第5話 突然の来訪
ひょんなことからエルディシア家の三女、エミリア・エルディシアと夜の庭園で遭遇した俺は、彼女の悩みを知り、ちょっとした正義感から彼女の相談に乗る事となった。幸いな事に相談事は無事答えを見つけ、事なきを得た。パーティーも無事に終わり、俺はディバイア家に戻って来たのだが……?
エルディシア家で行われたパーティーから早いもので数日が経過していた。そんなある日、何やら屋敷の中でクソ親父たちが嬉しそうに騒いでいたのだが、俺には関係ないと思い、半ば無視していた。
そんな日の夜の事だった。今日も今日とて母さんと2人、食事を楽しんでいたのだが。
「そうそう。アルは聞いた?」
「え?聞いたって何が?」
突然、母さんが話題を振って来た。しかし、聞いたって、なんのことだか俺には見当がつかなかった。
「あら?知らないの?何でも屋敷に偉い貴族の方から手紙が届いたそうよ?確か、この前アルがパーティーに言った貴族の、え~っと」
「ッ。それってもしかして、エルディシア伯爵家っ?」
「あぁそうそうそれよっ!確かにお話ししたリリも、エルディシア家って言ってたわっ!」
リリ、というのは母さんの世話を良くしてくれるメイドだ。お喋り好きで有名だが、今はそれより、エルディシア家からの手紙だ。
「エルディシア家って、この前アルがパーティーに参加したお家でしょ?何か関係あるのかしらね?」
「さぁ、どうだ……」
どうだろう、と言いかけた時、脳裏に浮かんだものがあった。エミリア様との噴水前での相談事だ。
「……アル?どうしたの?」
俺が変な所で言葉を区切ったからか、母さんは心配そうに俺を顔を覗き込んできた。
「あ、あぁいや。大丈夫。ちょっと思い当たる部分があって、さ」
「思い当たる部分って、パーティーで何かあったの?」
「あ、あぁ。え~っと」
母さんの視線に気づいてハッとなり、心配させないように思わず口が滑ってしまった。気づいた時には後の祭り。どう答えるべきか考え、とりあえずエミリア様から独り言の内容とかは話さないよう言われてるし、その辺りを曖昧にして説明するか。
「実は……」
俺は母さんに、パーティーの際にエミリア様と出会った事や相談に乗った事などを、所々曖昧にしつつ説明をした。
「そうだったの。じゃあ、あの手紙はそれに関係してるのかしら?」
「流石にそれは無いんじゃない?あったらクソ親父たちが俺に黙ってないだろうけどそれも無いし。第1、相談に乗っただけだよ。そんな大した事じゃないよ」
俺としては、ただ自分の中の安っぽい正義感を満たしただけに過ぎない。お礼なんて言われるほど、凄い事をしたとも考えていなかった。ただ、あの時そうしたかったからそうした、それだけの事。というのが俺の認識だった。
が、どうやら母さんの考えは違うようだ。
「アル。あなたのしたことは、十分大した事よ」
「え?」
「だってそのエミリアって子はその悩みをずっと抱えて苦しんでいたんでしょ?アルはその苦しみを取り除いてあげたのよ。それは十分大した事で誇っていい事よ」
「そ、そうかな?まぁ、母さんにそう言ってもらえると嬉しいけどさ」
母さんに褒められ、嬉しくなった俺は思わず笑みを浮かべた。
「きっと手紙はそのお礼よ」
「そ、そうかな?まぁ、そうだと良いけど」
そう言って俺は話題をそこで一区切りつけた。
ただ、母さんの言う通り、届いた手紙に俺へのお礼が掛かれていたのだとしたら、あのクソ親父たちが喜ぶ訳が無い。でも窓の外から見えたあいつらの様子は、間違いなく何かを喜んでいるような感じだった。表現があいまい、例えば『我が家の娘がお世話になった』、という文章で誰が誰に世話になったのか詳しく書かれていないからあいつらが勘違いした、というのも十分ありえるが……。
まぁ、あのクソ親父共が何も言ってこない所を見ると、俺の事は一切書かれていなかった、と見て良いだろう。それに、今後俺が再びエルディシア家と関わる事だってあるかどうか。その辺りは気にしても始まらないし。
