第10話 準備期間

 エルディシア家の面々の前で俺は銃を使った実技を披露する事になった。結果として、侯爵様らに銃の力を見せる事が出来たし結果は問題なし。俺の実力を疑っていたゲイルもこれで納得した。その後の話し合いで、俺は入学までの間にエルディシア家で勉学や護衛のノウハウを学ぶ事になったのだが……。夜中に、いつぞやのように噴水で1人悩んでいる様子のエミリア様とばったり遭遇してしまった。



 今、エミリア様は俺の前で申し訳なさそうに俯き目を伏せている。だが肝心の俺には、先ほどエミリア様が言った『アルフレッド様に謝らなければならない』という言葉の意味が分からなかった。

「え、え~っと。すみませんエミリア様。エミリア様が、謝る?俺に?」

「……はい。その通りです」

 謝罪の意味が分からず困惑する俺に、エミリア様は申し訳なさそうに小さな声で呟いた。


「え、えと。エミリア様?正直に申しますと、エミリア様が俺に謝る事があるのでしょうか?俺にはエミリア様に何か謝罪をしていただくような事など何もない、と思うのですが……」

 はっきりいって謝罪の理由とか原因になる物事に関して、俺は一切身に覚えが無かった。

「いいえ。これに関しては、私の口からはっきりと謝罪を申し上げなければなりません」

「そう、なのですか?しかし今口にされた『これに関して』、というのはどういう意味ですか?一体、エミリア様は何を謝ろうというんですか?」

「それは……。アルフレッド様が私の協力者になる事について、です」

「え?」

 なぜそのことを謝るんだ?俺は理解できずに疑問符を浮かべながら小首を傾げた。


「……順を追って、お話しします」

 エミリア様は俺の顔を見ると、俺の理解が追い付いてない事を理解したのかそう前置きをしてから話し始めた。


「当初、私はアルフレッド様が学園内での私の協力者になってくれる、という事をお父様から聞いておりました。しかし、私が想像していた協力者、という物とお父様の想定していた協力者のイメージが、かけ離れていた事をお昼の会話でやっと理解したのです」

「かけ離れていた、ですか?」

 ん?待てよ。確か昼間の時。

「そう言えば、昼間の顔合わせの時にエミリア様も仰っていましたね。そこまでの事は聞いていない、とか」

 今になって思い出したが、確かにあの時エミリア様はとても驚き、予想外の事に困惑しているようだった。

「えぇ。……あの話を聞くまで、私はアルフレッド様の事をてっきり友人かそれに近い立ち位置の協力者として、共に魔法学園に入学するものとばかり考えていました。それがまさか……。戦う事、まして人を殺める事すらお父様は考えていたなんて」

 エミリア様は静かに寝間着の裾を、両手でグッと掴んだ。


「私の事を心配してくれるのは嬉しく思います。けれどだからといってっ、守るためととはいえっ、私のために他の誰かの手を血で汚させるなどっ!決して許される事ではありませんっ!」

「つまり、エミリア様が謝りたい事というのは、『自分のせいで俺が手を汚すかもしれない事について』、という認識でよろしいですか?」

「……えぇ。その通り、です」


 一瞬、声を荒らげていたエミリア様だが、俺が問いかけると、頭を被り振って冷静さを取り戻したのか、先ほどのように小さな声で答えた。

「私を守る為とはいえ、アルフレッド様の手を血で汚すという事はつまり、アルフレッド様が人殺しの汚名を着る事になります。私のせいで、アルフレッド様が人殺しになってしまう。そう、周囲から見られてしまう。そう思うと、どうしても謝りたかったのです。弱い私のせいで、こんな事に巻き込んでしまった事を」

 そこまで言うと、エミリア様は言葉を区切って押し黙った。

「成程。仰りたい事は分かりました。であれば、俺から一つ言いたい事があります」

「ッ、何でしょう?」


 エミリア様は俯いていた顔を上げ、俺を見上げながら質問してくるが、その表情はまるで、今から怒られるのでは?と怯える子供のようだった。……けど俺、怒ってないしなぁ。まぁ、とりあえず俺の意見を伝えるか。


