9話:冒険者(3)

 リザードマンを倒した。

 ドリットとフェルスは階段を見つける。

 階段を進んで下の階層が見えた。

足を前に出した、そのときだった。

 轟音と共に岩が転がってくる。


「逃げるわ」

「そうだな」


 ドリットとフェルスは慌てて走る。

 ただ髪の長いフェルスは遅い。

 追い付かれる。


「馬鹿が! だから髪を切れと」

「長い方が魅力的でしょ?」

「死にたいのか」

「一度くらいはね」

「金持ちの発想だ」

「物好きの発想よ?」


 ドリットはフェルスを抱える。

 フェルスは腹に回されるドリットの力強い手に、一瞬避けようとしてしまうが、諦めて脱力した。


「重くないか?」

「非力なだけでしょ?」

「ああ、非力だよ。落としてしまいそうだ」

「あら、十歳も年の若い少女を見捨ててしまうのね。美少女の死は世界の損失よ」

「一度くらいは死ぬといいさ」

「死ぬって痛いらしいわ」

「経験してから言ってくれ。今が丁度いい機会じゃないか?」

「また今度かな。振り返って」

「どうして?」

「そろそろ疲れたでしょ?」

「そうだな」


 ドリットは巨大な岩を見る。

 衝突したら圧死してしまうだろう。


「分かったよ、相棒」


 フェルスは杖を向ける。

 そして。


「あ、ドリットくん」


 岩が砕けた。

 それも砂粒のようなサイズで。


「目は閉じた方がいいわ」

「痛い。先に言ってくれ。目に入ったから。くそ、自分勝手」

「分かったわ。先に行くわ」


 フェルスは降りた。

 そして悶えて縮こまるドリットの背中に手を置いて。


「じゃあ」

「悪かったから。フェルス様、水出して水。軽く目を洗うから」

「あはは、鈍いわね。かわいそうに」


 フェルスが水を出して。

 ドリットは有難そうに両手で水を溜めて、何度も目をすすぐのだった。


「あ、ゴーレムよ」

「岩を転がしてすぐにゴーレムか。どうするんだ?」

「ゴーレムには従者がいるわ。そんな遠距離ではないはずだけど。最悪本体が見つからなくいてもいいのよ?」


 ドリットが魔弾を撃った。

 魔弾は必ず必中する。


「中に何かいるぞ」

「何よ?」


 さらに魔弾を撃つ。

 するとゴーレムが砕けた。


「スライム?」

「どういうことよ?」

「おそらくスライムがゴーレムを操っていた。ゴーレムは弱くないし逃げる選択をする人も多い。ゴーレムをスライムが操っているとなると苦戦する人は多いかもな」

「ただ子供騙しで魔弾相手じゃね」

「初心者が逃げるのもおかしくないのかもな」


 もう少し進むとフェルスが楽しそうに駆けていく。


「見て見て。あれ、オークよ? しかもフロアボスの!」

「倒す前に言えよ」


 少女が指差すものは砕けて炭のようになった欠片だった。

 ドリットは背中を掻く。


「話聞いてるの?」

「あ、ゴーレムいた」

「って誤魔化さないで」

「ほら、倒した。スライムで操作するの流行ってるのか?」

「知らないわ!」


 フェルスは杖でドリットの肩をぽかぽか叩いた。



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