第64話妖怪会議

「イツキ嬉しそうじゃのぉ。」


「それは木葉もよ。まったく、なんで嫁になれって言わないのよあのへっぴり腰」


木葉の両親が帰って来たのは驚いたわ。


私がこの家に来てから一度も会わなかったんだもの、なんであの子があそこまでグレたのか理解してしまったものね。


木葉は木葉で父親に大嫌いって怒って出ていくし。


その父親はしょげてて帰ってきた理由言わないし。


母親はチクチクと父親を叱ってるし。すごかったわ、木葉が母親似ってたぶんアレ顔とかじゃないでしょ?性格よ、性格。怒り方ソックリね。

そんな両親見て苦々しい顔したイツキが出て行ったのをいい事に私達もリビングをソッと抜け出したけど。


なによ二人いい雰囲気じゃない。


「どうしましょうか?もどかしいわ。」


「本当にのう。もう誰がどう見てもそういう関係なんじゃ、意地を張らんとモノにしてしまえばいいのにのう。」


「あの鬼、惚れた女にはこんなに意気地無しだったなんて。」


「イツキも乙女なんじゃなぁ〜。」


「これならあの犬妖怪の方がスパッとモノにしそうね。」


じれったい。本当にじれったい。

トモナが待ってるとか言った時は私の手が滑りそうだったわ。


危うく鬼の等身大オブジェが出来上がるところだった。


「うぬ?木葉寝たのかの?」


「あら本当ね。肩にもたれかかってる。」


「お、イツキが動いたではないか。寝室に運ぶのか?」


「ちょっと様子見てみましょ。」


動かない木葉を抱き上げてあの子の部屋に入って行くイツキ。


何もないとは思うけど一応ね。聞き耳立ててっと。


「何か聞こえるか?ユキメ」


「いいえ、なにも。出てきたら問い詰めなくちゃ。」


「まったくじゃ!」


「よぉ。楽しそうだなお前ら」


「あら?いつの間に。」


「ピギィ《ガッ》#_##@!?」


「うるせぇヤシチ!木葉起きんだろ!」


キィ…とちょっとだけ開いた部屋の扉の隙間から、暗がりに紛れたイツキの片目だけが私達を見てる。


それに驚いたヤシチの口をすごい勢いで塞いで静かにしろって怒るけど、あんたもまぁまぁうるさいわよ?


「それで?」


「なんだよ。」


「なんで嫁にしないのよ。」


「ふがっ!?ドストレートだな!?」


「あんたに気を遣う理由が分からないわ。それでなんでよ?」


「そうじゃそうじゃ!早く嫁にしてしまえ!!」


うっ。て前髪で顔半分見えないクセに分かりやすいほど真っ赤。


逃げるみたいに木葉の部屋出たけど逃がさないわよ?


どんだけ乙女なのこいつ。


「うるせぇな。色々あんだよ。」


「色々って?」


「色々だ!!」


「ふーん、あっそ。じゃぁ私はあの犬妖怪に肩入れしましょうかしら?」


「はぁ!?なんでそうなる!?」


「だってまどろっこしいもの。あの犬、バカっぽいからすぐ手に入れるでしょうね。」


「バカに木葉渡そうとするなよ!?バカって分かってんじゃねぇかっ!」


あらまぁなんて面白いの?急にアタフタしだしてツッコミの勢いが増したわ。


きっと私が木葉と仲良いからそんな事されたら取られると本気で焦ってるのね。


馬鹿な男。


「惚れた女の前じゃ男なんて皆バカよ。木葉の幸せを考えるならこんなもどかしい関係続けない奴を私は推奨するわ。」


「うぐぐっ。ほんとお前と木葉は似てるよな」


「それはどうも。どうするの?」


「…分かんねぇんだよ。」


「「は?」」


なぜか隅で震えてたヤシチも一緒になって首を傾げてる。

この期に及んで何が分からないと?


「なんて伝えていいか分かんねぇんだよっ。悪ぃかコノヤロウ!」


「呆れた…」「情けないのう…」「乙女って言うか少女よ。ここまでとは…」


はぁーぁ。


くっだんない。そんなんでここまでズルズルきてたの?そんなの嫁になってくれの一言じゃない。発火するのかってくらい赤くしていい歳した妖怪が何を言ってんだか。


「さ、里には誘っただろ!?これからだっ」


「って言ってるうちに木葉は老衰するわね。」


「ごもっともじゃ。わいらが手伝ってやるかのう、ユキメ。」


「はぁ…しょうがないなぁ。木葉のためよ。明日あの子に今の気持ち聞いてあげる。だからちゃんと嫁にしなさいよね。この腰抜けのへっぴり腰の情けないダサ鬼。」


「怒涛の悪態で素直に感謝できねぇ…」


なんですって?私がひと肌脱いでやろうってのに感謝できない?


ふざけた事言うのね。謝礼はたっぷり弾ませてやるんだから。



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