「単刀直入に言えば、そのことに関してあなた様が何かを気に病む必要はありませんよ」

「え?」

 どうやら俺の言葉が予想外だったのだろう。エミリア様は呆けた声を上げた。

「昼間も言いましたが、侯爵様よりこの話を聞いた時、『そういう事になる可能性』も十分考慮していました。その上で俺はこの話を受けた訳です。つまり俺がエミリア様を守る過程で人を殺し、周囲から人殺しと揶揄される事も想定内です。ですから、エミリア様が何かを気に病む必要はありません。これは、俺が俺の意思で選択し、行動した結果そうなる可能性もある、って事ですから」

「で、ですがっ!」

 どこまでも冷静な俺に対し、エミリア様は納得いっていない様子だ。


「分かっているのですかっ?その手を血で汚す事の意味をっ。人殺しと後ろ指をさされ、嫌われ、罵られる事もあるのですよっ?それを……」

「無論分かってますよ」

「ならば、なおさらなぜっ?」

 理解できない、と言いたげな困惑した表情のエミリア様。正直、ここで俺の考えを語った所で理解してもらえるとは思えないが……。言うだけ言ってみるか。


 俺はエミリア様の隣に、少し間隔を開けて腰を下ろした。

「エミリア様。これは俺の持論、みたいな物なんですが。俺は正直、生きていく為なら時に手を汚す行為も必要なのではないか。そう思うんです」

「……つまりは、敵となる存在を排除する事も、生きていく上では仕方ない、と?」

「流石に快楽殺人とかを肯定するつもりはありませんけどね。……それでも、生きていくには時にその手を汚す必要があると、俺は思います」


 そう言うと、俺はエミリア様に目を向けた。

「確かに、誰も傷つけず、自分の大切な人たちと平和に、幸せに暮らせるのならそれに越した事は無いと思います。でも、この世の中には悪意にまみれた奴だっています。自分の欲望を満たすために簡単に人を殺す奴、人を貶める奴。そういう奴らから誰かを、大切な人を、場所を、守りたいのなら力は必要です。そして、いざという時引き金を引く覚悟も」

「だから、その手を人の血で汚す事も、人殺しと罵られるのも、覚悟の上だというのですか?」

「えぇ」


 俺はエミリア様の質問に即答した。

「覚悟が無いせいで、大切な人や居場所を失うのはまっぴらです。そんな苦い思いをするくらいなら、例え人殺しと揶揄されようと。俺は敵を排除してでも自分の守りたい人や場所の為に戦います。それが俺の覚悟です」

「……ならば、アルフレッド様はどうして、私の協力者になったのですか?」

「え?」

「協力者として、私の力になってくれることは嬉しく思います。けれど、そのためにアルフレッド様がその手を血で汚す事になるのですよ?それも、数回会った程度の私の為に。それはなぜですか?お母様の為ですか?ご自身の将来の為ですか?どうしてっ、その手を血で汚すかもしれないと分かっていて、大して親しくも無い私の協力者になられたのですかっ?」


 彼女の表情と声色は、『自分のために手を汚す俺が理解できない』、そう物語っていた。

「……大した理由は、ありませんよ。しいて理由を上げるのなら、それは俺のエゴです」

「エゴ、ですか?」


「えぇ。男として、女の子を守れ。そんな俺のエゴから生まれた安っぽい正義感。それが理由です。まぁ、他にも母さんが俺のやりたいようにやりなさい、って言って背中を押してくれたり、どうあれ侯爵家と繋がりを持てる事とか。他にも色々理由はありますが。1番の理由はやっぱり、俺の安っぽい正義感に従ったから、ですかね」

「ッ、そ、それは、つまり……。アルフレッド様が私を守りたいから、という意味ですか?」

 ん?何故かエミリア様の顔が赤いが、まぁ気にしても始まらないか。


「まぁ、そんなところですかね。女の子を守るために頑張ってみるのも、そんな生き方も悪くない。そう思ったから俺は今、ここにいるって事です」

「そ、そうなの、ですか?」

 何故か顔を赤くしたまま俯くエミリア様。なんでだ?と思いつつ、俺は噴水の淵より立ち上がった。


「まぁ、だからこそエミリア様が協力者の件を気に病む必要はありません。俺は俺の意思で、ここにいる。あなたを守る協力者になってくれと、オズワルド様の依頼を自分の意思で受けました。だから、何も気にせず困ったら俺を頼って下さい。戦う力が必要なら、その時は俺を頼って下さい。俺は今こうして、ここにいるのだから」

