終末世界の勇者生産施設にて ~過酷な扱いの勇者候補に心痛める兵士は病んだ美少女を支えるべく奮闘する。知らぬ間に得た勇者の力でいつか彼女らを救って死ぬとしても~
クー(宮出礼助)
プロローグ
0.
真っ白な光に照らされた無機質な部屋で、中央のベッドに一人の少女が横たわっている。
少女は金色の髪をシーツの上に広げ、ぎゅっと目をつむって右腕を上げた。そして、この施設の魔法士用上衣を羽織った壮年の男が、何の感情もうかがえない表情で少女の腕を取る。怯える少女に構うことなく、男は片手に持った毒々しい紫色の魔石を少女の腕へと押し付けた。
「テオ……。そこ、ちゃんといてね。勝手にいなくならないでよね……」
少女はベッドの傍らに立つ俺の名を呼び、左手で握った俺の手のひらにぎゅうっと力を伝える。俺は少女にしっかりと頷き返し、少しでも安心できればと頭も優しく撫でる。
そして、魔法士の男が小声で呪文を呟き始めると同時、俺は苦々しい思いを噛みしめながらも頭から手を離した。
魔法士の男はぶつぶつと呪文を読み進め、それに伴い魔石が明滅する。どくんどくんと鼓動のように魔石の透明な表面を透かして、内側の紫光が瞬いた。
そして、次の瞬間――少女の爪が俺の手に突き立った。
「――イヤあああぁぁあああ! い、い……いたああいいいいいい!!」
突如、甲高い悲鳴が上がる。少女は両目を見開いて悲痛に叫ぶ。全身が強張り、微かに痙攣している。
俺は思わず処置を行う魔法士の男へと視線を向けるも、男は何も聞こえていないかのように魔石を少女に押し付け続ける。魔石の中でゆらめく紫の光が少しずつ少女の体へと移動し、それに伴って少女の悲鳴も激しくなった。
何もできない俺は、ただ少女の左手を強く握り返し、少しでも彼女の苦痛が早く終わるよう祈るだけだ。俺の手に走る痛みは、それでもこの罪悪感を消してなどはくれなかった。
そうして、少女にとっても俺にとっても地獄の時間は、それからしばらく続いた。
無機質な処置室の中で、悲痛な叫びは、止まらない――
この残酷な施設で、たった一人の軍人でしかない俺に、いったい何ができるのか。何をしてあげられるのか。
国のため、国民のため、そして彼女たちのために――――
これは、無力で考えのない俺が、それでも何をできるか、やるべきかと、悩んで悩んで苦しみながら、それでもひとつの答えを出そうとする物語だ。
ただ、それだけの――――
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