第9話 実弾演習・後編
とうとう俺は母さんと共にディバイア家を離れる事となった。今後は、エルディシア侯爵家庇護の下で生きていく事になるだろう。俺と母さんは迎えに来た侯爵様の馬車に乗り、エルディシア侯爵家へとやって来た。そこでエミリア様を始めとしたエルディシア家の人たちと顔を合わせたのだが、若い騎士ゲイルは実力が分からない俺にエミリア様は任せられない、として俺の実力を見せて見ろ、と言ってきた。俺としても別に構わないので承諾し、俺は自分の実力を拾うすることになった。
あの後、俺たちは場所を屋敷から少し離れた場所にある騎士団の修練場に移した。ここにいるのは俺と母さん、エミリア様、オズワルド侯爵、セリア様、メイル様、アレックス団長、騎士ゲイル、家令のセバス。
そして、少し離れた所ではさっきまで訓練をしていた騎士たちが遠巻きにこちらを見守っている。更に、ゲイルの指示を受けた数人が訓練用らしい古い騎士甲冑を被せた案山子を数体、並べている。
「さて、アルフレッド君。君には今から実力を見せてもらう」
「具体的に何をすればよろしいんですか?」
「今回は、ある状況を想定しての物だ。今、前方に訓練用の案山子を5体並べた」
そう言って、ゲイルは並んでいる案山子を指さす。
「君はエミリアお嬢様を警護中と仮定しよう。しかし町中を歩いていた時、前方から見るからにガラの悪い5人組が現れた。しかもその内数人はあからさまにナイフを持っていたとする。君ならばどう対処する?」
「最初に警告をします。それで退くようならば良し。逆に向かって着た場合は制圧、もしくは排除でしょうか?」
「そうか。ならば君は警告を行った。しかし連中は退かなかった、という状況で臨んでもらう。それと、開始位置をあそことしてその後ろに案山子を一つ置く。護衛対象のエミリア様だと思ってくれ」
そう言ってゲイルは、今まさに案山子が置かれている辺りを指さす。
「背後にエミリア様が居る状況で、君が敵対者5人を相手にどう動くか、どう対処するか、見せてもらおう」
「……分かりました」
映画でSPとかがよく遭遇するシチュエーションに似てるな。
背後に護衛対象。正面にはこちらを上回る敵兵。……しかし。銃があれば話は別だ。5人の動かない案山子に当てるのなんて問題ない。
「それで、君はどうする?聞くところによると君は召喚魔法しか使えないそうだが?護衛となると武器は事前に身に着けておく事になるだろうから、武器を身に付けている、という状況で始めるか?」
「えぇ。そうなるでしょうね」
「ならば早速武器を召喚して見せてもらおうか」
「え?」
ゲイルの言葉が予想外過ぎて、俺は思わず呆けた声を出してしまった。
「どうした?召喚魔法が使えるのだろう?ならば早く武器を召喚してみろ」
「あ、あぁ、えっと。その必要は、ありません」
「何?」
首を傾げ眉を顰めるゲイル。周囲でもエミリア様達が『なぜ?』と言わんばかりに小首をかしげていた。
「もう、装備していますので」
そんな彼らに見せるように俺は上着を少しだけ開いた。そして右腰に備えたホルスターとそこに収められたHK USPを彼らに見せた。
「ッ。それが武器だというのか?君は?」
ゲイルは怪訝そうな表情でUSPを見つめている。まぁ無理もない。他の人たちも興味半分、疑惑半分という感じで俺を見つめている。
「えぇ。これが俺の武器です。それを今からまとめてお見せしましょうか?」
「……良いだろう。ならば君の持つ武器の力を見せてもらおう」
「分かりました。では……」
俺は皆の傍を離れ、一つだけある案山子の前に立った。そこまで来ると俺は周囲を確認し、案山子の後ろに人などが居ない事も確認。流れ弾が万が一にも当たったら危険だからな。それらを確認すると俺はホルスターよりUSPを抜いた。セイフティを外し、薬室をチェック。弾は薬室に入ってない。次はマガジンだ。
レバータイプのマガジンキャッチを押してマガジンを取り出し弾数確認。OK、15発ちゃんとある。
「何を、しているんだ?」
ふと少し離れた所からアレックス団長の声が聞こえる。チラッとそちらを見ると、皆俺の行動の意味が分からないようだ。無理もない。銃を知らないんだからな。
