第23話鬼と名前を呼ぶJK

次の日朝。


「むっす」


「ぶっすー」


「いってらっしゃいママ。」


玄関で仕事に行くママを送るのに歩いてたら鬼が後ろからついてきた。


すっごい仏頂面で。


その鬼みてママもムカつくって顔してる。


「木葉、ちゃんと捨ててあった場所に返してきなさいよ。」


「捨て犬か?親父の許可降りてんだろーが」


「返してもついてきちゃうの。使い勝手いいから飼っとくよ。」


「鬼の一族め」


鬼が苦々しく口を曲げてふぅ、って小さくため息ついてる。そのままなんか困ったみたいに後頭部かいて”あー。”とか言い出した。


「なに、あーだのうーだのうるさいな。」


「えっとよ。そうだ!リビングに小包置いてんだ。取ってきてくんね?」


「なんで私…」


「肩いてぇなぁー」


「…オボエテロ」


この私にそんな事言う?ふーん。


なんか隠してるみたいだから取りに行くふりして様子見とこ。


ーパタパタパタ。バタン。


「…行ったか?」


「なによ不法滞在者。私に何か用かしら。」


「おーよ木葉初号機。昨日の強盗、アレお前の仕業だろ。」


「なんの証拠があってそんな事を?」


…聞き耳立ててれば驚いた。


何か隠してるとは思ったけど、そういう事?


鬼がこの話を出した途端、すごく空気がピリピリしだしてる。


「俺、他の奴らより耳はいいんだ。お前が電話で依頼してんの聞いてるぜ」


「はっ笑なんの証拠にもならない。そんな事で時間を使わせないでもらえる?」


「そんな事?どこがだよ。」


鬼、怒った?


空気が一層重くなってさすがのママも驚いてるみたい。


目線を鬼に合わせた。


「証拠もないのにでっち上げてくだらないのよ。結局木葉にだって何もなかったでしょ。」


「当たり前だ、俺が庇ったんだかんな。」


「ならいいじゃない」


「てめぇコレ見ても言えんのか」


バサ!て上の服を脱いだ鬼の肩は酷く腫れてる。


昨日、私を庇って殴られたところだ。色もドス黒いものになっていてすごく痛そう…


「っ。し、知らないわよそんなの。私は殴れまで言ってないし。やってもビンタだけにしなさいってちゃんと」


《ガン!!!》


「ーっ!?」


めちゃくちゃ大きな音が響いてママの言葉を強制的に止めた。


びっくりした…鬼が壁に拳をぶつけてる…


壁に穴空いてるじゃない。


「な…なによ!?人の家壊して訴えるわよ!?」


「やってみろよ。その前にそのケータイぶっ壊すけどな。」


「あんたねっ「おいオバサン」おばっ!?」


「コレ、どうやってついたか知ってるか?バットで木葉殴ろうとしたんだ。」


「だから!あんたが庇ったんだからいいでしょ!?つまらない事を一々愚痴愚痴とっ」


つまらない事、か。


もしかしたら私が怪我してたかもしれないのに。


つまらない事…


「つまんなくねぇよ。俺が間に合わなかったら怪我してたのは木葉だ。どこもつまらなくねぇ。」


「くっ」


「1つ言っとくぜ。俺が気に食わなくて俺に危害を加えるなら別にいい。けどよ自分の娘危険に晒す奴があるかよ。」


「ーっ、あんたが居候なんかしてなければっ」


「だったら俺にその悪意向けろよな。木葉を、、アイツを危ない目に合わせんな。」


…。


アホだ、あの鬼。


そんな真剣に怒る事ないのに。


私を庇って怪我して、ママに啖呵切って…


必要ないじゃん、そんなの。


「ーっ。ヤバい、目から水分が落ちる。」


別に嬉しいとかじゃないし。ここまで思われてたのかって驚いてるだけ。


ママは悔しそうに怒って家を出て行っちゃった。


あ、しかめっ面の鬼が来る。


ーガチャ


「うお!?木葉!?」


「っ。な、なによ。」


「なんで泣いてんだよ?…さっきの聞こえてたか?」


「別に…その、、いいや。」


「え、なに。すげー気になる」


さっきまでの怒った空気はどこへやら。


少しオロオロして後ろ着いてきてる。


私が扉の前にいたから泣いてるとこ見られたし。


歩くの早すぎなのよ、まったく。


「いいから。手当して寛ぐよ。あんた保険証もないんだから病院行けないのに。無茶するわ」


「無茶ってなぁ。言う事あんだろーが、ったく。」


「…ねぇ、鬼」


「?なんだよ。改まって。」


「いや、、。うん。ありがとう。」


「!?!」


「お茶沸かすからジッとしててよ。」


くっ。顔が熱い。


言い慣れない事なんて言うべきじゃないわ。


キッチンに逃げ込んじゃった。


「あ、あのよ木葉!」


「ビクッ。…なに。」


「その、名前呼んでくんね?」


「はぁ??なに、突然。こわっ」


「こわってなんだ!?いいだろ、今回頑張ったんだしよ!!」


「チッ。あー…。…??」


名前か。まぁそれくらいなら呼んでやらんでもないけど。


あれ?そう言えばこの鬼の名前なんだっけ?


「なんだよ?嫌か?」


「いや、あんた名前なんだっけ?」


「嘘だろ!?ここまで一緒にいて忘れるか!?イツキだ、イツキ!!」


「そうだそうだ、そんな名前だ。」


「このやろっ」


「あー、えっと。イツキ、ありがと。」


「ーっっ」


イツキねぇ、イツキ。


…今回だけにしよ、名前呼び。


さ、お茶沸かして本読もっと。


―――


「名前呼び、いいな。」


ニヤケ顔が止まらない鬼だった。


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