という事で、俺はこの話題について深く考える事を止めた。
それから更に数日後。その日の午前中、俺はいつもの軍人装備に身を包み、森の中を歩き回っていた。理由は森歩きに慣れる為だ。
冒険者ともなれば依頼を受けて森へ山へとあちこちを歩き回る。今日は背中に野営用の装備も詰め込んでの行軍訓練だ。手にはいつも使っているレミントンM700。右足のホルスターには大型動物に近づかれた時用にトーラス・レイジングブルを、それぞれ装備していた。
しかし、今日の目的は狩りよりも行軍訓練だ。周囲を警戒しながらとにかく、重い荷物を背負い歩く。
「ハッ、ハッ、ハッ」
重い荷物を背負っての行軍訓練はキツイが、これも将来の為。生き残るためだ。戦闘の時に甘い事なんて言ってられない。
母さんと一緒に暮らすために、母さんを1人にしない為に、俺は死ねない。だから強くなるしかないんだ。
そのまま俺は、索敵の練習として森の中を歩き回りつつ、動物の気配や痕跡を探る斥候の練習をしていた。そして、屋敷の方角へと続く森の中の街道付近まで来た時だった。
「ん?」
森を歩いていると、何か聞こえた気がした。俺は即座に近くの木陰に走り込み、遮蔽物にして体を隠すと、M700のセイフティを解除し、周囲の様子を確認するために木陰から周りを観察する。
周囲に動きは無し。動物の気配も無し。少なくとも近くには何も居ないな。だが、耳を澄ましてみるとヘッドセット越しに微かに聞こえる音。人の声だな。それも、ただの話し声じゃない。怒号、か?
……何かあったのか?素直に気になるな。何か問題があればリンクスに報告する必要があるし、盗賊の類だと更に不味い。現在進行形で誰かが襲われている可能性もある。……とにかく状況確認が必要かっ。
俺はM700を構えたまま、木陰より立ち上がり、微かに声が聞こえる方へ向かって周囲を警戒しつつ足早に進み始めた。周囲を警戒しつつ、足早に音がする方へと進む。
少し進めば、声がよりはっきり聞こえて来た。『馬車に近づけるなっ!』、という
単語が聞こえて来たが、つまり商人か貴族の馬車が何者かに襲われている可能性が高いな。急がないと……。
少しスピードを速める。数秒もすれば、森の切れ目、街道の所まで出ていた。森を抜けて素早く周囲を見回すと、見つけたっ!
豪華な装飾が目立つ馬車が、ゴブリンの群れに襲われていたっ!周囲では、リンクスたちの物よりも派手なレリーフが施された騎士鎧を纏った騎士たちが、ゴブリンを相手に戦っていた。
「相手の数に怯むなっ!所詮ゴブリンだっ!」
「「「「「おぉぉぉぉっ!!!」」」」」
数こそゴブリンが勝っていたが、騎士たちの練度の高さもあって拮抗状態、というところかっ。っと、見てしまった以上こうしちゃいられない。
素早く周囲を見回し、遮蔽物に使えそうな倒木の所へと駆け寄り、殆ど地べたに這いつくばるような姿勢で、フォアエンドを倒木の上に置くようにしてM700を構える。セットしてあるスコープは100メートルでゼロイン調整してある。ここからゴブリンどもまでの距離は、50メートル程度か。だが、今から調整してる暇はないっ!撃ちながら自力で調整するっ!
「はぁ、ふぅっ」
息を整え、M700を構え、スコープで狙えそうなゴブリンを探す。ゴブリンの数は30匹ほど。対する護衛の騎士たちは10人程度。よしっ!とりあえず馬車の側面に転換しているゴブリンどもっ!その最後尾にいる奴に狙いを定めるっ。スコープのクロスヘアがゴブリンの胴体部分で重なった。
「ッ!」
すぐさま引き金を引くと、銃声と共に308ウィンチェスター弾が放たれた。
『ギッ!?』
「なんだっ!?」
案の定というべきか、ゴブリンどもは愚か騎士たちまで銃声に驚いたようで動きを止めたっ。だが、肝心の俺が放った弾は狙ったゴブリンの頭上を飛び越していったっ!