そう考えつつ、マガジンを戻してスライドを引き初弾を薬室へ。もう一度スライドを引いてチャンバーチェックを行ってから、セイフティを掛けてUSPをホルスターに戻す。っと、そうだった。
「≪サモン≫」
呪文を唱えた俺は魔法陣を通して耳栓を取り寄せた。その数9個。一つは俺のだ。俺はそれを手に一度母さんたちの所へ。
「すみません、皆さまにはこれを渡しておきます」
「これは?」
「耳栓です。私の武器は大きな音が鳴りますので、これをお使いください」
侯爵様が首を傾げ質問してきたので、それに答える。
「成程」
すると侯爵様が一番最初に耳栓をし、母さんやエミリア様達もそれに倣った。皆が耳栓をしたのを確認すると俺もそれをしてスタート位置へ戻る。
指先を軽くグーパーしてから、ゲイルの方へ向く。
「いつでもどうぞっ!」
耳栓越しでも聞こえるように俺は声を張り上げた。
「よしっ!では私の合図で始めるぞっ!」
ゲイルもゲイルで、聞こえるように声を張り上げている。
そしてしばしの静寂が辺りを包み込んだ。誰もが息をひそめている。俺も、合図を待ちながら緊張で乾いた唇を舐める。今か?今か?とその時を待っていた。
と、その時。
「はじめっ!!!」
声が聞こえた瞬間、反射的に手が動いた。既に早撃ちの練習は何度もしてきたっ!右手でホルスターからUSPを抜きながら、右手親指でセイフティを操作するっ!両手でグリップを握りながら、まず正面の案山子に狙いを定めるっ!
「ッ!!」
すぐさま引き金を2回引いた。ダブルタップという射撃方法だ。相手に弾を2発撃ちこみ、より確実にダメージを与える為だ。
「きゃっ!?」
銃声に驚いたのだろう。耳栓越しに聞こえる微かな悲鳴。だがそれに気を取られてる場合じゃない。
1体目に案山子に二連射。更に右、左と順番に残りの4体の案山子にも2発ずつ、弾を撃ちこんだ。甲高い銃声が響き渡り、排出された空薬莢が傍に落ちていく。
時間にして、数秒の出来事だ。5体の案山子に弾をぶち込んだ俺は一度射撃を止めた。構えていたUSPの銃口を僅かに下げる。セイフティはまだ掛けない。ゲイルか、或いは他の誰かから何か言われるかもしれないからだ。
念のために周囲の安全確認を行ってから、俺はゲイルへと目を向けた。が、しかし肝心のゲイルは驚きの表情のまま固まっていた。最も、周囲にいるアレックス団長やオズワルド侯爵たちも似たような反応だ。
母さんやエミリア様、セリア様、メイル様たちは耳栓越しに更に耳を抑えながら驚いている。オズワルド侯爵たちは、耳こそ抑えていないがやはり驚いているのか、あんぐりと口を開けたまま固まっていた。
仕方ない、か。俺はUSPのセイフティを掛けてホルスターに戻すと耳栓を外しながら彼らの元に歩み寄った。そしてそこでゲイルやアレックス団長がハッとなって耳栓を外し、それに遅れてオズワルド侯爵やエミリア様たちも耳栓を外している。
「終わりました。今のでよろしかったですか?」
「よ、よろしかった、というか。……おま、いや、君は今、何をしたんだ?」
驚きが抜けきらないのかゲイルは言い淀んでいる。
「簡単ですよ。標的5個に向けて、攻撃を行いました」
「い、今の一瞬でかっ!?」
「えぇ。何ならご自分で確認なさってください。恐らく鎧の胴体部分に多くとも2発。最低でも1発は当たっているはずですから」
驚くゲイルに対して俺は淡々と説明をする。が、内心は銃に驚くゲイルや他の人たちの反応が予想通り過ぎて、ちょっと笑うのを我慢していた。
「わ、分かった」
驚くゲイルはすぐさま案山子の方へと歩き出し、俺もそれに続いた。で、更に何故かアレックス団長を始めオズワルド侯爵たちまで付いてくる。なんでや?と思いつつ、案山子の元へ向かう。
「ッ。何だ、この穴は?」
そして案山子の元にたどり着くなり、ゲイルは甲冑の胸元に空いた穴を見て、困惑していた。
「それが、今さっきの俺の攻撃で出来た穴ですよ」
「ッ。これが?」
ゲイルは驚いた様子で一度俺の方に振り返り、再び弾痕へと目を向けた。
「金属製の鎧を、こうも簡単に貫いているとは。しかも、肉眼では全く見えなかった」
ゲイルと同じように、アレックス団長も弾痕をマジマジと見つめながら顎に手を当て何かを考えているようだった。銃の危険性でも考えているのだろうか?
