第80話イツキと木葉
春。新しく桜の咲いたこの時期。
「…そろそろ行かなくちゃ。」
昨日卒業式を終えた私はもう高校生ではない。
冬休みにもらった綺麗なイヤリングを耳につけて、数少ない私の荷物を纏めたキャリーバッグを持つ。
これから妖怪の里で婚姻の義だ。
「外温かいといいなぁ。」
ポツリと呟く私の部屋に返してくれる人はいないけど、寂しくはないかな。
この部屋も家も見納めか。
「まぁ余程の事がなければだけど。」
普段着に袖を通してゆっくりと階段を降りてから玄関を開ける。
色々あったなぁ。
これからの生活も期待できそう。
ーガチャ
「あれ?あれは…」
「木葉!よかったわ間に合って。」
「ちゃんと起きれたんだな!よかったよかった。」
「うそ…パパと、ママ?」
きっと忘れてるだろうなって思ってたから今日の事なんにも言ってなかったのに。
目の前にパパとママがいる?仕事は?
「わしが呼んだんだよ。娘の門出くらい見送れとな。」
「おじいちゃん…来ないから来てくれないんだと…」
「そんなわけなかろう?可愛い孫娘の晴れ姿だ。鬼の子に言ってわしもついて行く予定だったよ。」
「もう、この子ったらなんでこんな大事な事言わないのかしら。慌てて戻ってきたじゃない。」
「だって…仕事…」
はぁー。って大きなため息ついて、わたしの肩に手を置くママ。
そのままジッと私を見て、ふっ。と笑ってくれた。
「バカね。結婚式なら行くわよ。」
「そうなの?」
「当たり前よ。ねぇ?パパ。」
「そうだね。私としてはトモナ君とまた酒を呑みたいものだ。」
「飲みすぎ厳禁よ。木葉、ちょっと目を閉じなさい。」
「え?」
「いいから。」
目に手を当てられて無理やり閉じさせられた。
聞こえてくるのはママがクスクス笑ってる声とおじいちゃんの驚く声。
そしてパパが懐かしいなぁ。って大きく笑う声だ。
「よし、OK。見てご覧なさい。」
「ん?ネックレス??」
「それは私のお母さん…貴女からしたらおばあちゃんね。その形見よ」
「形見って、、なんでそれを?」
キラッと光る翡翠色の綺麗な玉のついたネックレス。
なんだか明るい光がキラキラと纏われていてすごく神聖な感じ。
おばあちゃんは私が産まれる前に死んじゃってるから会ってないのに。ママのじゃないの?
「これはママが嫁に行く時に母さんからもらったの。だから私も、娘が嫁に行く時に首にかけてあげようって思ってたのよ。」
「ママ…」
「木葉、幸せになりなさい。それと自分から妖怪の群れに行くんだから泣き言は許さないわよ?」
「うん…。」
「それでも。どうしても立ち行かない時はここに帰ってきなさい。そして頭を冷やして自分の力で困難を乗り越えなさい。」
「うん。」
「私達は生きてる限り味方よ。そして必ず、お金は稼ぐ事。あって困るものじゃないわ。」
「はい…」
ギュッ。と抱きしめてくれて、初めて小言を聞かせてくれてる。
どうしよう、式の前なのに嬉しくて…
「ぐず…」
「ちょっと、花嫁でしょ?泣いたらブサイクになるじゃない。」
「初めて…小言言われて嬉しくて…」
「あんた聞き分けいい子だったからね。初めての反抗がこんなのだと思わなかったけど。あ、盆に帰ってくるならあのクソ生意気な前髪は置いてきなさいよ?ムカつくから。」
「ふっ!はは…。うん、分かった。」
パンパン!て両肩叩いて二ッ!て笑うママはやっぱりすごいな。
私も強くならなくちゃ。
「おーい木葉ー!!何してんだ!」
「あれ?鬼?なんでいんの。」
「お前が遅いからユキメがブチ切れてんだよ。てか泣いてんのか!?初号機お前また何か言ったのか!?」
「チッ。成敗用の塩持ってくるんだった。」
忌々しい!だって。
空から声が聞こえたからなんだと思ったのに、鬼が見慣れない妖怪に乗って飛んできた。
何あの人面車。キモ…。
「聞こえてんだかんな、ったく。じーさんも行くんだろ?朧車乗ってけよ。」
「ほぉ。これがあの有名な?」
「有名なのか。時間がねぇんだ急ぐぜ。」
「そうかそうか!じゃぁ私らも乗ろうかママ!」
「「あれに?」」
「親父と初号機も来んのか?てか木葉と息ぴったりに嫌がんな。ほら木葉、手。」
「中綺麗でしょうね」
「当たり前だ。」
乗れ乗れー。って慌ただしくしてるから本当に時間が押してたのかも。
コレは着いたらユキメに怒られるか…。
覚悟して行かなくちゃ。
ーグイ!
「よし!全員乗ったな。朧車、全力疾走だ。」
「おーよ。飛ばすから気をつけろよ人間共!」
「わっ」「っと。大丈夫か?」「…ん。」
気をつけろって、雑すぎない?
ガタン!!って大きく揺れるから落ちそうになったじゃん。鬼が支えてくれたけどさ。
「前髪。あんた絶対裏切るんじゃないわよ。」
「当たり前だ初号機。返せつっても返さねぇからな。」
「ほらほら2人とも、これから式なんだろ?ピリピリしない。」
「鬼が裏切ったら3人で根絶やしにしようね。」
「恐ろしい計画立てんなってのっ!!裏切らねぇよ!!」
「これぞ正に鬼の嫁。鬼嫁だなぁイツキ君!木葉をよろしく頼んだ!」
「笑い事じゃねぇ…。」
はっはっはっ!なんて陽気な笑い事と苦々しい顔の鬼を見て苦笑がもれる。
あとどのくらいかなって少し外を見たら急ブレーキがかかって、そのせいで皆が前に倒れ込んだ。
式の前に成敗してやろうか?
「あっ!やっと来た木葉!!あんた遅いわよ、ほら早くこっち来て準備するわよ!!」
「ユキメ…。ん、よろしく」
「ったく主役のクセに。あら?あんたの親とじーさんも来たの?まぁ楽しんでいきなさい。ほらほら!」
ポカーンとする3人を置いて待ち構えてたユキメが手を引く。
かなり多い女妖怪に手早く準備されて、ものの数分で白無垢花嫁が完成しちゃった。
すごい技術だな。
「すごい。プロだ。」
「言ってないでほら。イツキが待ってるわ、行ってらっしゃい。」
「ん。…ねぇユキメ」
「なによ?」
「これからよろしく。」
「!。ふっ、それはイツキに言ってやんなさい。」
「ん。行ってくる。」
「はいはい。」
背中を軽く押されて疲れたような笑顔のユキメが見送る。
少し歩いた先にはちゃんと前髪を上げて整えられた鬼が待ってた。
「前髪ちゃんと上がってる。」
「まぁな。…き、綺麗だぞ。」
「はは、気持ち悪。変なこと言ってないで行くよ。」
「そこは素直に喜べよ!?」
「はいはい、嬉しい嬉しい。…これから宜しくね、イツキ。」
「っ。ったくズリィな。よろしくな木葉」
手を差し出す鬼は少しだけ頬の赤いから笑えてきちゃう。
ほんと、これからの生活楽しみだわ。
鬼とJK ペンギン @Yun77
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