「ちっ!もっと下狙うべきだったかっ!」
銃弾とは、銃口から真っすぐ飛び出すわけではない。カーブの緩い山なり弾道で飛ぶ。そんな山なり弾道の銃弾を相手に当てるためにスコープを距離に応じて調整するのが、ゼロイン調整だ。それが甘いと、例え目標に向かって行っても、目標に届く前に落下するか、或いは相手の頭上を飛び越えてしまう事だってあるっ。今の俺がまさにその後者だったっ。
だが今の射撃でスコープとの誤差を推し量れたっ!
素早く右手でボルトハンドルを上げ、そのまま後ろに引く。すると薬室から空薬莢が飛び出し、石にでもあたったのか甲高い音を立てた。だがそれを気にしている暇はない。素早くボルトをもう一度押し込み、ハンドルを下げる。次こそは、当てるっ!
「そこっ!」
スコープの誤差を意識して、少し下を狙って撃つと、見事に308ウィンチェスター弾が1匹のゴブリンの腹を貫いた。
『ギ、ィッ!?』
腹を貫かれたゴブリンは、口から血を吐きながら倒れた。だがまだまだっ!即座にボルトを引く、戻すの動作でリロードッ!次っ!
次に狙うは槍を持った奴っ!特に危険そうな武器を持った奴から排除していくっ!引き金を引くっ、槍を持ったゴブリンの右肩が吹き飛ぶ。
「次ッ!」
お次は粗雑な弓を持った奴っ!カウンタースナイプを警戒して遠距離攻撃能力持ちを潰すっ!引き金を引き、放たれた銃弾が奴の小さな頭を吹き飛ばし、脳漿が周囲に飛び散る。
『ギギィィィッ!?!?』
それが更に、ゴブリンどものパニックを煽った。チャンスだっ。連中が浮足立っている今の内に追撃するっ。だが、今ので弾を4発消費しちまったっ。まだ薬室に1発残ってるが、こいつはいざって時のための弾だ。
即座に俺はボルトを引いて、そこにポーチから308ウィンチェスター弾を取り出し、弾を手で1発ずつ入れていく。もちろん、ゴブリンどもの様子を見て周囲への警戒も怠らないままだ。
カチャカチャと音を立てて弾を押し込んでいくっ!よし、装填終了っ!ボルトを前進させ、更に狙いをつける。
「良く分からんがこれは好機だっ!総員、ゴブリンどもを殲滅せよっ!馬車を守れっ!」
「「「「「おぉぉぉぉぉっ!!」」」」」
どうやら俺の射撃による横槍を好機と判断したのか、これまで拮抗状態だった騎士たちが攻勢に転じた。更にゴブリンどもの方は銃声と銃撃のパニック状態から立ち直り切れておらず、そのまま次々と騎士たちに切り捨てられていった。
瞬く間に数を減らしていくゴブリン。加えて騎士たちが接近戦を仕掛けているため、これ以上の射撃は誤射の恐れがある。なので俺はそこで息をつき、M700のセイフティを掛けて手にもち、立ち上がった。
ゴブリンどもはパニックから抜け出せないまま、あっという間に騎士たちによって殲滅された。ここから見た感じ重傷者は無し。馬車も無事っぽいな。
さて、そうなると問題は、俺だ。ここからどうする?このまま去るか、それとも顔を出すか。去った場合は変な噂が立ちそうだし、かといって顔を出しても、こんなミリタリー装備じゃ、この世界の人間からすると怪しさ満載だからなぁ。どうしたもんか?と考えていると……。
「ん?」
見ると馬車の方に騎士の1人が駆け寄っている。確か、指示を出していた奴だな。あれがリーダーか?とりあえず、木陰から様子を伺うか。
流石にここからじゃ何を話しているかまでは聞こえないが、しばらくするとリーダー格の男が馬車を離れた。やがてリーダーの男は周囲を見回している。甲冑のせいで視線や表情は伺えないが、周囲を見回している、のか?
「先ほどの攻撃の主よっ!」
しかし次の瞬間、リーダー格の男が急に声を張り上げたっ。な、なんだぁっ?
