12話:王の素質(2)

 最下層にて。

 ライヒが片膝を立てて座っていると黄色に光る弾が胸に飛び込んだ。


「雷による高速移動か。痛いな」


 ライヒが受け止めたのは稲妻が走る黄色の丸い液体のようなもの。

 正体に気づくとようやく稲妻が消えた。


「ロートさん、ブラウさんが一撃で倒されてしまって、またシェーン様が死んでしまうって怖くて逃げてきました。そしたらもっとまずくて。俺の処分はどうなってもいいので、シェーン様をお救いください」

「ゲルプか。シェーンが死にそうなんだな。僕で勝てるのか?」

「シェーン様が苦戦しています。加勢するだけでも。もし勝てないなら逃げてください。俺たちが協力しても相手から逃げられません」

「強いのか。このまま迷宮を手放すのもありだろう。いくら悲願のためとはいっても。でもそうか、できる限り勝ちたいのだな」

 

 ライヒは弱気になった自分を否定して。

 ゲルプを抱えて一つ上の階層を目指す。


「違います」

「違う何が?」

「死んだら駄目です。仲間がさっき伝えてくれました。シェーン様は『蘇生の核』を持ってません」

「嘘だろ? 分かった、急ごう。ふざけるなよ、シェーン。会計や書類作成を任せたのは俺だが。……って違うな。そこまでの覚悟か。負けるつもりがないのだな」


 ライヒは叫ぶ。


「迷宮よ、シェーンへの近道を教えろ!」


 ライヒの脳内に声が聞こえた。

 主よ、ここを通れ。

 地面に大きな穴が空く。

 そこに落ちた。

 そこには、ぐったりしたシェーンと二人の冒険者だ。


「遅かった。シェーン、遅れた」

「私、ね。間違ったね。ライヒ様、膝枕して。こう見えて私甘えん坊さんだから。いつもしてるでしょ?」

「ああ」


 ライヒはシェーンの上半身を優しく起き上がらせて膝に。


「ドリットくん、こいつも名前持ち。油断してる今なら」

「ああ」


 この魔族を今なら倒せる。


「僕の負けでいい、アイテムがある最下層まで案内する。シェーンを殺さないでくれ。僕は平和が好きなんだ」


 ライヒは見渡す。


「シェーン、誰も殺してないだろ」

「もちろんですともライヒ様。みんな寝てますよ。時間があるときにみんなで人間の世界に返そうって思ってましたから」

「シェーン、君は防御力が著しく低い一方で魔王ですら称賛する、僕なら一撃で死んでしまうような攻撃魔法を持ってるはずだ。死ぬくらいなら使ってくれよ」

「あの人たちが『蘇生の核』を持っているのか分からなくて。人間の世界ではもっと高価みたいですよ」

「どれだけ高くても君の分は買うに決まってるだろ」

「勝ちたくて。ライヒ様は平和を作る王に相応しいので」

「その隣に相応しいのは君だろう」


 瞬間、ライヒの頭に魔弾が当たる。

 血が流れた。


「シェーンと違って僕は甘くない。それにその貧弱な魔法では仕留められないぞ。シェーンは防御力が著しく低いんだ。攻撃力は僕の比ではないが、人間を殺したくないから殺さないんだ」


 ライヒから黒いオーラが漂う。

 赤い目がドリットとフェルスを睨んだ。


「って、あれ」

「どうした、フェルス」

「杖が使えない。素手でやるしか」

「嘘だろ。分かった、俺一人で。魔弾が撃てない? どういうことだ」


 ドリットはフェルスの手を取る。

 フェルスはもう一方の手をライヒに向けた。


「僕の力は物の声を聞く力だと思っていたがどうやら違うようだな。物が僕の声を聞く力みたいだ。よって杖も魔弾をここでは使えない。僕は迷宮主ライヒ。僕は平和主義でいたいと思ってるが」


 地面から大剣が生えてきた。

 最下層にあった剣を迷宮自身に運ばせたのだ。


「上級魔族相手に素手で戦うのは尊敬に値するが時間がないんだ。大剣で切らせてもらおう。でも僕は平和主義者だ。まだ平和主義でいたいと思っているがどうする?」


 こうして冒険者は帰っていった。


「さっきまで悲願のためって思っていたが、今はイライラするな」

「膝枕しますけど?」

「許さん!」

「さっき久しぶりに部下の力を借りましたが、私の力だけでも熱くしたり寒くしたりできると思います」

「何を言ってる?」

「一番気持ちのいい温度で膝枕できますけど?」

「怪我を治療してからだ」

「ライヒ様、許してくれるんですね」

「次は僕が書類を作る。シェーン、すぐに死のうとするからな。代わりに最下層にいてもらうか迷うくらいだ。どちらにせよ、シェーンには『蘇生の核』を二つは買っておく。シェーン、スライムの王としての責務を果たせ」

「つまり?」

「僕の補佐だけではなく、スライムたちを心配させるようなことをするなってことだ」

「膝枕ってスライムの王の責務ですか?」


 シェーンは楽しそうにライヒを見る。


「補佐として、といえばまた隣に来ようとするだろ?」


 ライヒは笑って言う。


「あ、ライヒ様。私もたまには甘えるので膝枕してくださいね!」

「たまに、である必要などないが」

「ああ、ライヒ様なんて言いましたか?」

「何もだ」

「たまにではなくていつでも甘えに来いって。きゃー! そんなライヒ様も素敵です」

「ちゃんと聞いてるじゃないか」


 ライヒは胡坐になって。

 シェーンを腿の上に乗せる。

 そして、ライヒは大事そうにシェーンの頭を撫でるのだった。



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