8話:冒険者(2)

「あった、あの穴だろ。気味が悪いな」

「ドリットくん、もしかして怖気づいてしまったの? あはっ」

「油断してろ」

「当然よ? 緊張しながらびくびく攻略するよりも油断しながら余裕で倒す方が気分いいわ」


 ドリットは木々を掻き分けた。

 フェルスは杖を動かすと身体を魔法で包んで穴まで。

 一切汚れないようにするための膜のようなものらしい。

 普通なら魔力の無駄だと喧嘩になるだろうが、ドリットは諦めていた。

 もちろん、フェルスの魔法使いとしての強さを認めているからでもある。


「てめえが言うこと聞くとは思えないが油断はほどほどにしろ。魔王軍の四天王、その直属の幹部を一人で撃破したっていってもな」

「幹部を倒したのは最年少なの。単体撃破となるとおじさんおばさんばかりだからね。あ、ドリットくんはおじさんですけど?」

「俺の方が十歳も年上だからな」

「そうね。あ、強いのは認めているわ。私がダンジョンにはまっていなければドリットくんだって単体撃破できてるだろうし」

「どうだろうな。おしゃべりはここまでだ、仕事をするぞ」


 穴に入る。

 中は冷たくて湿っぽい。


「これはダンジョンなのか?」


 足を取られる。

 粘土の高い土、所々水溜りがある。


「これは変だな」

「そうね。準備してるやつがいる。ダンジョンらしさの欠片もない。侵入を防ぐための歩きにくさ。自然とあるようには見えない」

「まるで来るなと言ってるようにも感じる。来ないことが目的、守ることが目的のような。にしては、フロアボスがリザードマン? 理解できないな」

「魔物の気配がほとんどない」

「いや、来るぞ」

 

 ドリットがライフルを取り出して撃つ。

 硝煙が立った。


「花が枯れてる?」

「植物型のモンスターらしい。種を飛ばしてきたり状態異常の花粉を巻いたりする。相手によっては蔦を操る厄介だ。だが」

「迷宮に入ってすぐにいるような相手ではないよね」

「ああ。行こうか」


 迷宮内を進む。

 足場の悪さが疲れさせる。

 

「まるでこれで疲れてくれと言わんばかり」

「ねえ、もしかしてもう何もいないかも」

「花を二匹仕留めただけだぞ」

「ダンジョンにしては長い。けど階段があるわ」

「罠じゃないか? ……って本当に罠ってこともあるのか」


 階段の近くを調べると落とし穴があった。

 穴を掘って作ったような原始的な。


「こんな落とし穴、ふざけているのか?」

「ふーん、そういうこと。魔王軍に見放された魔族がいる、その可能性が高いわね」


 階段を下りて二階層。


「ギュルル!」


 ゴブリンが現れた。


「普段はもっと刃が欠けたような短剣を使ってるイメージだが?」


 ドリットは魔弾を次々と撃つ。


「ゴブリンの巣なのかしら? 落とし穴も簡易的だったし」

  

 フェルスは火属性魔法で吹き飛ばす。


「って、また花の魔物じゃない?」

「おい、フェルス待て。その花は」


 フェルスが炎を放つと、プシュ―と音がして煙が漂ってくる。


「近くに焼けると毒を巻く草があった罠だ」

「つまり毒なのね。『天使・火エンゲル・フランメ』」


 フェルスが杖を煙に向ける。

 煙が吹き飛ぶ。

 ぱらぱらと煤のような粉末が降ってきた。


「毒なんて燃やせばいいわ」

「滅茶苦茶だが?」


 ドリットはフェルスを捕まえて叱ろうと手を伸ばす。

 フェルスは子供が蝶を追うようにして何かに釣られるように歩いていく。

 どうやら気配を見ているらしい。


「ほら見て! リザードマンよ、このフロアのボスみたい」

「おいおい、楽勝じゃないか」

「油断するなよって言ってたじゃない?」

「俺は迷宮攻略に関しては油断などしていない。ただ目の前の敵がフロアボスだろ? 演劇だったら席を立ってるぜ?」

「同感ね」


 ドリットが撃つ魔弾。

 たった一撃で腹部を貫いた。

 そして、リザードマンの身体が崩壊していく。

 呟いている。


「ひきかえせ、かな。空耳かもね。けどあえて私たち人間が分かる言葉で言ってるなら」


 フェルスは口元に手を当てて微笑む。


「そんなに大事な物が下にあるってことかしら? だったらもっと本気で勝てる魔族を呼びなさい。私たち、あなたたちの大事な物、壊すつもりだから」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る