「我らの主が、貴殿に礼を言いたいと申しているっ!私の声を聞き、そして言葉を理解したのなら、どうか姿を見せて欲しいっ!」
おいおい、言葉を理解って、もしかしなくても幻獣とか神獣みたいなのが助けてくれた、とでも思ってるのか?しかしどうするかなぁ?呼ばれてるしなぁ。罠の可能性も、0じゃないよなぁ。
とはいえ、あの連中は屋敷へと続く道を進んでいる。このままいけば屋敷にたどり着くだろう。連中の目的や素性が分からない以上、出来る事なら目的を聞いて、場合によってはこの場で『対処』した方が良い。
屋敷を攻められるような事があれば、母さんの命に係わる。……あまり気は進まないが、連中の目的を探るためだ。警戒しつつ、出て行ってみるか。
って事でM700を手に、俺は街道へと出た。
「ッ!何奴っ!」
即座に騎士の1人が反応し、他の騎士たちも剣を手に、即座にこちらを向いて来た。
「ただの通りすがり、って訳でもないが。今しがた、アンタたちが呼んだだろ?姿を見せて欲しい、ってさ」
俺はM700を両手で握り、戦う意思が無い事を示すために頭上に掲げている。
「ッ……!?では先ほどの攻撃は貴様が……っ!?」
「あぁ」
驚く騎士に俺は頷く。
「た、隊長」
騎士はすぐさま、後方に来たリーダー格の男の方へと視線を向けた。困惑し、指示を仰いでいるのは明白。声色からして、あの攻撃が本当に俺の物なのか疑ってるのかもしれないな。リーダー格らしい男は、困惑している兵士の傍まで来ると、何かを小声で言って下がらせた。そして、男は俺の方へと向き直って来た。
「部下が失礼した。君が、先ほどの攻撃を?」
「あぁ」
「……そう、か」
どうやら信じてないな。まぁ銃を知らないのなら無理もない。といって、ここで銃の事を説明してやる義理も無い。こいつらは、俺の敵か味方かも分からない。手の内は、晒さない。
「それよか、アンタたちはこんな所で何してるんだ?この道を行ったってディバイア子爵家の邸宅があるくらいだが?」
「……残念だが、それを伝える義務には我々には無い」
「成程」
……そう簡単に外部の人間に情報は漏らさない、か。まぁ、向こうにとっても俺が敵か味方か判断付かないのなら、無理もない。が……。
「それは、俺がディバイア家の関係者だとしても、か?」
「何っ?」
反応したな。……どうやら俺がディバイア家の関係者である事は知らなかった様子だ。
「君が、ディバイア家の関係者だと?」
「あぁ。貴族、ではないけどな」
ここでフルネーム名乗ってもなぁ。あのクソ親父たちが『勝手に家名を名乗って汚すな』とか言ってきそうだし。
「貴族ではない?では、使用人らの子、という事か?」
「まぁ、そんなところだ」
母さんは元使用人だし、間違いではない。
「……では、君はなぜこんな所に?我々を出迎えに来た、という風貌には見えないが」
「偶然ですよ。趣味のトレーニングで森の中を歩いていたら戦闘の音が聞こえたもんで。来てみたらそちらが戦闘中だったので。勝手ながら援護させていただきました。それだけです」
「……そうか」
納得は、してないな。まぁお互い様だ。お互い素性は分からないのだから、ここは腹の探り合いだ。油断はしない。こいつらの目的が何なのか、分かるまでは。
そう考えながら周囲に気を配っていると、馬車の扉が僅かに開き、傍に居た騎士が中へと顔を向けた。何だ?何か、中の奴と話しているのか?小声のせいか声は聞こえない。すると、中の奴と話していた騎士がリーダーの所へ駆け寄り耳打ちをした。
こっちはまだ近い方だが、それでも微かな声が聞こえるだけだ。なんか『旦那様』とか『挨拶』って言葉しか聞こえないが……。
「そうか。分かった」
リーダーが頷くと、俺の方に向き直った。
「すまない。実は我々の主が君にお礼を言いたいそうだ。名を聞いても良いかな?」
「良いですけど。俺の名はアルフレッドです」
「アルフレッドか。分かった。ならばアルフレッド、君に紹介しよう。旦那様」
リーダーの男が馬車の方へ振り返り声を掛けた。
「あぁ」
馬車の中から聞こえた男性の声。僅かに開いていたドアが更に開き、中から人が現れたのだが……。
「ッ!?」
まさかの相手に思わず息を飲んじまったっ!そこにいたのは、先日のパーティーで見かけたオズワルド・エルディシア侯爵、その人だったっ!なんだってこの人がっ!?ってそういえば手紙の件、母さんから聞いてたなっ!
