。側面の部屋に敵を確認、Kf-7多脚戦闘車。四本の脚を半分ほど折り畳んだスリープモード。周囲に整備兵たちがいる。

 敵の前に躍り出る。整備兵たちが逃げる。FCSがKf-7を捕捉し、照準レティクルが緑色から赤色に変わる。アサルト・カービンを連射し、35ミリ徹甲弾を浴びせる。装甲を食い破り駆動装置を破壊、関節部を断ち切る。Kf-7の胴体に着弾。装甲キャノピーがはじけ飛び、コクピットから搭乗者が這い出る。彼の右脚は消失していた。敵機のHAGG(水素イオン誘導ジェネレータ)を破壊し、Kf-7が完全に沈黙する。

 M5はアサルト・カービンの砲口を移し、二機目のKf-7を撃破する。

〈敵情報更新、多脚戦闘車がスリープモードを解除しました〉

「分かっている!」

 側面の部屋から飛び出す。サブ・ディスプレイ上のマップデータが更新される。赤い点がこちらに向かって移動を始める。多脚戦闘車の主武装は、胴体背面部の89ミリ滑腔砲と運動エネルギーミサイルKEM発射器。それらの他に、腹部から延びるアームに固定された40ミリグレネード・カノン。いずれも長~中射程に対応した兵装で、RCの機動性を生かせない狭所ではかなりの脅威となる。

 敵が暗闇の向こうに表れる。メイン・ディスプレイの表示をナイト・ヴィジョンに切り替え。緑色の視界に変化する。Kf-7がこちらを向いて走ってくる。距離60。

 操縦桿のトリガーを絞り、35ミリ弾を連射。曳光弾が軌跡を描く。短砲身のアサルト・カービンから発射された35ミリ弾は、僅かにぶれつつも敵機を捉える。穴だらけになった敵機が水路に倒れこむ。

 撃破した敵機を踏み越え、新しいKf-7が現れた。

〈敵からのレーザーを照射を受けています〉

 敵がミサイル誘導用の赤外線レーザーを照射してくる。こちらの対空ハード・キル手段は限られている。敵機、KEM発射。

〈敵KEM発射。迎撃を〉

 後退。短距離跳躍スラスターを吹かし、滞空時間を伸ばして後退距離を稼ぐ。

 RDYレディ-FLARE。肩部の付け根に装備されたフレア・ディスペンサーを起動。筒状のフレア・シェルを高圧ガスで飛ばす。空中でシェルは破裂し、眩い閃光を放つフレアが散らばる。メイン・ディスプレイの閃光カット機能が働き、搭乗員の視界を保護する。

 突如現れた光のに、四発のKEMが突っ込む。爆発。二発迎撃。

 RDY-GUN。7.62ミリ頭部同軸チェーンガンが起動。毎分840発の連射速度で、硬質徹甲弾が側頭部の二門から発射される。残りの二発を迎撃。爆発がM5の眼前で起こる。センサー部のシャッターが高速で閉鎖。破片を防ぎ、シャッター開放。

 35ミリの弾倉が空になる。砲身下部のランチャーから、152ミリグレネードを発射。敵へ緩やかな放物線を描いて飛び、内蔵された多目的対戦車榴弾HEAT-MPが起爆。成形炸薬の爆発。メタルジェットが装甲を穿ち、四機目のKf-7を撃破。

 35ミリ弾の弾倉は二つ連結されている。二本目の弾倉を移す。

〈機長、敵の動きに変化があります〉

 敵は迷惑極まりない環境テロリストとはいえ動きが速い。優秀な指揮官でもいるのか、こちらの狙いを理解したようだ。情報にあった生物兵器タンクの保管室に、敵が散らばり始めている。


 一つ目の生物兵器タンク、目標1Object-1は突き当りの左にある部屋に保管されている。目標2Object-2はその奥の部屋。目標1の存在する部屋に、敵を表す光点が二つ存在している。

 突き当りを左に抜け、部屋の入り口の前で停止。レーダー出力を上げ、敵を探る。Kf-7を二機確認。左脇腹の外部接続式アーマー・ラックからチャフ・グレネードを外す。アサルト・カービンのハンドガードから左手を移し、チャフ・グレネードを取る。掌から電磁信号を入力し、安全装置解除。室内に投擲とうてき

 室内で破裂。充填されていたアルミ箔が室内いっぱいに舞う。Kf-7のセンサー系統が阻まれる。

 部屋に突入。タンクは部屋の奥にあり、発電機に接続されている。こちらを認識するのに遅れた二機のKf-7に向かい、アサルト・カービンを連射。同時に沈黙させる。

 室内の安全を確保し、タンクの前で機体を膝立ちさせる。

 左手の指先から、細長い触手状のファイバーユニットを伸ばす。先端の端子形状をペンチ型切り替え、タンク側面の計器にあるダイヤルをつかむ。ダイヤルを時計回りに90度、つづけて反時計回りに180度、最後に時計回りに180度回転させる。計器の赤いランプが緑色に変わる。タンクに封入された殺菌剤カプセルが解放され、内部の生物兵器の活動を停止させる。

〈Object-1停止、Object-2まで距離10〉

 目標2がある部屋は、事前情報によれば目標1の部屋と直接つながっているはずだった。しかし現在、水密隔壁が閉鎖されている。これほど分厚い隔壁は、現在のM5の装備では破壊不能である。

 目標2の設置されている部屋へ行くため、迂回路へ向かう。

〈敵機。前方、距離45〉

 左腹部の外装式アーマー・ラックから、対装甲コンバット・ナイフを取り出す。左掌からグリップの接点に電磁信号を送り、刀身部を構成する超高振動ブレードを起動する。

 コンバット・ナイフを出現したKf-7に投げつける。刀身が深々と刺さり、火花が噴き出す。七機目を撃破。床に伏したKf-7を踏み越え、後ろに出現した八機目のKf-7を照準。上部から35ミリ弾を浴びせて撃破。床の空薬莢を跳ね飛ばしながら着地し、目標2のある部屋へ突入。こちらの部屋には敵機はいない。

 同じようにタンクの計器を操作し、目標2の無力化を実行。

〈Object-2停止。Object-3までの経路を表示します〉

 サブ・ディスプレイに、緑色の矢印が投影される。目標3までの経路である。

〈警告・Object-4が移動しています〉

「何!?」

 作戦区域最奥に保管されていた目標4が運び出されている。移動先は不明。ただし移動したことで、目標3より早く到達できる経路上に存在している。

「目標4を先に無力化するぞ」

〈了解。Object-4への最短経路をリアルタイム更新します〉

 サブ・ディスプレイ上にオレンジ色の矢印が追加された。目標4への最短経路である。オレンジの矢印に従って進む。

〈警告〉

「今度はなんだ!」

〈敵勢力にRCが確認されました。機種不明〉

 サブ・ディスプレイの赤い点中で、ひときわ輝くものが現れる。敵RC。新たな脅威が出現した。

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