「アルフレッド君」
っと、そこにオズワルド様が声をかけて来た。
「なんでしょう?」
「良ければ、君が持つ武器について簡単に説明してもらえないかな?今の一瞬で何があったのか?正直私たちは分からなくてね」
そう語るオズワルド様の傍でエミリア様達もうんうん、と静かに頷いている。
「分かりました」
俺は静かに頷くと、改めて彼らと向き合う。別に銃については教えて構わないだろう。彼らを信用しない訳ではないが、奥の手に関して教えなければ、奥の手に関する情報は流出しないはずだしな。
「では、改めて。≪サモン≫」
俺は召喚魔法を発動し、今まさにホルスターに収めてあるのと同じUSPを取り出した。念のため、取り寄せたUSPのマガジンを抜いて弾が入ってない事を確認。チャンバーチェックを行い、薬室も空である事を確認してから、マガジンを戻しセイフティを掛ける。
「≪サモン≫」
更に追加で9mmパラベラム弾を1発だけ引き寄せる。
「先ほど俺が行った攻撃、というのはこの武器、銃とそこから発射される弾、銃弾によるものです」
そこから俺は、侯爵様たちにも分かるように、簡単に銃の構造を説明した。どういった原理で動くのか。銃弾とは?銃とはどんな物なのか?などなど。
「成程。つまり、大まかに表現すれば、火薬という爆発する粉の力で、金属の弾を飛ばす、という事で良いのかな?」
「えぇ。オズワルド様の仰る表現で大よそ間違いありません。銃は銃弾を放つための道具。もっと分かりやすく言えば、銃は弓。銃弾は矢、と考えて頂ければ大丈夫です」
「そうか。……にしても」
オズワルド様は俺の手の中にあるUSPを興味深そうに見つめていた。
「アルフレッド君。それを少し、触らせてもらう事は出来るかね?」
「えっ?」
俺としては正直、そこは悩みどころだった。弾が入ってないとは言え、素人に銃を渡して良いのか?と。
流石に弾が入ってなければ、大丈夫、か?とりあえずもう一度スライドを引いてチャンバーをチェック。よし、弾は入ってない。セイフティも掛けて。
「では、こちらをどうぞ。弾は入っておりませんし、安全装置も掛けてありますので。ただし、引き金には指を掛けない事と、絶対に銃口の中を覗かないでください。弾は抜いていあると言っても、万が一があってはいけませんから」
そう言って俺は手にしていた弾無しのUSPの、バレル部分を掴んでグリップ部分をオズワルド様へと差し出した。
「お、おぉ。分かった」
オズワルド様はおずおず、とした様子でUSPを受け取った。慣れない様子ながらも、俺の持ち方を真似てか何とか右手でグリップを握っている。
「い、意外にも重いのだな。銃というのは」
オズワルド様は銃を握りながらあちこちを見たり、そ~っと触って確かめていた。やがて……。
「アレックス、お前たちも触ってみるかね?」
「よろしいのですか?では」
と、あれよあれよと、他の人たちも興味本位から銃を触る事になった。皆、というか特に女性陣は恐る恐ると言った様子だった。
そして、最後にメイル様がUSPを触っていた時。
「ねぇ、これって確かに凄いけど、魔法と銃で戦ったらどっちが強いの?」
メイル様からの問いかけ。声色からして、恐らく興味本位からの質問だろうか?しかし、今の俺にはその問いに関して答えられる事は出来なかった。
「申し訳ありませんメイル様。その問いには、残念ながら今の自分では答えられそうにありません」
「どうして?」
「私自身に、銃を用いて魔法士と戦った経験が無いからです。この段階ではどちらが強いのか、判断がつきません」
「あ~、それは確かに」
幸い、メイル様は納得した様子だった。