「……頼っても、良いのでしょうか?私は、アルフレッド様に」

「本人が良いって言ってるんですから、そこまで気にする必要はありませんよ」

「ですが……」


 まだ、エミリア様は納得していない様子で俯いた。ハァ、仕方ない。俺は彼女の前に膝をついて、彼女の顔を覗き込む。

「俺はエミリア様の助けになりたいと思った。俺はあなたを守るためにここにいる。だからこそ、俺にエミリア様を守らせてください」

「ッ!」


 俺の言葉にエミリア様は更に顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。……言葉選びをミスったかな?と内心冷や汗を流していると……。

「そ、そんな、王子様みたいな言葉、反則です」

 顔を赤くしているエミリア様が何かを呟いているが、小声過ぎるのと噴水の水の音のせいで良く聞こえない。

「エミリア様?今何か仰いましたか?」


「ふぇっ!?い、いいえ何もッ!何でもありませんっ!」

 俺が問いかけると、エミリア様は更に顔を赤くして驚いた様子でパタパタと手を振った。まるで何かを隠そうとしているようだが、深入りはしないでおくか。

「と、とにかくっ。これ以上の問答は、アルフレッド様の覚悟を貶す事にもなりかねませんっ」

 エミリア様はそこまで言うと、一度息をつき、落ち着きを取り戻した様子で俺を見つめる。

「……ですが、これだけは言わせてください」

「なんでしょう?」

「私とても、ただ守られてばかりなのは本意ではありません。ですので、アルフレッド様が困っている時は、どうか私に相談してください。ただ一方的に守られるような関係より、私はその方が望ましいと考えていますから」

「それは、つまりお互いをフォローし合える、友人のような関係、という事ですか?」

「えぇ。そう取ってもらって構いません。ですから……」


 エミリア様は噴水の淵から立ち上がると、膝をつく俺に片手を差し出した。

「私たちの関係は対等な物が良いんです。それこそ、お友達のような」

「エミリア様」

 今の俺の立場は平民だ。そんな俺が貴族のエミリア様と対等な関係なんて、普通ならありえない。俺は彼女の言葉に少し戸惑っていた。まさかエミリア様がそんな関係を希望していたなんて、思ってもみなかったからだ。だが、俺からしても、その希望を断る理由はない。


「分かりました。ならば俺は今日から、エミリア様の協力者、兼、友人、という事で」

 そう言って俺は立ち上がり、笑みを浮かべながら彼女に右手を差し出した。

「改めて、これからよろしくお願いします」

「えぇ、よろしくお願いします」

 エミリア様も、嫌な顔をせず笑みを浮かべながら俺の手を取り、俺たちは握手を交わした。


 これでとりあえず、エミリア様の中に遭った俺への後ろめたさはどうにか出来たかな。

「それじゃあ、俺はこれで失礼します。明日から色々始まりますので。エミリア様も、風邪だけは引かないように気を付けてくださいね」

「えぇ。ありがとうございました。また、相談に乗ってもらう形になったようで」

「気にしないでください。なんと言っても、俺はもうエミリア様の友人、なんですから」

「っ、そうでしたねっ」

 友人、という言葉にエミリア様は笑みを浮かべる。


「ふふっ、何だか新鮮です。今まで同世代で異性の友人なんて、居りませんでしたから」

「そうですか。……あれ?そういや俺も異性で同世代の友人はエミリア様が初めて、か?」

 ふと思い返してみると、確かに同い年の異性の友人はいままでいなかったな。ディバイア家でメイドの人たちと親しくしていた事はあるが、皆俺より年上だったし。

「まぁ、そうなのですか?」

「あぁはい。今思い返してみると、俺も異性で同世代の友人はエミリア様が初めてですね」

「では、お互いが初めての異性の友人、という事になるのですね?なんだか不思議な感じですね」

 そう言って楽しそうに笑みを浮かべるエミリア様。……なんて言うか、可愛いなぁ。……っと、いかんいかん。友人関係になるのは良いとしても、流石に仲良くなりすぎるのはダメだよな。あくまでもエミリア様は護衛対象なんだ。……って言うか、下手に仲良くなりすぎると、オズワルド様の反応が怖いし。


