第3話 不自然な聖女


 ※視点が変わります

 ―――――



「は?」


 王宮前へ続く道の前にある門を警備している兵士が素っ頓狂な声を上げる。


「ちょっと聞いてる!?」

「いや、まあ聞いていますが」


 目の前に立つ少女が反応の悪い兵士を捲し立てる。兵士は聞いた上で理解できないからこのような反応をしているのだが、少女にそんなことは関係ないようだ。


「私とお母さまを保護して欲しいの!」

「いやあの、私にそれを決定する権利はありませんので」

「何でよ。だったらほら、これを見なさい!」


 そう言って少女は兵士に胸元にあるペンダントを見せた。少女が自ら胸元を見せたことに驚きと同時に少しの役得感を覚えた兵士だったが、そのペンダントを見た瞬間表情が固まった。


「これが何だかわかるでしょ?」

「聖女認定のペンダント?」


 門番として勤務している兵士だからこそ、それが本物の聖女認定のペンダントだと判断することが出来た。


「早く保護しなさいよ!」


 しかし、目の前の少女は聖女と認定されているにしては態度が悪すぎる。

 聖女として認定されるには純粋に聖女としての才能が必要となるが、それ以外にも必要な物は複数ある。その中の一つが人間性だ。

 まあ、人間性とはいっても、聖女として人前に出ても恥にならないような者であれば問題はない。要は聖女然としているかどうかだ。


 だが兵士から見て、目の前の少女はその点で聖女認定を受けられる者の態度だとは思えなかった。


 だがペンダントは本物だ。そのため兵士は判断に迷った。

 確かに聖女認定を終えてからガラリと態度を変えるような者は稀に出るのだ。この少女もそれかもしれない。もしそうであればこの少女の裏には教会がついている。そのため下手なことは出来ない。


「……保護を求める理由は何でしょうか」


 どうあれ、真っ当な理由があれば一時的に保護は出来るだろう。そう思って兵士はそう問いかけた。


「最初に言わなかったかしら?」

「言っていませんね」

「あんたが聞き逃しただけだと思うけど、もう一度言ってあげるわ! 私は命を狙われているの! だから保護しなさい」


 少女が初めて保護して欲しい理由を述べた。しかし、その言葉から信憑性はあまり感じることが出来なかった。


「誰から、そしていつの話でしょうか」

「お義姉さまよ! 今朝も私のペンダントを盗もうとしたし、取られないように庇った私を殺そうとして来たわ!」


 胡散臭い。少女の話を聞いて兵士はそう思った。

 盗まれそうになったまではいい。しかし、殺されそうになった割に少女は小綺麗ではあるし、ましてや狙われているにしては表情に不安の影は一切ない。むしろ嬉々としてそう語る少女に対して不信感しかない。


「早く保護して頂戴! お母さまもあのお屋敷に居たままだと何をされるかわからないから、一緒にね」

「…………そうですか」


 兵士は本当に困っていた。

 少女の言い分が正しければ保護した方が良いのは事実だ。しかし、まったくもってこの少女は信用ならない。

 だが、これ以上話したところで平行線でしかない。


 そう判断した兵士は少女たちに通行の許可を出した。当然、そうするよりも先に王宮内に少女が聖女であるかどうか怪しい、と少女たちに気付かれないよう報告を入れた上で。


「さっさと保護すればよかったのに、無駄に時間が掛かってしまったじゃないの」


 文句を言いながら少女は王宮前の門をくぐっていった。


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