俺としても、後々の可能性として魔法士との戦いは想定しているが、それはあくまでも想定に過ぎない。なので、現段階では『分かりません』、としか言いようがない。その後、USPを返してもらい、『リリース』の一言でそれを消滅させた。
俺が召喚魔法で呼び出した物は、リリースの一言で消滅させることが出来る。
「さて、ゲイル。今しがたアルフレッド君の実力の一端を見せて貰ったわけだが。これで満足か?」
「はい、旦那様」
ゲイルはオズワルド様の言葉に頷くと俺の方に向き直った。
「アルフレッド君、君の実力は確かに見させてもらった。しかし君は、今まで警護の任務を受けた事はあるかな?」
「いえ。戦闘経験はありますが、どれもゴブリンの討伐でしたから。そう言った経験はありません」
「そうか。ならば君にはこれから、私やアレックス団長、更に他の騎士たちの元で警護任務に関しての事を学んでもらいたい。幸い、まだ君とエミリアお嬢様の魔法学園入学まで時間もある。どうだろうか?」
「分かりました。俺としても、そういった経験はあって困る物ではないと思いますし、ぜひお願いします」
「分かった。すみません旦那様、こちらで決めてしまいましたが、よろしかったですか?」
「あぁ。構わない。私としてもエミリアを守る為ならば何も問題ない。アルフレッド君本人も同意しているしな」
ゲイルからの言葉にオズワルド様は頷いた。が、しかし……。
「……」
何やら、肝心のエミリア様の表情が優れない。その様子を密かに見て気にしていたのだが……。
「さて。では室内に戻るとするか。アルフレッド君やサラさんの今後について話をまとめなければならないからね」
「あ、はいっ」
オズワルド様に呼ばれては仕方ない。俺はエミリア様の事を気に掛けつつも、オズワルド様に続いて屋敷の中へと戻って行った。
その後、先ほどの応接間に集まった俺たち。そしてオズワルド侯爵から俺と母さんに、改めて今後の詳しい予定が話された。
俺と母さんは侯爵家のすぐそばにある住宅で暮らす事になる。俺は決まった日に屋敷へと来て、魔法学園入学のための勉強と、エミリア様の護衛としてやっていけるよう、警護の訓練を受ける事になった。衣食住に関しては侯爵家が支援してくれるし、俺も本日をもってエルディシア侯爵家に仕える使用人見習い、という事になり正式に給金が発生するそうだ。
それと、俺と母さんが暮らす家は、元々俺が急に条件として提示した事もありまだ出来上がっていない。なので数日は屋敷の客間を使って良い、との事だった。
それから、オズワルド様の案内の元、屋敷内を見て回ったり数日とは言えお世話になるであろう人たちに挨拶もしていると、時間はあっという間に過ぎていった。
日も暮れてくると、オズワルド様の計らいでささやかな食事会となった。正直、初めて食べる高級な料理のオンパレードに俺も母さんも結構戸惑った。
ともかく、これでゲイルも納得し改めて俺は魔法学園入学のために、色々学んで備える事となった。早速明日から色々始まる、という事で宛がわれた部屋のベッドで早めに休もうとしたのだが……。
「……眠れねぇ」
ベッドや枕が今までと違うせいか、全く眠れなかった。弱ったな、明日からもう色々始まるから、早く休みたいんだが。……仕方ない、水の一杯でも貰ってくるか。
俺は部屋を出て、水を貰いに厨房へと向かった。誰も居ない厨房の水瓶から水を貰って飲み、のどを潤すと部屋に戻ろうとしたのだが……。
「ん?」
ふと廊下を歩いていると、窓から見えた外の景色に一瞬違和感を覚えた。足を止めて窓の方へと歩み寄り外を見ると、いつぞやの噴水がある庭園が見えたのだが、その噴水に1人の人影が腰かけていた。
「……誰だ?」
