第8話鬼と自己紹介のJK

本日土曜日。


私は生粋の出不精なもので。家から出るのはドラキュラに日光を当てるのと同等の行為になる。


そんな私が。


この燦々と輝く日光の元に出てきたのには重大な理由があるのだ。


「なんでお前そんな端っこを歩いてんだよ。」


「暑いからでしょ。焼け死ぬ」


「大袈裟だな。日に当たるのも悪くねーってのに。」


「うるさいなぁ。誰のせいで私がこんなカンカン照りな中家から出るはめになったと思ってんのよ。このバイ菌の塊め」


「うっ。悪かったって言ってんだろーが。しつけーな。」


そう、この男。


手切れ金って渡したはずの1万でパンツ1枚しか買ってなかったって。


それを2日連続で履いてたって。


なんなの?なんで平気なの?


理解できないわ。


だから今日はこのアホの服を買うためにわざわざ出向いたのよ。


「そう言えばあんた、初めて会った時もずーっと同じ服だったっけ。」


「まぁな。金ねーからしょーがねぇ。」


「病原菌の塊め。」


シュッシュッ!てアルコール吹きかけたらすんごいむせた。


菌の集合体だから?


「バカやめろよ!くせぇ!!」


「さすが菌の集合体…効くなぁ。」


「鼻の奥と喉が死ぬ!!」


ゲホゲホ!ってくるしそー。


知らんけど。


「あれ…?日暮さん?」


「ん?」


「ひぐらし??誰だそれ。」


「私な。」


アルコール吹きかける手を止めて声のする方を見れば、私の前の席の子だ。


休日にクラスメイトに会うとか最悪の極じゃん。


今すぐにでも気づかなかった体で逃げ出したい。


「わぁ!偶然だね、お買い物?」


「以外に何に見えると?」


「お前本当にそれが素なんだな。」


「は?」


「あっはは、いいよ大丈夫!」


「なにが?」


なにこの男。めちゃくちゃ引いてない?


なんで?なんかムカつくな。


「気にしないで!隣の人は彼氏?」


「これが彼氏なら私は入院するわ。きっと脳に異常をきたしてヤバいだろうから。」


「普通に違うって言えばいいだけだろ!?何で全てにディスが入んだよ!?」


「ディス?事実よ。」


「…。」


今度はなんか哀れむ空気感だ。


なんなの本当に。


喧嘩売ってる?


「え、えっと!彼氏じゃないんだね!でも仲良いんだね!お名前は?」


「…」「…」


「え?」


お名前…お名前??


「「そう言えば!アンタ/お前の名前知らないじゃん!!」」


「え!?あんなに親しそうだったのに!?」


そう言えば初めて会った時からずっとお前とかアンタとかだった!


名前知らないわ!うん!今更だけどね!


「まぁでも別に。必要ないからいいでしょ。」


「なんでだよ!?その判定はどこから来るんだ!?」


「だって今日までの3日間で困ってないし。」


「だとしてもだろ!もう少し周りに興味持て!」


「興味を持って何か特が…??」


うぅん…ないなぁ。


面倒事が増えるだけ…。


うぅん…。


「特とかそんなんじゃねーよ。どんだけドライに育てられたんだ、ったく。」


「あんたはどんだけユルユル家庭で甘やかされた事やら。」


「ぅぐ。だぁもう!俺はイツキ!!鬼族のイツキだ!!お前は!」


「必要な」「名前!教えろ!!」「…」


ビシ!て指さされた。


人に指向けるなんてなんて奴だ。


そしてそんなおっかない雰囲気で詰め寄る事でもなくない?


「知りたい?」


「おう。」


「うーん。じゃぁクルクルっと3回回ってみて。」


「??おう。」


ークルクルクル


「そして”ワン!”と元気よく。」


「ワン!!…あ。」


「バーカ(笑)」


「ふふっ。」


「〜〜っっ!!この外道めっ」


面白い。本当に簡単に引っかかる。


純粋すぎでしょ(笑)


すんなり言う事聞くんだから(笑)


「面白かったから教えてあげる。日暮木葉ひぐらし このは。私の名前。」


「なんかすげぇ癪なんだよな。」


「まぁまぁ!仲良い2人なんだね!お邪魔してごめんね、私もう行くよ!」


「特に邪魔はしてないけど。じゃぁね、これ以上休日にクラスメイトに会いませんように。」


「一言余計だバカ。」


「あはは!じゃぁね日暮さん!また月曜日学校で!」


「…ん。」


元気よくどっか行ったクラスメイト。


明るいなぁ。モジモジしなければもっと周りと馴染めるだろうに。


「ほら俺達も行こーぜ木葉。日が暮れる。」


「馴れ馴れしいな。行くけど。」


「自己紹介したんだからいいだろ。」


なんて言っちゃって。


私の手勝手に引っ張るんだから。


馴れ馴れしいったら。


―――


「(もっと魔王的な名前かと思った。)」


と感想を持ったイツキだった。



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