 とか、考えていると、冷たい風が吹いた。

「んっ、流石に、冷えてきましたね」

 寝間着姿、というのもあるのだろう。エミリア様が寒そうに体を震わせた。

「ですね。風邪をひく前に中に戻りましょう」

「えぇ」


 風邪を引いたら明日からの予定に響くし、俺たちは急ぎ足で屋敷の中へと戻った。そのままお互いの部屋に向かい、道中の分かれ道の手前にて。

「では。改めて、これから友人として。よろしくお願いしますね、アルフレッド様」

「はい。こちらこそ、よろしくね害します。エミリア様」

 そうして、俺たちはもう一度だけ握手を交わして別れた。部屋に戻った俺はホルスターを外して速攻でベッドへ。さぁて、明日から忙しくなるぞぉ。




~~~~

 そして、翌日から俺の訓練は始まった。初日の午前中は、今後俺の座学やマナーを教えてくれる家庭教師の先生と顔合わせ。どうやらこの先生はエミリア様の家庭教師もしているらしく、今後は一緒に授業を受ける事に。午後はアレックス団長やゲイル以外の、エルディシア侯爵家お抱えの騎士団の人たちと顔合わせ。流石に侯爵家お抱えの騎士団だ。人数も装備の質も、ディバイア子爵家とは比べ物にならない。今後は彼らに混じって護衛のためのイロハなどを学んでいく事になる。


 魔法学園入学まであと1年程度。覚える事は多い。


 そして、俺の濃密な1年が始まった。ある日は朝から夕方までみっちり座学やマナーの勉強。ある日は太陽も出てない早朝に、ゲイルに叩き起こされ大荷物を背負い、武器と防具(※俺の場合は迷彩服にボディーアーマー、リグや銃)を手に、体力作りとサバイバル訓練を兼ねた山中の行軍訓練に駆り出されたりと、やる事は多く毎日ヘロヘロになりながら、地獄のような日々が始まった。


 更に言えば、銃を扱う技術も磨き続けなければならない。これに関しては先生など居ない。俺しか銃を知らないのだから。だから僅かな時間を見つけては、旦那様(※エルディシア家に仕えるに当たってオズワルド様をそう呼ぶよう指示された)たちが用意してくれた、屋敷から離れた森の中にある射撃練習場で何十発と射撃練習を繰り返す。


 リロード速度を速めるための練習。素早く照準を合わせるエイム技術の練習。素早く相手を鎮圧するための早撃ちの技術。更に様々な銃の扱い方の練習などなど。覚える事、やらなければならない事は多い。


 なのでたまに、授業中に睡魔に負けて、先生に叩き起こされる事もある。そんな地獄みたいな日々が始まって、早数か月。


 ある日の昼下がりの事。今日も今日とて、俺は屋敷の一室でエミリアお嬢様と一緒に授業を受けていた。

「では、本日の午前中の授業はこれまでとします。それと、アルフレッドさん?お疲れのようですから今のうちに仮眠しておく事をお勧めしますよ。では、また午後に」

「は、はぁい」

 いかん。今日も睡魔との戦いだった。何とか教わった事は覚えているが、一部記憶が朧気だ。しかも午後も授業と来た。仮眠、しておくか。


「大丈夫ですか?アルフレッド様」

「え、えぇ何とか。ただ、やっぱり滅茶苦茶眠いので、自分はこのままここで仮眠させていただきます。なので、お休みなさい」


 そう言うと俺はそのまま、ノートとかを片付けると即座に机にすっぷす形で眠り始めた。



~~~~~

 アルフレッド様は、相当疲れていたのでしょう。おやすみなさい、と言って机に伏せると、ものの数秒で寝息を立て始めてしまいました。それほどまでに、日々の授業と訓練は過酷、という事なのでしょうか。アレックスやゲイルからは、『まだまだ若いですが見込みのある少年です』、と話を聞いた事があるけれど。


