INITIALIZED-WORLD

立花零

地下潜行

第1話 依頼文

 マイザーコードMisericorde社のロゴは、その名が表す通り「細身の短剣」を縦に描いたものである。マイザーコードとはスティレットの別称であり、「慈悲」の意味を持つ仏語「ミゼリコルデ」の英語読みである。

 シラヤは備え付け式コンピュータと向かい合い、レイダー・コネクション・サービス、通称RECSレックスの提供する依頼分配サービスにアクセス。ログインフォームを開いた「レイダー」としてのログインIDを打ち込み、つづいてパスコードをキーボードで打ち込む。コンピュータに接続する生体パス認証機器は存在するが、データ改竄のバックドアを自ら作るようなものだとシラヤは考えていた。

 依頼分配サービスのプライベートフォームに入ると、まず飛び込んできたのは新製品広告だった。


〈シャトーブリアン・アーマメンツ製76ミリ長射程狙撃砲

 マイザーコード製RCとの相性抜群!

 弾種は装弾筒付翼安定徹甲弾APFSDS焼夷徹甲榴弾HEAPI曵火榴弾ABHEなど、既存の76ミリ・ベーシック規格に対応!

 最新式反動抑制機構の搭載により、最高峰の命中率を保証します〉


〈シーラ・ヴォーリ製“アルターリ”対空誘導弾システム

 レイジノフ・コンツェルン製RCのすべてに搭載可能。

 RCにとっての最大の脅威は頭上からの飽和攻撃です。本製品は独立型FCSを搭載し、母機の電装系に影響を与えることなく運用可能となっています。

 我が社の製品は、使用する全ての傭兵レイダーが生還するためにあります〉


 製品広告は、RECSに追加でレジスターすることで消去可能である。そもそもRECSに登録してあるレイダーには無料の電子カタログが毎月配布されるため、製品情報は広告表示を見る以前に得られる。とはいえ毎月100ROADを支払うのも手痛いため、シラヤはそのまま放置していた。

 広告を全て消去し、依頼分配フォームに戻る。依頼が一件届いていた。

 依頼者欄には、マイザーコード社の軍事部門であるマイザーコード・ストライクアーマメンツMCSAとある。MCSAのロゴは、本社の銀色のロゴをブロンズに塗り替え、また抽象化したアサルト・ライフルをマイザーコードと組み合わせて十字を描くように設置したものである。マイザーコードに重ねられたアサルト・ライフルは、本社を守る武力を象徴しているのだという。

〈こちらはMCSA傭兵起用担当部です。レイダー、あなたに重要な依頼があります〉

 添付されていた画像データの一枚目がポップアップ。

〈これはワシントン州の地下水路網のCGマップです。赤で塗りつぶした部分は老朽化に伴って水の供給が遮断されており、かつ10メートル以上の高さがあります。これら各所に、我々の体制を否定するテロ組織「ディープダイバー」が拠点を建設しています〉

 ディープダイバーのロゴ。廃棄物の浮かぶ水の中へ潜ってゆく生身のダイバーを描いている。

〈ディープダイバーは環境保護団体「ブルーダイバー」を母体とする過激な反体制集団であり、我が社の擁する電源施設や、その周辺の居住区も攻撃の対象としています〉

 続いて、ディープダイバーの保有しているであろう兵器群のCGがポップアップされる。輪走車両や多脚戦闘車など。

〈彼らの地下拠点には、多くの兵器が保管されています。なかでもワシントン地下のうちの幾つかには、生物兵器すら保管されているとの情報を得ました〉

 作戦目標MISSION-OBJECTIVEの表示。頑丈そうなタンクのCG画像が四つ並ぶ。

〈捕虜から引き出した情報によると、先ほどの区域に四本の生物兵器タンクが保管されています。あなたには、地下水路へRCを用いて突入し、四本すべてを無力化していただきたいのです〉

 タンクの側面にある計器のアップに切り替わる。

〈タンクの構造は多層式で、エアロゾル化された生物兵器の他に強制殺菌剤のカプセルが封入されています。完全電子制御で、外部の計器を操作することで殺菌剤カプセルを開放、タンク内で生物兵器を死滅させることが可能となっています。また、このシステムを改竄しようとしたり、タンクの電源を喪失した場合も強制フェイルセーフとして内部での殺菌が実行される構造となっています〉

 計器の表示が切り替わると、タンク内部の透過イメージ図が変化する。殺菌剤カプセルが解放され、内部に充満して生物兵器の活動を停止させる。

〈彼らの暴虐を止めなければ、我が社のみならず市民に果てしない規模の被害が及びます。この依頼はあなたにしか頼むことはできません。色好い返事を期待しています〉

 文面を閉じ、「依頼承諾」のボタンを押す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る