い、いや、それよりも俺は明らかに侯爵より格下の存在っ、膝をつくべきかっ?しかしここは森の中っ。さっきゴブリンの襲撃があったばかりだ。血の臭いに釣られて狼や熊が現れても可笑しくないっ。……そんな状況で膝なんて着いてられるかっ。
「アルフレッド」
その時、リーダーの男が声をかけて来た。声色に若干の不快感が混じっているようだ。膝を付け、と言いたいのだろうが……。
「……申し訳ありません。無礼は重々承知しておりますが、ここはどこから獣と魔物が現れるかも分からない森の中。そのような状況で膝をつき、外敵に隙を晒すような勇気と紙一重の無謀さを、私は持ち合わせておりません。どうか、このままでご容赦頂きたく」
「むぅ」
俺の言葉を正論と判断したのか、リーダーは唸るばかりで何も言わない。
が、どうやら騎士たち全員がそうでもないらしい。
「貴様っ!無礼であるぞっ!」
騎士の1人が声を荒らげた。
「貴様のような平民風情が……」
お決まりの文句を叫ぼうとしたその時。
「やめないか」
ただ一言、侯爵が声を上げてその場を制した。
「だ、旦那様っ!しかしっ!」
「あの少年、アルフレッドの言っている事は的を射ている。ここは周りに危険が潜む言わば戦場。そんな所で悠長に膝などついていられるか?ましてここは王宮でも屋敷でもないのだ。礼儀作法を問う場ではない。よって、気にすることは無い」
「か、かしこまりました」
騎士の男は侯爵に向かって頭を下げながら、小さく返事を返した。
どうやらオズワルト侯爵は理解のある方らしい。あの人まで『無礼だっ、膝を付け』、とか言ってきたらどうしようかと思ったが、杞憂に終わったようだ。
「さて。部下が失礼をした」
「いえ。お気になさらず」
「そう言っていただけると助かる。あぁ、そうそう。名を名乗っていなかったね。私はエルディシア侯爵家、現当主。オズワルド・エルディシアだ」
「お初にお目にかかります、エルディシア侯爵。改めまして、アルフレッドと申します」
「そうか。改めてアルフレッド。君の救援には感謝している」
「いえ。当然の事をしたまでです」
「それはそうと、我々はこの先のディバイア家に向かっていたのだが、話によると君はディバイア家の関係者のようだね?」
「はい」
「ならば、ディバイア家までの道案内を頼めるかな?何分、この辺りを訪れるのは初めてでね」
「かしこまりました」
ディバイア家に行く理由までは話さない、か。かといって率直に聞いた所で答えるかどうか。逆に『こちらを探っているのでは?』と怪しまれる恐れもある。やむを得ないが、ここは素直に案内するか。……もちろん、警戒心は解かないが。
とりあえず、俺が先頭を歩き、その後ろを騎士たちに守られた侯爵の馬車が続く。こいつらが何の目的でディバイア家に足を運んだのか分からないからな。もしかすると、母さんの言ってた手紙ってのはオズワルド侯爵の来訪か何かが書かれていたのか?だとしたらあのクソ親父たちの喜びようも、うなずけるが。
いや、情報が少ない。判断は慎重に。観察は怠らず。警戒心は緩めず。とにかく、家に戻ったら、そのまま母さんの傍に行くか。
もし、こいつらが敵として襲い掛かって来るのなら、容赦はしない。皆殺しにしてでも母さんを守る。絶対に守り抜いてみせる。
俺は静かに、M700を握る手に力を籠め、彼らを警戒しつつもディバイア家に案内をした。
しかしこの時の俺は警戒するばかりで気づかなかった。彼らのディバイア家訪問のきっかけが、俺である事を。
第5話 END
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