 アルフレッド様の訓練の様子は、何度か見た事がありました。多くの荷物と変わった防具、銃と言う武器を手に、大粒の汗を流し息を切らしながら、騎士たちに混じって走る姿を目にした事もありました。

 

 その過酷な訓練も、全て私を守るための物。私を、友人である私を守るために、アルフレッド様は多くを学んでいる。あぁ、そう思うと何故か胸が熱い。私のために、なんてそれこそ私の妄想でしかないのかもしれない。


 けれど、その妄想がもし現実ならと思うと、胸も顔も、熱くなる。そして思い出してしまう。あの日、私たちがお友達になった日の夜の事を。


 『俺にエミリア様を守らせてください』、なんて。あんな王子様のような言葉。あぁ、今思い出すだけでも頬が熱い。


 アルフレッド様には、結果的に何度もお世話になっていますし、この先もお世話になるのでしょうか?そしてもし私が落ち込んだりしたら、またあの日みたいな言葉を掛けてもらえる、のでしょうか?


 ……ってっ!私は何を期待しているのですかっ!アルフレッド様はあくまでもご友人っ!協力者なのですっ!そ、それにこれからお世話になる人物を相手に、私は何を考えて。……でも、アルフレッド様が私をどう思って居ようと、私と共に魔法学園に行くために、日々勉強と訓練に励んでいるのは事実。だから。

 

 私は静かに席を立ち、アルフレッド様の傍へと歩み寄る。本当に……。

「お疲れ様です、アルフレッド様」

 私は彼に、優しく労いの言葉を投げかけながらその髪を優しく撫でた。と言っても、聞こえていないのでしょうけど。


『コンコンッ』

「失礼します、お嬢様、アルフレ……」

「あ、し~~」

 そこにメイドがドアを開けて入って来た。私は咄嗟に人差し指を口元で立てて、静かに、と彼女に伝える。

「え?あ」

 入って来た彼女は状況が分からず一瞬困惑した様子だったけど、眠っているアルフレッド様を見ると気づいた様子だった。


「申し訳ありませんお嬢様。アルフレッド様、眠っておられたのですね」

 メイドは傍に近づいてきて小声で話し始めた。

「えぇ。日々の訓練でお疲れのようなので」

 私も私で、アルフレッド様を起こさぬよう小声で話す。

「ご昼食の用意が出来たのでお二人をお呼びするために来たのですが、如何いたしましょう?」

「そうね、アルフレッド様はこのまま寝かせておいてあげましょう。授業の最中も本当に眠そうでしたし」

「かしこまりました。では、お嬢様」

「えぇ」

 私はメイドに促されるまま、静かに部屋を後にした。



~~~~~

 ………………。エミリアお嬢様たち、行ったか? 俺はドアが閉まり、数秒ほど時間が経ったのを確認してから、ゆっくりと頭を上げた。

「ふぅ」

 そして息を一つつき……。


 さっきの何ィッ!?えっ!?俺なんか頭撫でられて労われたんだけどっ!?びっくりだよっ!?寝ようと思ったけどなんか、そういう時に限って寝付けずただぼ~っとしてたら急に頭撫でられるしっ!マジ、ビクッてなって体動かないようにするのに必死だったよホントッ!?


 それから数秒、同世代の異性から頭を撫でられた経験なんて無い俺は驚き、結局そのせいで眠気を吹っ飛んじまった。で、結局。


「ま、まぁ、信頼されてると思えばそれでいいか。うんっ」

 慣れない異性とのスキンシップですっかり顔が赤くなった自分に、俺はそう必死に言い聞かせた。


 ってか、これ実は起きてました、って後でお嬢様に伝えたら不味いよな。お嬢様だって俺が起きてたなんて知らないだろうし。とりあえず黙っておくとして。とにかく寝ようっ!日々の訓練で疲れてるんだっ!今は寝て午後の授業に備えないとっ!



 が、結局その後、俺は一睡も出来ず、午後は空腹感と睡魔の二つと戦いながら、授業を受ける羽目になった。


 そうやって、地獄の日々をこなしながらも、月日は流れていく。


     第10話 END

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マジックVSガンズ~~魔法至上主義世界に転生したミリオタ、銃で無双する~~ @yuuki009

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