第4話 偽者聖女

 


 義妹たちが王宮内に居ると聞いた翌日。義妹たちの暴走を止めることと、ペンダントを取り戻すため私も王宮へ向かうことにしましょう。


 ですが、聖女の証であるペンダントが無い状態では王宮内に入る許可が出るかわからないため、先に王宮近くに位置する教会へ立ち寄らなければなりませんね。


「おや、聖女ミーシャ。本日、貴方がここへ訪れる予定はなかったと思いますが、何用でこちらへ?」

「司祭様、申し訳ありません。少々問題が起きまして」

「問題……ですと?」


 私は昨日、義妹に聖女認定の際に貰ったペンダントを盗まれたことを説明し、一時的に私が聖女であることを証明する、仮認定証の発行をお願いしました。


 すると、司祭様は少し悩んでいる表情になりました。まさかこの理由では仮認定証の発行は出来ないのでしょうか。


「盗んだ、という事はそれで聖女になれると思っているという事ですかね」

「王宮の方へ保護を申し立てたそうなので、おそらくそうかと思います」

「……そうですか。ああ、仮認定証の発行はしっかり致しますよ。早くに取り返していただきたいですからね」


 私の懸念が伝わったのか、司祭様は表情を柔らかい物に変え、そう言ってくれました。


 教会の奥に移動します。書類を作るにも礼拝堂では出来ませんので、奥にある執務専用の部屋に移動します。


「近年、平民からの教会や聖女の認識があまり宜しくない、というのは本当なのかもしれませんね。礼拝に来られる方も十年前に比べれば減っていますし」

「そうなのかもしれませんね。どうにも、貴族関係の施設、と思われている節があると思います」


 教会は別に国が、貴族が運営している施設という訳ではありません。確かに王宮とは協力関係にありますが、完全に別の組織になります。そのため、教会は時に国と対立することもあるのです。ここ数十年はそのようなことが無いので、そういった印象が薄くなっているのでしょうけど。


「そのようですね。実際はそのようなことは無いのですが。はい、聖女ミーシャ。こちらが仮認定証になります。ペンダントが手元に戻りしだい、こちらは返却お願いしますね」

「ありがとうございます」


 話ながらも、仮認定証の持ち出し許可の書類を書きだしていた司祭様から、私は少し傷みのあるペンダントと2枚の書類を受け取りました。


「貴方の婚約者様の方へ、よろしく言っておいてくださいね」

「わかりました」


 さて、それでは王宮の方へ行くことにしましょう。



 

 門番として立っている兵士に仮認定証と書類を1枚見せる。どうやら門番の兵士の人が私のことを覚えていたようで、大した時間はかかりませんでした。

 そして許可を貰った上で王宮内の中に入ります。


 兵士が1人同行していますが、この方は正門から入ってきた者たちに付く、道案内兼護衛役として王宮内に勤めている方です。勝手に変なところへ行かれないよう、監視の役目も負っているとは思いますけど


 兵士の後をついて婚約者様の元へ向かいます。


 聞いたところ婚約者は王宮内にある応接間の1つに居るようです。そして、義妹たちもそこに居ると報告されました。

 どうやら義妹が聖女ではないことは知られているようですね。あからさまに兵士の表情が歪みました。


「私の案内はここまでになります」

「ありがとうございます」

「はっ!」


 兵士は私に向けて敬礼するとすぐ元居た場所へ戻って行きました。


 応接間の前に立つ使用人に入室できるかの確認を取ります。使用人はすぐに中へ確認を取り、私を中へ誘導してきました。


 対応が異様に早いですが、それだけ中の状態に介入して欲しいのでしょうか。


「何度も言いますが、貴方と婚約している聖女は偽物です。証拠はこれ。このペンダントの本当の持ち主は私なのです!」


 応接間の中に入ると直ぐに義妹が私の婚約者様に抗議している場面が目に入りました。


 そんなわけはないでしょう。

 そう口から洩れそうになりましたが、下手に割り込めば面倒なことになりそうですね。それに私が部屋の中に入って来たというのに義妹たちは興奮しているのか、気付いている様子はありません。


 義妹と対峙していた婚約者様と目が合いました。それと同時に義妹が私の存在に気付いたようです。


「やあ、ミーシャよく来――」

「何で貴方がここに居るのよ!」


 婚約者様の言葉を遮り、義妹が怒鳴り始めました。


 これは良くないですね。上位者の言葉を遮るのは貴族として論外の行為です。義妹はそれを気にも留めないどころがあからさまに意図してしたように見えました。

 もしかして聖女はこの国の中でも一番偉い存在だとでも思っているのでしょうか?


 その光景を見て周囲に居た使用人たちもあり得ないようなものを見たような表情をしています。いえ、実際貴族社会で生きていればあり得ない光景ではありますけど。


「申し訳ありません。王子。私の義妹が粗相を」

「君が謝る事では無いだろう」

「ですが」


 義理とはいえ、あの2人は一族の者ですから、立場として上に居る私が謝らなければならないでしょう。この場に居るのが


「サジェス王子! そいつは偽物聖女なの! 本物は私なのよ! 早くそんな奴と婚約破棄して私と――」

「黙りなさい」


 王子の怒気を含んだ声に義妹の言葉が途切れます。


 今まで聞いているだけだった王子ですが、これ以上義妹の話を聞く気はないようですね。

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