第5話 聖女の証明
義妹が黙ったところで王子はさらに言葉を続けます。
「ミーシャが来るまでの時間つぶしにはなるだろうと話を聞いていれば、偽物聖女だの、貧乏貴族だの、ミーシャは私のことを金づるとしか見ていないだのと暴言を吐き続け、最後には自分が本物の聖女だと与迷いごとを言うとは、信じられない存在だな」
「事実よ。私が本当の聖女! これで証明できるでしょう!」
義妹はそう言って王子に見えるようにペンダントを掲げました。それを見て王子は呆れたようにため息を吐きました。
「確かにそれは聖女の証として扱われているペンダントだ。しかし、それを持っているだけで聖女として認められるわけではない」
「は? そんなわけないでしょう?」
頭を抱えたくなりますね。本当にどうしてこの国の王族である王子にあのような口が利けるのか、一応家族とはいえ信じられません。
「それにそのペンダントを持っているからといって本人の物とは限らない。それが自分の物だというのなら証明して見せろ」
「そんなの出来るわけないじゃない。ただのペンダントなのよ!?」
この言い分からして、持っているペンダントの持ち主ではないと言っているようなものなのですけどね。まあ、義妹がそのことを知っているとは思えませんが。
「それが聖女のペンダントだとすれば、魔力を通すことで本当の持ち主かどうかの判断は出来る。しかし、お前は聖女なのだろう。何故そのことを知らない?」
「え、あ、えっと、そう! そこの偽聖女を試すために嘘を吐いただけよ!」
言い訳にしてもおざなり過ぎますね。誰が聞いてもそれは信じないでしょうに。
「なら証明できるだろう。早くやれ」
結果が最初から分かっているため、王子もすぐに終わらせたいらしく義妹を急かします。
「王子。この子は体調が悪くて……」
「今まであれだけ騒いでいてその言い訳は無理があるだろう。それに少し魔力を流すだけだ。体調が悪くとも出来なくなることではない」
我が家の第2夫人である義妹の母が義妹に助け舟を出そうとしますが、王子によってすぐに却下されました。と言いますか、あれでどうにかなると思たのでしょうか?
「早くやれ」
王子のその言葉に義妹の表情に焦りが見え始めました。
「どうした? まさかそのペンダントは自分の物ではないということか?」
「そそ、そんなわけでは」
「ならさっさとやれ。こちらも時間に余裕があるわけではないのだ」
八方塞がり状態の義妹の顔が青くなり始めました。しかし、やらないわけにはいかず、義妹は魔力を込めるようにペンダントを握り閉めました。
「反応が無いな。持ち主であれば美しい光を放つというのに、どういう事だろうな?」
当然、義妹が握りしめたペンダントは何の反応も示しませんでした。そもそも義妹は魔力の扱いも出来るかどうか怪しいですからね。どうあがいてもペンダントを反応させるのは不可能でした。
「え、あ、ちょ……調子が悪いみたいで」
「はあ、そんなわけないだろう」
王子が本当に呆れた顔をして、近くで警備していた兵士に指示を出します。
そしてその兵士は義妹の所へ行くと、その手に持っているペンダントを強引に奪いました。
「何するの! それは私んぎっ!?」
ペンダントを奪われまいと抵抗した義妹を、ペンダントを取った兵士とは別の兵士が押さえ付けました。
「私にこんなことをして良いと思っているの!?」
「王子、こちらを」
義妹の言葉を無視して兵士はペンダントを王子に渡しました。
「ミーシャ。あれに本来ならどうなるか見せて上げなよ」
ああ、どうやら王子は義妹が持っていたペンダントが私の物であることに気付いていたようです。まあ、あれだけ私との関係を言いふらしていれば否でも気づくでしょうけれど。
私の手元になかったのは1日と少しですがようやくペンダントが戻ってきましたね。
「わかりました。では」
そう言って私はペンダントに魔力を流し込みました。
するとペンダントは薄く光始め、徐々に光を強く発するようになりました。
「この光がペンダントの持ち主の証明だ。ペンダントを持っているだけでは証明にはならないというのはこれがあるからだ。禁止はされているがペンダント自体は似たようなものを作る事は出来るし、お前のように盗むような者もいる」
「っ!」
ペンダントが自分の物ではない上、自ら盗んだものであることが証明されてしまったからか、先ほどの態度とは裏腹に義妹は畏縮してしまっているようで、王子の鋭い眼光に怯み小さく悲鳴を上げます。
「聖女は国にとっても教会にとっても神聖な存在だ。それを偽ることは重罪である」
ペンダントを盗むのも複製するのも犯罪ですからね。この2人にはさらに罪が重なっている状態です。先ほどの王子に対する態度から、周囲からの評価も最低になっているでしょうし、このまま罪人として連れて行かれた場合、生きて牢屋から出られるかどうかわかりません。
「しかし、やはりミーシャの灯す光は綺麗なものだな。他の聖女のペンダントから漏れる光はそう思わないのだが、どうしてこうも違うのだろうか」
現在教会に所属している聖女は私を含めて数人いますが、その聖女の魔力の室によって光り方はまちまちです。
王子が綺麗だ、というのはおそらく私の魔力と王子の魔力の波長がよく合っているからでしょうね。そのため落ち目の伯爵家出身の私が王子と婚約出来たのですから。
「さて、これでこのペンダントがお前の物ではなく、ミーシャの物であることが証明できたわけだが、どうしてお前がミーシャの物を持っていたのか聞きたいところだな」
私が王子とやり取りをしている間に、義妹の母である第2夫人も兵士によって逃げられないように拘束されていました。
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