誰かいるのは間違いないが、誰だか分からなかった。何もないのなら良いが、そうでなければ不味い。そう判断した俺は足早に部屋に戻ると、ベッド近くのクロークに掛けてあったホルスターを手に取り、ベルト一体型なのでそれを腰に装着し、USPのマガジンとチャンバーをチェック。それと、事前に召喚魔法で取り寄せてあった軍用のフラッシュライトを1本手に持つと俺は急ぎ足で部屋を出た。
幸いというべきか、もうみんな寝静まっているのか他の人とは会わない。廊下を足早に通り過ぎ、外へと出るドアの前へとたどり着く。
「ふぅ」
そこで俺は一つ息をつき、呼吸を整えてからホルスターよりUSPを抜いた。何もない、とは思うが『何かあってから』では遅い。スライドを引いて初弾を薬室へ。俺はゆっくりとドアを少しだけ開け、周囲を警戒しながら外に出た。左右と上下も警戒しつつ、遮蔽物で体を隠しながら噴水の元へと向かう。
幸い、周囲に敵影らしきものはなく、噴水の傍まで来ることが出来た。と、その時。月を覆い隠していた雲が晴れ、月明かりが件の人影を照らしたのだが。
「ッ、エミリア様?」
噴水に腰かけていたのは、エミリア様だった。いつぞやと同じようなシチュエーションに既視感を覚えつつも、俺は胸の高さで掲げていたUSPの銃口を下げた。
念のため周囲を警戒してから、USPにセイフティを掛けホルスターに戻すと俺は噴水の方へと歩みを進めた。そして更に、わざとエミリア様が気づくように踵で石畳を叩き、音を立てるように歩いた。
「ッ!誰っ!?」
エミリア様は足音に気づいて振り返った。
「ッ!?アルフレッド、様」
そして俺に気づくなり驚きの表情を浮かべた。
「ど、どうして、こちらに?」
「いえ。寝付けなかったものですから水を飲みに行ったのですが。戻りに廊下を歩いていた時に人影が見えたもので。それよりエミリア様はこんな夜更けに何を?流石に夜となると冷えますよ?」
「……すみません。少し、静かに考えたい事がありまして。昔からなんです。静かに1人で考えたい事があると、いつもこの噴水の所に来てしまうんです」
そう言ってエミリア様は後ろの噴水を見上げている。しかしその表情は優れない。まるで何かを憂いているような、後悔しているような、そんな表情だ。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
気づいた時には、反射的に声を掛けた後だった。いつぞやの時のような暗い表情を思い出してしまったせいかもしれない。
「あぁいえ。何と言いますか、今のエミリア様はあの時と同じような顔をされてましたので、どうしても気になってしまって」
疑問符を浮かべるエミリア様に、咄嗟に理由を説明した。
「もし、何か俺で力になれる事があれば話してください。少なくとも今の俺は、あの時とは違って。エミリア様を支えるためにここにいるのですから」
俺は今、そのためにここにいる。だったら自分がやるべき事をやるまでだ。だからこそ、あの時のようにエミリア様が話せるように、俺はそう声を掛けた。
「ありがとうございます。あの日のように、そう言って貰えると、本当にうれしく思います。……でも」
最初は微笑みを浮かべていたエミリア様だが、しかし再び表情が陰ってしまう。
「今の私の悩みは、『そのこと』に関係しているのです」
「えっ?」
そのことってなんだ?もしかして俺が協力者になった事か?と、内心考えていると、エミリア様が再び口を開いた。
「私は、アルフレッド様に謝らなければならないのです」
「……えっ?」
突然の言葉に俺は驚き、そして予想外だったその言葉に呆けた声を漏らす事しか出来なかった。
第9話 END
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